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未来人の恐るべき野望

 彼が立ち上がろうと腰を上げる。
 とその時、彼の腰の辺りからピピピと呼び出し音のようなものが聞こえた。
「なんだ、今から帰るのに電話してきよって」
 彼は腰を降ろし、ポケットから手の平にスッポリ収まるサイズの黒くて四角い装置を取り出す。
 その装置をポイッとベッドの上へ放り投げ、それに顔を向けて話し出した。
「もしもし」
 話しかけ方からすると、その装置は電話のようだ。
 案の定、向こうから若い男の声がする。
「もしもし。トマスさんですか?」
 会話が鮮明に聞こえる。
(俺の指輪の電話よりも便利かも)
「ああ、トマスだ。例の調査の結果は?」
「バッチリです」
「そうか、教えてくれ。そばにルイさんだけではなく、マモルさんも聞いている」
「え? 本当ですか? マモルさんまで」
「お二人に聞いてもらった方が良い」
「分かりました」

「えーと、調べた結果ですが、マモルさんがルイさんのボディーガードになって、ルイさんがうまく指輪を探し出すのがトマスさんの分岐させた最適な運命でしたが、やはり干渉されてその運命が変わっていました」
「誰が干渉してきた?」
「リゼです」
「やっぱりあいつか」
 聞いたことがない名前だった。トマスはこちらを向いて言う。
「実は、リゼとあなたは以前会ったことがありましてな」
「はあ? 誰ですか?」
「接触したはずなのに、あいつに記憶を消されたか。……じゃ、リクという子は知っていると思うが?」
「ああ、あの小学生」
 ミイが『人形ちゃん』と言っていたが、まだ馴染めない。
「リゼは、あの天才プログラマのリクを利用して、この世界を混乱に陥れ、戦争を拡大しようとしていましてな」
「え? 天才プログラマ? あの小学生が!?」
「おや、その記憶も消されている。あなたはリクに会って彼女から秘密を聞いているはずですぞ」
「……覚えていない」
「今はまだ、この世界では小競り合いみたいな戦争が各地で起きている。リゼはそれを揺さぶって、一気に全面戦争にさせるのです」
「馬鹿な」
「リゼに利用されたリクが今まで熱心にキーボードから打ち込んでいたプログラムは、リクの意思に反して-」
 彼がこちらを指さす。
「ハルマゲドンを引き起こすのですぞ」
「……」
「ハルマゲドンとは最終戦争のこと」
「最終……戦争?」
「そう。この世の終わりですな」

 電話の向こうから声がした。
「あのー、続きがあるのですが」
「スマンスマン。で?」
「マモルさんを大怪我させれば、リクという女の子を邪魔する者がいなくなる。それで干渉してきたようです」
「なるほど」
「リクは今日、全自動戦闘システムを完成させます。戦闘だけではなく、作戦もシステムが立案します。それらを全て無人で行うのです」
「恐ろしい……」
「何と恐ろしいのでしょう……」
「なので、リゼはそれが完成するまでに邪魔する芽を確実に摘みたかったのでしょう。今回マモルさんの怪我が回避されたので、リゼの狙いは失敗しましたが」

「ちょっと聞いていいか?」
「あなたは?」
「マモルです」
「ああ。どうぞ」
「リクの邪魔をさせたくないなら、俺を殺せばいい。なぜそうしなかった?」
「実は、リクさんとあなたが恋仲に陥ります」
(ゲッ……三人もカノジョが出来るのか)
「それには理由があって、リゼの手引きなのですが、あなたとリクが結婚して生まれる子供が世界を救う、とリクに吹き込むのです」
「ええええええええええええっ!!」
「あらまあ」
「あいつ、次に何をしよる……」
「最終戦争後の世界の創造ですよ」
「おお、なるほどな。それでリゼはこの世界で神に収まる訳か」
「マモルさん。もしあなたが死ぬと、自暴自棄になったリクがシステムを破壊します。もし怪我をしないと、あなたがリクを説得してシステムの完成を諦めさせます。大怪我なら、その原因が敵の仕業とリゼから吹き込まれたリクが、システムをフル稼働させます。その行き着く先は最終戦争です」
「それで半殺しか……」
「ええ、リゼの狙いはそこでした」
「生きているだけでも幸せですわ」

「もう一度聞いていいか」
「遠慮なく」
「トマスさんのおかげで運命が分岐し、今は俺もルイも元気だ。リゼは失敗したんだよな?」
「はい」
「となると、リゼはこの世界で次に何を仕掛けてくる?」
「トマスさん。本人にこの世界の未来を伝えていいのですか?」
「駄目だな」
 俺は解せなかった。
「何故?」
「この世界にしたのは、このわたくし。導いたこの世界が別方向に動かされることは、リゼがやっていることと同じになるのでな」
「どういうこと?」
「未来を知ったあなたは、きっと自己判断で変えようとする。それはわたくしが分岐させた世界に、あなたが干渉することになるのですぞ」
「……」
「折角あなたとルイさんが無事な世界にしたのに、勝手に動き回られると困る」
「……」
「と言うことでトマスさんのおっしゃる通り、あなたには詳しくお話しできませんが、これだけは申し上げます」
「できるだけでいいから教えてくれ」
「リゼは必ず何かを仕掛けてきます。ルイさんもお気を付けて。マモルさんと同じことを仕掛けてきます」
「承知いたしましたわ」
「マモルさん」
「はい」
「特にあなたがキーマンです。十分行動に注意してください」
「分かった。……ところで、俺の周りにいる他の女の子、救った女の子は大丈夫か?」
「はい。この先、一番危険なのはマモルさんだけです。リゼの狙いはマモルさんですから。他の全員は最終戦争でも生き延びます。以上です」
「ご苦労」

 トマスは電話を切って苦笑いした。
「あいつ、結構お(しゃべ)りだな。いろんなことをペラペラと」
 彼はこちらを見てニヤリとする。
「安心したかね? 全員生き延びると聞いて。……さて、帰るとするかな」
 彼はベッドから降りて床に立った。
「申し訳ないが、勝手に行動されては困るので、この未来がどうなるかはこれ以上伝えられない。ただ、失敗を取り戻そうと魔の手は近づいているので、心して当たるように」
「ああ」
「叔父様。お気をつけて」
「じゃ。お二人とも、ボヌシャンス。幸運を」
 そう言い残して彼が立ち上がると、彼の姿は半透明になり、最後はボゥッと煙のように消えていった。

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