バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

黄金の部屋

 執事は、見た目の年齢にはほど遠いほど矍鑠(かくしゃく)として歩いていた。
 顔は80歳くらいでも筋力は50歳くらい、のギャップがある。
「こちらです」
 彼が開けたドアから(のぞ)いて見えた光景に目が(くら)んでしまった。
(何だ!? 黄金の山か!?)
 部屋から金色の光が放出されている。
 その色に引き寄せられて中へ入ると、今度は目が釘付けになってしまった。
 本当に辺り一面が金色に輝いている。
(これが応接室!?)
 豪華絢爛、空前絶後という言葉が相応しい部屋である。
 天井から壁紙から床までの内装、家具、調度品のどれも金色を基調としている、
 まさに黄金の国ジパングの部屋である。
 唯一、金色ではない物は革張りのソファーだけだった。それが色のアクセントとなって部屋をより一層引き立てる。

 こんな黄金に囲まれて安い弁当を食べるのは大いに気が引けたが、久しぶりに妹と食事が出来て嬉しかった。
 二人でソファーに並んで座り、残念ながら殆ど冷えてしまった弁当を有り難く頬張った。
 連隊の食事に比べると、贅沢なご馳走だったからだ。
 弁当のゴミと空き容器等は、応接室付きの若い執事が片付けてくれた。
 実は、部屋に入った時から彼が部屋の隅に待機していたのだが、始終直立不動でこちらをチラチラ見ているので、妹と話がろくに出来なかったのは残念だ。
 差し詰め、黄金の部屋の番人だ。

「どうぞこちらへ」
 ゴミを捨てに行った彼が誰かを連れて戻ってきた。
 入り口に視線を向けると、驚きのあまりゲホゲホと咳き込んでしまった。
「こ、こんばんは」
「こんばんは」
 昼過ぎに別れたはずのミイとミルが案内されて入ってきたのである。
 二人とも濃い緑の服だが、それは今日別れたときに着ていた服のままだ。
 持っているバッグもそのままだ。
 妹は次から次へと初対面の人物に出会うので、面食らっているようだった。
「お兄ちゃん、誰?」
「ああ、一緒に後方支援部隊で仕事をしたうちの学校の-」
「わ、歪名画(わいなが)ミイです」
品華野(しなはなの)ミルです。マモルさん、こちらのお嬢さんはどなたでしょうか?」
「妹のマユリ」
「ああ、妹さんですか。初めまして」
「は、初めまして」
「初めまして」
 テーブルを挟んで向かいのソファーに彼女達が座った。
「お兄さんには、とてもお世話になりました」
「な、なりました」
「そうですか」
「世話したというほどでもないけど」
 謙遜してはいるが、実は命を助けている。
 でも自慢話というのが昔から嫌いなので、自ら口にするのは()めた。

 その後の会話が続かなかった。
 こうも黄金に囲まれた部屋では何を話して良いのか思いつかないのである。
 汚い連隊の宿舎なら会話も弾んだのだが。
 特に話題が思いつかないので、今の状況に探りを入れてみることにした。
「ところで、ここにみんなが集められたのは何故だか知っている?」
 彼女達は首を傾げるだけで何も言わない。
 また会話が途切れた。
 冷たく光る黄金に囲まれながら、ひたすら会話の機会を(うかが)っていた。

 そこに髪を濡らしたミキが、濃い緑の服を羽織っただけの姿でドライヤーを持って入ってきた。
 羽織っただけなので、服の隙間から白い下着が見えた。
 彼女はこちらを見てギョッとしたようで、慌てて服を正した。
「ねえ、ミキ。ここに集められたのは、何故だか知ってる?」
「さあ。聞いていないけど。……あ、そうそう」
 ミキは急に何か思いついたらしく、手招きして言う。
「ねえ、マモルさん。こっちに来て」
 彼女は応接室を出て行く。俺は後をついて行った。

しおり