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因縁をかけられたので模擬戦に入る


 レインとキャロルは、すりばち状の、コロシアムめいた空間に入った。
 キャロルが、クリスタルのはまった腕輪を構えた。

「血で結ばれし盟約の元に叫ぶ! 我と繋がれ、エルゼ!」

 腕輪とキャロルが光り輝く。
 現れたのは、金色の装飾がところどころについた、白銀の騎士だ。
 キャロル自身の美貌もあって、絵画にできそうなほど美しい。

 キャロルは剣を軽く振るった。
 真空の刃が、一〇メートル近く飛んで地面を割った。
 学年次席の実力と、エリートランクのパートナーが合わさった結果だ。
 今のキャロルは、『千の軍隊も相手にできる魔装使い』だ。
 ステータスもこうだ。

 レベル  230
 HP   2300/2300
 MP   1250/1250
 攻撃   2300
 耐久   1980
 敏捷   2520
 魔力   1900

 敏捷が700もあれば、音速の領域に入る――と言えば、魔装使いの非凡さがわかるであろう。

「これが魔装……すばらしい力だな」

 キャロルが言うと、頭の中に声が響いた。

〈光栄です、マスター〉

 魔装化している時は、パートナーと使用者の意識は共有される。
 レイクは若干気押されながらも、自身の腕輪を構えた。

「血で結ばれし盟約の元に叫ぶ! 我と繋がれ…………」

 そこでふと、自分は相手の名前も聞いていなかったことに気がついた。
 酷薄なことのような気がしたが、構わずに叫んだ。

「我と繋がれ!」

 クリスタルは輝き、魔装と化してレイクを包む。 
 スライムの力が入り込み――。


 力が抜けた。

 
「うおっ、おっ、ごっ……?!」

 三日徹夜したかのように、体に力が入らない。

(………っ?! ………っ?!)

 スライムの子は混乱してたが、レイクには原因がよくわかる。
 弱すぎるのだ。スライムの子が。
 あまりに弱すぎるせいで、レイクを弱体化させている。

「それでは……模擬戦を開始する!」

 教官のアリアが笛を鳴らした。
 キャロルが突っ込んでくる。
 音速を越える突撃(チャージ)は、わずかなる余波で地面を抉るっ!

「フハハハハ!」

 エリートランクの力が乗った斬撃。レイクはかろうじて回避する。
 が――。

 レイクの頬がスパッと切れた。

 風圧だけでこの威力。
 直撃すればタダでは済まない。
 キャロルが鋭く拳を放った。そのスピードは速い。
 しかしレイクが、回避できないものではない。
 が――。

 間に合わない。

 レイクは腕をクロスして、かろうじてガードした。
 体が吹き飛びフェンスに当たる。轟音がして、フェンスがへこんだ。

「フハハハハ! 無様だなぁ! レイク=アベルス!」

 キャロルが狂喜の笑みを浮かべて、レイクに拳を叩き込む。

「ぐっ、うっ……」

 レイクは防戦一方だ。
 まるで亀の子のように、ガードを固めることしかできない。
 ほんのわずかな隙を見つけて、右手を構えた。

「フレイムランス!」
「ッ?!」

 深入りを悟ったキャロルは、本能的に身替える。
 が――。

(でないっ?!)

 お得意のフレイムランスは、なぜかでてきてくれなかった。
 理由はすぐに察知する。

(魔装が足を引っ張ってやがるんだ!)

 それは本来、ありえない。
 どれほどへたれていようとも、元の体よりは強くなるのが魔装化だ。
 このような現状が観測されたことは、かつて一度もありもしない。

 そしてレイクの考えを、スライムの子が受け取った。
 レイクの代わりに、魔法を発する。
 キャロルは右手でガードを作った。

(んっ………!)

 ばちゃん。
 それはキャロルをちょっぴり濡らした。
 もう本当に、右手をちょっぴりと濡らしただけであった。

「フン……。大層な魔法だな」

 キャロルが軽く鼻で笑うと、見学していた取り巻きたち笑った。

『ギャハハハハ!』
『レイくんすごい! レイくんすごいよおぉ!』
『パーティするときゃ、その水芸をよろしくなあぁ!』
(しゅうぅん………。)

 レイクの中にいたスライムの子の魂が、痛いほどに委縮した。
 魔装化しているレイクにも、それは痛いほど感じられた。

 レイクはキレた。
 自分が笑われたことなんかより、パートナーが傷つけられたことが許せなかった。
 魔装化を解除する。

「「「なッ?!」」」

 驚愕している観客や教官、キャロルをよそに――。

「オレのパートナーを笑ってんじゃねぇ!!」

 殴った。

「アアアアッ?!」

 キャロルは軽く吹き飛んだ。
 水面を走る水切り石のように何度も何度も地面に当たり、フェンスに激突して止まった。
 どさりと地面に崩れ落ち、魔装化も解かれる。

「…………」

 会場が静まった。
 誰が――ということもなくつぶやいた。

「理不尽な天才、アンリース・ジーニアス……」

 まさにそういうことだった。
 学年次席の実力者が、エリートクラスのパートナーで魔装化していようが、そんなことは関係ない。
 戦車に勝てる力を得ようと、まったく関係がない。

 だからこその理不尽!


「モンスターの召喚には失敗したが、やはり天才は天才か……」

 そんな声も耳に届いた。

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