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訓練と修行

 勇敢なる召喚魔装士に憧れたレイクは、自分自身を改めた。
 父やメイドや屋敷の近衛兵などの話をしっかりと聞き、ひとつひとつを実行していた。

 朝は毎朝五時に起き、体力作りのランニング。
 それが終われば、屋敷の中で一番腕が立つと言われる兵士・ジャックソンとの訓練。

 元は歴戦の傭兵であったジャックソンは、訓練にも容赦がなかった。
 彼はレイクが、本当に神童であった時期を知らない。
 社交辞令で神童と言われたのを真に受けて調子に乗っているクソガキとしか思っていなかった。

『稽古をつけてほしい……ですか』
『おれ、がんばるから!』
『いや、ぼっちゃん。わたしらの世界ではですね、がんばるって言葉は〈神様のご意志〉って呼ばれてるんですわ』
『というと……?』
『なんとでも言えるっちゅーことです』

 ジャックソンは、木剣を手に取った。

『素振り一〇〇〇回』
『えっ?』
『どんなことをするにしろ、まず必要なのは体力です。ぼっちゃんには、それをつけてもらいます』
『はい!』

 レイクは木剣を手に取り素振った。

『それでは、わたしは別の用事がございますので』

 ジャックソンは去っていく。
 だが実際には、レイクを影から見つめていた。
 ジャックソンの稼業では、相手の『がんばる』は信用しない。
 『がんばった』なら信用する。

 今日がんばったなら、明日はそのがんばりに報いる。
 明日がんばったなら、明後日も報いる。
 そして一年がんばったなら、一年分のがんばりに報いる。

  ◆

 素振り一〇〇〇回をやり遂げた次の日には、雨がざぁざぁと振っていた。
 ジャックソンは、レイクを外に連れだして、訓練用の剣を持たせた。

『外でするのか?』
『ええ』
『雨が降っているぞ?』
『ぼっちゃんは、雨が降っている日に凶悪なモンスターがやってきたら、〈今日は雨だから明日にしてくれ〉って言うんですかい?』

 それは確かに正論だった。
 彼自身、そういう戦いを長らくしてきた。
 しかし七歳の子どもにやらせることではない。
 が――。

『その通りだな……。すまない、今の弱音は忘れてくれ』

 レイクは謙虚にそう言った。
 木剣を取り、ジャックソンに向かってかかる。
 傷だらけ、泥だらけにされようと、食らいつくのをやめなかった。
 そこでジャックソンは、ふたつのことを思い知る。
 ひとつ目は、レイクが真剣であること。
 そしてふたつ目が――。
 

 レイク=アベルスが、本物の神童であることだ。


 間合いの取り方が秀逸だ。
 隙の見つけ方もうまい。
 油断をすると、突きを受けそうになる。
 盾で突きを受けた時も、独特の重みを感じた。

 体力だけは、サボりのツケが如実にでている。
 しかし持っているセンスについては、舌を巻くしかなかった。
 認識を改めたジャックソンは、ちゃんと鍛えることにした。

 父が雇ってくれた家庭教師にも、同じような感想をもたれた。
 彼は一〇万人にひとりの天才と言われた魔術士だったが、その彼をもってして言わしめた。。

「天才ですよ! 彼は!! わたしなどとは、足元にもおよびません!」
「一〇万人にひとりの天才と言われた、Aクラス魔術士のキミから見てもか?」
「一〇万人にひとりということは、一〇万人にひとりは存在しているわけです!
 彼は一〇〇万や一〇〇〇万でも足りません。一億か……あるいは一〇億にひとり!」
「それはすごいな」

 父はもはや驚きすぎて、逆にピンときていなかった。

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