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第三章 取り調べ 3

 ガタっと椅子を蹴って桜木が立ち上がって、ドアに向かって走り出した。そのまま洗面所に向かう。吐き気を堪えられなかった様子だ。

「記録係が気分が悪くなったようなので、少し休憩にする。ところでお前はお湯の味で男女だけでなく、誰が入っていたのかわかるのか?」
「わかりますとも。そりゃぁユッコだけなのか、もしかして誰か男がその湯舟に入ってたりしたらすぐにわかる」

「ふーん、という事は、これまでもたびたびこの女の風呂のお湯は飲んでるんだな?」
「うっ」

「うっじゃないだろう。そんなことして何が嬉しい? 何に興奮できるんだ?」
「僕は、ユッコの出汁が出てると思っただけで、ユッコを自分のものに出来たみたいな気になるんです」
「ふーん、アサリとかシジミの味噌汁好きみたいな体質だな。特異体質っていうか、Xファイル系の人種だよな、もはや」
「喋ったんだから、帰してくださいよ」
「20日したらな。なんか他に特殊技能隠してないか?」
「ありませんてっ。僕が出来るのは誰が入ったお風呂かを当てる事くらいです。ユッコの入ったお湯は美味しいから。最高ですよ。もうそれだけで彼女が「俺嫁」ですね」
「アメリカのホームドラマ『ヒーローズ』にも使えない超能力者がいろいろ出てくるが、お前ほど使えないやつは出てこなかったよな?」
「褒めてくれてるんですか、それ?」
「褒めてるわけないだろう。取り調べは今日はもうやめだ。続きは生活課の婦警とかにやらせる。息が続かん、このまま続けていたら窒息してしまう」
「勘弁してくださいよ。刑事さん、女性の敵とか言われたらなんかの罪を着せられて終身刑とかにさせられちゃう」
「それが正しい日本の秩序を守る道かも知れない。達者でなXマン」
「刑事さん。助けて下さい、正直に喋ったんだから出してください。刑事さん」
「考えとく」
 そう言い残して大打は取調室を後にした。
桜木巡査はその日は、一旦は体調を持ち直した様子だったがやはり、捜査に出るに至らず早退するしかなかった様子だった。大打は取り敢えずパートナーと捜査の歩調を合わせるべく、昨日確変を引いたパチンコ屋に足を向けた。ネオン街の明かりが灯るのにはまだ時間があった。
 よろよろと帰路を急ぐ桜木の頭上には気持ちよさそうに飛ぶひばりがいた。少しでも早い彼
女の復調を願って飛んでいるように見えた。
    第四章 捜査2課 に続く。

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