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第一章 港町署 鑑識課 3

 そこまでの話を聞いた大打は、めんどくさそうに気だるく手を左右に振って聞く。
「鑑識課の経験からすると過去に、密室殺人だと騒がれた死体が単に風呂場で滑って転び、打ち所が悪くて死亡だったと言う事例もあった。転倒した体がたまたま下水口を塞ぎ、お湯が風呂場に溢れかえった。そして、そのお湯に流されて死体の位置が風呂場から脱衣所に移動してしまった。
 それが原因で他殺として扱われた事件があった。警察が初動捜査で他殺と断定し、実は事故だったという例は捜査記録から多々見付ける事が出来る。首吊り殺人と、自殺の判断も同様だ。
 今回は、首に絞め跡が付いているがそれが死因でなかったとしても、その傷が付いてのが被害者の死の前後どちらかなのかは死体の状態からすると必ずしも断定は出来ないと思われる。捜査を混乱させる、間違い易い要因だな」

 大津がしゃべり終わるのを待って、頷いた大打が口を開いた。
「動機が問題だが、殺害自体は単純な衝動的犯行なのかな。死体を隠すことなく置き去りにしているしな」
「その場所で殺害したかった何か理由があるかも知れない……死体を移動してきた痕跡はない」
 大津の説明はどうも決め手に欠けると大打には感じられた。そこで、どこかに突破口はないかとさらに大打は質問を続けた。
「で、凶器に指紋とか検出は出来なかったのか?」
「ないな……泥のついた石からでは指紋はまず拾えないし……試したが」
「他に……何か気になる事は……」
「そうだな……あえて言うなら、特筆すべき事は凶器に使われていた石がただの岩石ではなかった事だ。鑑識に持ち込まれた時、何かの化石のように思えたんで、石に付着していた泥から放射線測定検査をやってみた。そして最近のニュース記録と付き合わせてみた。
 なにしろ殺害現場が遺跡発掘場だからな。
 これは、恐竜の骨だ。プレシオサウルスのような首長竜の仲間で白亜紀後期に日本に生息していたと言われているフタバスズキリュウの化石と思われる。
詳細はもう少し調べてみないとはっきりした事は言えないのだが……」

 大打はやっと手がかりにたどり着いたと感じた。凶器は特定出来そうだ。
「十分はっきりしているじゃないか、それだけ分かれば……」
「この女性は大学の研究員生だ。殺害現場は、最近いろいろと考古学的発見で新聞を賑わしている神の手を持つ発掘王下鴨教授の大学研究室の発掘現場だ。言わば聖域の中で公然と行われた殺人となる。

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