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第一章 港町署 鑑識課 2

「検死の結果が出たんだって……」
「おい、それよりも大事件だ。熊本で檻を破ったライオンが、上野でサイが、旭川でアナコンダが脱走したらしいぞ」
「そんなわけ、ないでしょう。いたずらの合成画像でしょう」
「一概にそうとも、嘘から出た誠ってことわざもあるからな。先日も国会議事堂の上に留まった大型UFOから、緑色の宇宙人が降りて来て、アンドロメダカらのメッセージを読み上げたからな」
「だから」
「日本が相手にしなかったら、アメリカのハリウッドに飛んでったらしい」
「落ちまで付いた話なんですか、それ」
「おっと、無駄話はここまでだ。お前と違って暇じゃないんでな。検死の結果か…」
そう言って、大打は席を立った。
「俺が何を言ったって?」
そう言って大打に声を掛けた刑事が彼のパソコンを覗き込むと、旭川動物園の熊達がお客に芸をしている映像が映っていた。よく見るとその檻の向こうにアナコンダが塀の上を這っていた。

 大打は同僚からの連絡を聞いて鑑識課に走り込んだ。そこには鑑識の刑事の面々が一斉に、ドアに立った大打の方を見た。みんな緊張の表情をしている。
「おう、出た、出ました。結果報告の速報です。この女性の直接の死因になったのは、後頭部への打撃による頭蓋骨陥没です。脳挫傷によるショック死でしょう。その後被害者の女性は首を絞められて窒息という流れですが、その時点ですでに、被害者は死んでいた。首に鬱血の後がない。首を絞めたのは犯人の偽装かもしれません、あるいは同一犯でない場合も……」
 現れた大打の方を見て挨拶もせずに、いきなりこう答えたのは、鑑識課の井村刑事だ。25歳の新人だ。
「なるほど……」
「凶器は、この石だ。」
 そう言って、鑑識課の大津はデスク中央に置いてあるビニール袋に入れてある凶器に使われた石を指し示した。
 彼は殺人事件の現場の取りまとめ役だ。経験豊富でそれだけ鼻が利いていると鑑識の要だ。大打の2期年上で港町署への配属は6年前だ。実力派だが髪はボサボサで、決して身なりに気を使っているとは言い難い。外見とは裏腹に鑑識課の中で観察力、洞察力はピカイチの存在だ。
 大津は言葉を続けた。
「形状からこの石は被害者の後頭部の損傷と形状が一致する。血痕の付着も確認されている。ほぼ凶器と断定して間違いないだろう」
「凶器はどこにあったんだ」
 と大打。
「被害者の血痕が付いた状態で、死体から10メートルほど離れた草むらの中から発見されている。発見は鑑識だ」

 大打は、早く結論が聞きたかった。
「凶器の持ち主は……?」
大津がそれに答える。大打の方に視線を走らせ、
「そこから先はお前の分担だろう。俺が言えるのは、そこいらに落ちていた石っころで、後ろを向いて油断していた女性の後頭部を強打して殺害した経過が予測できるというくらいだろうか……。
 身長は女性が1メートル62センチだから、外傷の痕跡から、犯人は、身長1メートル70センチ以上で、腕力のある男性と考えておかしくないかな。
港町署では刑事課に、事故他殺の両面で捜査に当たるよう刑事課に指示が出されているはずだ。追って事件本部が設置されるだろう」
「両面でって、この状況で事故とかあり得る?」

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