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序章 3

序章 3

 大方昨日の深夜、安い焼鳥屋の屋台でベンチャーの社長を名乗る年齢不詳の髭面のおやじとか、専門学校出のフリーターのクリエーター連中と飲んだくれてたんだろう。親父ギャルでも気取ってな。その屋台で安上がりな女と見切られて、一杯百円の焼酎に目薬入れられて奢られて酒の味も分からずいい気になり、Kポップのカラオケなんかを歌って意気投合し極端に安いナンパをされ、新宿当たりの2丁目の裏路地のラブホに引っ張り込まれて、酔っぱらいの中年相手に出来もしないセックスをしようと、コッソリネットで調べた歪んだエロ知識で興味本位に、訳も分からず背伸びして男に挑みかかったりしてたんじゃないのか? 出来る女を気取ってな!! 
 
 それじゃぁ親父も逃げ出すだろう。それとも出すもんだけ中に出されて、ラブホに置き去りにされご休憩代一人払いか? その頭でっかちで薄っぺらな品性をどれだけ安く売っぱらったら気が済むんだ」
「いきなり、な……何を言っているんですか、大打刑事!」
「ほほぅ、慌てるところを見ると怪しいな。俺の心眼を見くびるなよ。それでもなお違うと白を切ると言うのか?」
「違います! 白なんか切ってません」
「それなら、こうだろう。
桜木はもらったばかりの薄っぺらな給料袋を持ってイオスショッピングモールの特売に行き、
目に付く洋服をあれこれ掴んでは見たが、特売品の選定、判断能力に欠けているため選びきれずに、自分の経験不足とセンスの無さを心底悔やみ、かといって刑事課の安い給料では欲しいと思ったブラウスやスカート、ブランド品のバックにはとても届かず、後先考えずにハンドバックの奥底に仕舞っておいた言わば奥の手のクレジットカードについ手を出し、熱にうなされる様に特売品を掴んでレジに行き、サインをしながら一瞬の充実感に恍惚となって身を任せた。その嬉しさのあまり興奮して腸の動きが活発になり、ショッピングの帰り道に便意を抑えきれずに駅のトイレに駆け込んで散々待たされてなんとかギリギリ用を足した後、不覚にも気が緩み、その浮わついた気持ちの油断から、命より大切な特売品の紙袋の一つ二つをそこいらの洗面所に置き忘れて、タイミングよくホームに走り込んで来た快速電車(下り)にさっさと乗ってしまった。

 気が付いたのは電車に乗って、スマホをいじり故郷の高校のパッとしない同級生のラインのチェックとかし終えた後だ。真っ青になって次の駅でホームに飛び降り、引き返したが後の祭り。買い物を詰め込んだ紙袋はどこにもない。泣きながら駅の派出所に飛び込み、顔見知りの同期の派出所の若い警官に恥ずかしそうにそこまでの事情を一気にコクリ、派出所のみんなに一しきり軽く失笑された後、出がらしのお茶を出されそこに浮かんだ茶柱に、警官たちと一緒にほっと一息ついた。その後、彼らのお世話になって紛失物届けを3時間かけて完璧な調書に仕上げ、お礼を言って派出所を後にし、フグの様に頬っぺたを膨らませ、諦め切れないふてくされたお前は駅とイオスの間をいつまでも終わることのない無限軌道を描いて飛ぶ遊星のように彷徨って、どこかに落ちているかも知れない悲しい運命の紙袋を探していたんじゃあないのか―――――――? えっ! どっちなんだ!」

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