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序章 1

       
           序章 1

 俺の名は刑事大打撃。港町署の敏腕デカだ。
ずいぶん長くこの町で殺人事件の捜査を担当しているが、何時まで経っても一向にこの町は綺麗にならない。
 解決しても解決しても事件はその数倍のスピードで発生して来るからだ。実際、警察もそれら全てにはろくに手が回らないのが現状だ。
 
 人間って奴ぁなんで人生の打開策に、後先考えないで殺人という安易な手段を解決の糸口を求める生物なんだ。こんな薄汚れた生き方が文明国家の都市生活ってもんなのか……。
 一向に綺麗にならないと言えばオレの部屋だ。まず第一に絶対開けたくないのがキッチンの冷蔵庫だ。何しろ一冬、二冬は優に越している強者の腐海製造ボックスだ。
 こうなったらオレは冷蔵庫を潔く諦めて、タイムカプセルにしようとかなり以前から心に堅く決めてはいるのだが……。なかなか実行に移せないでいる。だから今だって危険が一杯だ。
 夜トイレに行こうとして寝ぼけて冷蔵庫のドアをちょっとでも開けたりしたらさぁ大変、その一発で地獄行きっ!

 オレの狭い部屋中に腐海の異臭が広がり、あっと言う間に近所から通報されて腐乱死体処理班と社会保険事務局と殺人課刑事の三点セットがいきなりお出ましって寸法だ。
 三点セットと言えば小学校入学のお祝いに買ってもらうランドセル、勉強机とジャポニカ学習帳は、正に定番の嬉しい三点セットだ。兄弟の多い狭い住宅事情の日本の家庭では、上に兄弟姉妹が居ると、なかなかこのビックなお祝いの感動にあやかれないから残念だ。
 ともすればジャポニカ学習帳だけになってしまう。
この三点セットは簡単に手に入りそうで、それでいて兄弟の関係で最初に生まれる幸運に巡り合わないとなかなか授かれない特権だ。それを手に入れるって事は子供冥利につきるってもんだ。

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