バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

ギャンブル依存症


たった今、俺は最後のチップを賭けたギャンブルで負けた。


誰もいない真っ暗な視界。物音ひとつしない静かな空間。

頭が働かず、だいぶ前から自分が今、立っているのかも座っているのかも分からない状態だった。


「もう賭けられるものはないようですね」
冷酷な声が聞こえた。ディーラーをしているあの女の声だ。


「今日はついていなかったんだ。」
言い訳するように俺は反論する。


「大の大人がそんな情けない言い訳をするとは、泣けてきますね。」
「違う。調子が悪かったんだ。」





俺はなおも主張する。


だが、その発言に意味がないことを俺は誰よりも知っていた。
結果が全ての世界。負けたものは全てを失う。




「こんなはずじゃ・・」
そうこんなはずじゃなかった。一体何がいけなかったのか。




俺は今日の出来事を思い出してみる。



序盤は比較的ついていたと思う。
ポーカーで小銭程度であったがプラスになっていたはずだ。


しかし、一度調子を崩すとあとは早い。あっという間に資金は尽き、俺は一文無しになっていた。



もう少しで勝てるんだ。俺は自分の持っている時計や鞄を質に入れた。
あっさりと負けた。しかも、それだけでは払えきれないほどの額を抱えて。




持っている車、家を担保に勝負を続けた。
結果は変わらなかった。いや余計にひどくなった。





ついには臓器を売ることにした。



次に指、腕、眼球、髪、足。
もちろん徐々に大した値段はつかなくなっていく、しかし背に腹は変えられない。





そして今。







今回の負けで俺は賭けられるものをすべて失った。




「好きにしてくれ。」

俺は答えながら自分の言葉に失笑した。好きにしてくれ?





好きにできる部分など俺には残っていない。

既に頭蓋骨まで売ってしまった。







今や取り付けられた電極を媒体に、電子信号で何とか会話ができる程度。







培養液の中でプカプカと浮かぶ脳みそに何の価値があるというのだ?


しおり