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其の二 癖の強さが売りなんぢゃ♡

「ブワっ、冷たい」
「なんぢゃ、死んでしもうたか!」
「ココが、極楽?」

 アタマから水をぶち撒けられて、気がついた三人が思い思いに第一声。


 ソコに佇むのは、美女とも見まごう程の端正な顔立ち。金髪の緩やかなウェーブヘアを、風にひらり揺らすアンディ閣下を見て、更に驚いた。

「わわ、なんぢゃ、舶来物の将校しょうこうぢゃ」
「騎兵ぢゃ、騎兵ぢゃ、格好がええのう」
「ワシラ、なんで此処ここに居るんぢゃ……」

 アンディ閣下は、顎で部下に指示し、三人を立たせた。

「名を名乗れ」

 アンディ将軍の側近、ウォルフガング将軍。 

 イカツイ名前とは裏腹に、銀髪は腰まで伸ばして編みこんであり、毛先は真赤なリボンで添えてあった。白銀の真ん丸の肩当ては、その美しい顔を全面に乱反射させていた。

「ワシは、誠」
「ワシは、剛」     
「ワシは、大悟」

 舶来物の女に見とれて、半開きの口で返事をする三人。

「マコト、ツヨシ、ダイゴ……呼びにくい名前だ。聞いた事の無い響きだな」
 ウォルフガング将軍は、三人の前を歩きながらそう呟いた。

「おい、剛、見てみアノ乳、舶来金髪の乳ぢゃ、此処は極楽ぢゃ、きっとそうぢゃ」

 アンディ閣下は馬を降りて、三人に歩み寄った。その歩く姿だけで、阿呆の三人の心を打つには十分だった。
「よし、敵国の者では無いのだな、我軍に迎え入れよう、人手はいくら有っても構わん」

 涎をタラし、馬鹿面を晒した剛が一歩前へ出て尋ねた。
「此処は、一体……京都の川で鉄砲水にあって、ソレからの記憶が、一切無いんぢゃが……」

 ウォルフガング将軍が叫ぶ。
「下がれ! 此処はロンベルト王国、西暦三千年より始まった、世界紛争の真っ只中である! その事を知らんとは一体お前たち……」

 三人は口々に、戸惑いながらも言葉を発する。

「八瀬はちせ村ぢゃ……ソコの生まれじゃ」
「明治ぢゃ無い……西暦三千? 明治は西暦何年なんぢゃ、知らんぞソンナ事」
「シカシ、うぉるふがんぐ将校の乳は、甲冑の上からでもデカイのが分かるのう、春画で欲しいのう」


 ウォルフガング将軍はそんなことを意に介さず、続けた。
「流れ者か……その黒髪と汚らしい服装よ……誰か、こやつらに歩兵の鎧でも与えよ」

 統率された軽鎧けいがいの数人に囲まれて、馬に乗せられた。ウォルフガング将軍を先頭にして、近くのテントまで運ばれる。

「貴様らの言葉は良く分からん、此処に言葉の学問の先生が居られる、アルフレッド・バーン先生だ。少しこの国の言葉を学び給え」

 そう言いながら、鎧を脱ぐウォルフガング将軍。下着には、たわわな陰影がしっかりと映る。鎧を脱いだ反動で、その双丘そうきゅうは、柔らかく跳ねまわり、行き場を無くして今にも零こぼれ落ちそうだった。
 銀髪が流れる腰は、キュッと閉まっていて妖艶。緩いカーブを描きながらの豊満なヒップは、完全に熟しきらない桃。張りのある太腿は、軍人とはいえ女、誘惑げにスラリと伸びていた。白肌のふくらはぎから、足首のライン、そして小さな足……幾千の戦を勝ち抜いてきたであろう。締りのある産卵期の魚の様なふくらはぎのシルエット。そして……

「おい、聞いておるか? 三人」 
 アルフレッドバーン先生の咳払い。

「あるふれっどばあん、なぞ、長いのう」
「よう覚えきれんで困るのう」

 アルフレッドバーン先生が呆れ顔で、
「ではイニシャルでAB、そう呼びなさい」

「イニシャル? なんぢゃそれは」

 言葉の通じない三人にアルフレッドバーン先生は言葉を探す。
「頭文字、で解るかな?」

 首を傾げる事すらせず、指をいじくりまわしながら答える三人。   
「なんぢゃ、頭文字を取って、えぇびぃ、か。いろはにほへとの、いろ、みたいなもんかのう」


 アルフレッドバーン先生は着替えている三人にこう提案した。
「そうだ、君たちの名前の発音がし難がたいと、閣下が仰おっしゃっておる。故ゆえに此の国にふさわしい呼び名を付ける」

「呼び名? ワシラもえぇびぃ、ナゾ付けられるのかのう」
 段々と小奇麗に成って行く三人、白いシャツに皮の腰巻き、銅の肩当てを付けるとまあ、それなりに見えた。

「まずは、誠、なるほど誠実という意味か。昔使われていた言語、英語に直すと……そうだな、トゥルー、キミはトゥルー」
「ワシが? トゥルー? ナンダカ恥ずかしいのう」
 頭を掻きながらもニヤニヤとする誠、イヤ、トゥルー。

「そして、剛、剛力、強さという意味か。……キミはストロングだ」
「すとろんぐ? ストロング。なんか照れクサイのう」
 軽鎧けいがいに着替えて、腰に剣を挿してニヤつく剛、イヤ、ストロング。


「そして大悟、コレは閣下が呼びやすいと仰られた、故にダイゴ」


「ワシだけ、変わらんのかい!」

 そう言いつつも、装備が済んだダイゴは、些いささか凛々しく成っていた。

「最後にその、癖の強い言葉を直して頂こう、それから剣の技を伝授しよう」


 

 ▼




 ――アルフレッド先生の指導のおかげで、みるみる剣技も言葉も上達していった。
 毎日鍬を振っていたのだ。ソコに十分な食料に水。年貢の心配もしなくていいと有っては、剣術も言葉も吸収するのは容易たやすかった。

「なあ、ストロング、俺、この国に流されて思うんだ……一度は死んだ身、もう一度、花咲かせようと思うんだ」
 ビュッビュと、風を切る長剣、汗すら滲ませず、数千は振っていた。


「そうだな、トゥルー。一回捨てた命だ、燃やし尽くしてこそ命だな」
 ブンブンと唸り風切る大斧。息を乱すこと無くコチラも数千は振っていた。


「そうぢゃ、ワシも京都では鬼みたいな顔じゃと恐れられてたんぢゃ。この国で一旗挙げようぞ、アノ舶来金髪のウォルフガング将校の乳の為に」
 明治から持って来た愛用の鍬を、汗だくでハアハア言いながら振るダイゴ。


「いや、ダイゴだけ言葉が直って無いんかい! しかも頑張る理由の癖が凄い! そして武器が鍬くわ!」


果たして、ダイゴの鍬は、コノ国を救うことに成るのだろうか……

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