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 研究所らしく白を基調にした内装は、見るものに清潔感よりも潔癖な印象を与える。行きかう人々も多くは白衣をまとっていて、それ以外は濃紺のスーツを着ているのが大半を占める。前者はハイジアを管理し、後者はハイジアを運用する部類の人間だ。

 素裸のハイジアを気に留める人間は、ここにはいない。故に衣服が用意されているはずもなく、代わりに無線機器などの備品やDNAサンプルを回収するための窓口が、エレベーターの隣に設置されている。

 ヴィオレは地上から持ってきたものを全て窓口に差し出すと、裸のまま廊下を歩きだした。リノリウムの床が足裏に貼りつき、ぺたぺたと気の抜けた足音が鳴る。

 角を二度も曲がれば、科学者たちの研究室が集まる区画へ出る。研究所の潔癖さはここでもいかんなく発揮され、無個性な扉の群れが廊下の両側に並んでいる。

 左手側、数えて八番目の扉が、ヴィオレの目的地だ。

 御堂、とだけ書かれたドアプレートを確認し、ノックしてから入室する。

「ヴィオレ、戻りました」

 簡潔な言葉ののち、吸い込んだ空気には薬品の匂いの他にかすかなハーブの香りが混ざっていた。無機質な会話ばかりしていたヴィオレの緊張を解きほぐす香りは、浅間にいくつ研究室があろうともここ以外には存在しない。

 部屋に入ってすぐに見えるのは、細胞の培養やDNAサンプルの解析を行う作業場だ。薬品棚やコンピューターなど、作業に必要なものが椅子に座ったまま手に届く範囲に収まっているものの、部屋の主である科学者の姿はそこにない。

 室内に入って扉を閉めれば、部屋の右側、メインスペースが視界に入る。ローテーブルを挟んで二人掛けソファが向き合っている応接用の構造は、しかしてその用途で使われたことがない。ソファに転がっているパステルカラーのクッションは、ここがハイジアである少女たちの領域だということを如実に表している。

 部屋の主がいるのは、その向こう側。

 簡易キッチンとハーブの栽培キットが並ぶ、生活感溢れる場所だった。

「あぁ……おかえり。服は用意してあるよ」

 白衣をまとった青年は、ヴィオレの姿を見とめるなりそう言った。

 一糸まとわぬヴィオレを見て表情を曇らせたのは彼──御堂祐樹だけで、実際青年は同業者から変人扱いを受けている。

 ただ一人、ハイジアをヒトとして扱う人間として。

「まったく……外へ繋がるエレベーターなんて君たちしか使わないのに、いまだに更衣室のひとつも作らないとはね」

 独り言のようにぼやく青年に同意していいものか悩みながら、ヴィオレは出入り口からもっとも離れたところにある簡易ベッドへ向かう。カーテンで周りを囲める作りになっていて、ちょうど御堂の立っている場所からはベッドが見えないようになっていた。

 シーツの敷かれたマットレスの上に、ヴィオレがいつも着ている服がたたんで置いてある。上はスウェット素材のパーカー、下はキュロットスカートで、その下に下着類とニーハイソックス。ロングブーツは床に並んでいた。

 淡いピンクや落ち着いたブラウンを中心にしたコーディネートは、他のハイジアがヴィオレの髪や瞳に合わせてそろえたものだ。

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