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第十一話『煽り界ヘビー級チャンピオン鏡望代』1/6

◆【教室】
生徒「竹原本当にいい加減にしろって」
生徒「一回俺、ビシッと言ってみようか?」
生徒「やめとけ。あいつヤクザの息子だろ」
生徒「ダッサ。なんだそれ。町のために頑張ってる良いヤクザってヤツ?」
生徒「バカ。六道組だよ」
生徒「え……」
生徒「……」
生徒「つ、次の授業の準備しようぜ」
生徒「お、おう」

斬「……」
マサの様子が、おかしい。
ずっと隣にいる斬はその変化に気づいていた。
タイミングは二階堂春樹という人物との対戦。

あの時、どういったやりとりがあったのか?
もとい、マサがおかしくなるやりとりがあったはずだ。
ボクと恭介は無線でやりとりを聞いていた。
全てはマサの予想通りの展開で大金をゲットし報酬に加え食事。焼き肉を奢ってもらった。

斬「……」
奢ってもらった――誰に?
銭の化身とも言われるマサが奢ったのだ。
斬「……」
だがそれ自体は特別に珍しい事でも……ない。
大勝ちした時は食事を振る舞うケースもなくはない。それも二百万円。大金だ。
あの時は寝不足だからと元気がなかったが……それからのマサはおかしい。
ギャンブルの打ち方の変化。
昔の仲間と称した人物への挨拶。
焦りや怖さをマサから感じるが、それ以上の何かも感じた。

まるで、今から死ぬ準備をするような……。
――死相。
そんな物があるのか考えた事もなかったそれが、あの時、確かに見えた。

斬「……」
マサが言うなら、従う。
泣き言を言ってほしい。
弱音が聞きたい。
慰めたい。
竹原正明はそれをしない事はわかっている。
男の見栄とかでなく、明確に定義されたわけじゃないがボクらは"それ以上踏み込まない"という暗黙なルールがある。

時折、感じる事がある。
モチ。恭介。それとマサ。
人と人との間の"壁"を大事にする彼らと、自分は違うのだと。
それは地元が違うとかノリが違うとかでなく、なんだろう。

まるで、それ以上は踏み込まないと互いが予め決めている境界線のような、見えない壁がある。
他人行儀なみんなが逆に信頼の証にも見える。
そんなマサが推測通り危ないギャンブルをするならば逆に自分を遠ざける事を選択するだろう。

斬「……」
マサとずっと一緒にいるボクが誰よりもマサを知らない。
モチや恭介と、あとこの前の人……裕太郎さん、だったか。
斬「……」
そういえば、なんでマサは一人暮らししているんだろう?
知り合ったばっかりの頃聞いたら、田舎から上京したと言っていた。
その時は納得してしまったが……冷静に考えればおかしい。

モチや恭介と同じ中学校……或いは、中学の頃から知っている。
母親は? 生活費は? アパートの名義は?
一度考え出すとどんどん膨れ上がる。
ボク、何もマサの事わからなかった。

斬「……」
或いは、マサは昔から"マサ"なのだろうか?
自由や我儘という言葉では表現できない人格は、例えば創られたものだとしたら――。
斬「……なんてね」
それこそ整合性がない。
良い子を演じる事や逆に誰かの気を引くために少し悪い事をするならともかく人としての感覚がおかしいマサには理由がない。
モチだってそうだ。きっと生まれついて性格が悪いのだろう。

斬「うん」
とにかく、ちょっとモチに聞いてみるか。
「マサは、どういう子だったのか」
斬「……」
それを聞いた時。踏み込んだ時。
ボクを――今のマサと同じ距離に居させてくれるのだろうか?
……うん。
きっと、その変化を恐れて、ずっと踏み出せなかったんだと思う。
椅子から立ち上がり、一歩。踏み出す。顔を上げる。
マサが言うなら、どんな事でも従う。
だから、マサは正しくなってほしい。
四光院斬は鏡望代のいる別棟へと向かった。

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