第十話『あの人』2/3
◆【教室】
教師「えー、この範囲は年末テストにも出るので……」
ガシャアアアアン!!!
教師「ひぃ!?」
突如として宙を舞った机がそのまま地面に叩きつけられて二度、三度と残響を響かせる。
全員「……」
室内中の視線が集まる先は、机を蹴飛ばした張本人。
正明「――」
正明「うぅ――リバイアサーーーーン!」
生徒「……」
正明「……」
正明「あー……ヒヒヒ、滑った。チッ」
そして問題児は何事もなかったかのように教室を出ていった。
教師「……」
生徒「……」
斬「マサ……」
◆【廊下】
あーーーーー~~~~~~ーーー!
なんだこれ。
こんなクソみたいな夢見させるほどに、終わってんのかよ。
オレの中に、入ってくんじゃねえよ――!
どこだ? 誰だ? なんでだ? いつ?
入ってくんじゃねえ――!
吸い寄せられたのは憂ちゃんだ。
苛つかせたのが男女で――ここまでは、竹原正明だった。
あの日、策もなしに運ゲーを挑んできた春樹に……オレはビビった。
狂気を求めたはずのオレが、こんなはずじゃないと、現実に恐怖した。
払拭できないまま、毎日過ごしていたけど、小骨が引っかかった感じがしてて、それでも見ぬふりをしてきた。
得体の知れない憂ちゃんよりも恐怖を抱いた相手。
日本ナンバーワン。プロポーカープレイヤーの頂点。
二階堂春樹。
相手は頂点だ。ポーカー覚えたての素人が何を言っているのか。
心のどこかで、そうやって自分の弱さを正当化しようとしていて、
その恐怖の対象ごと圧し折ったクソチビが――
木葉「正明じゃない。あんた何してんのよ」
正明「……ッ!」
風雪木葉――!
正明「……ッ」
条件反射で口を開くが――声が出ない。
木葉「ふふん? これ? ディアストーカーハット。しかもこれこの風雪木葉オリジナルよ! 見なさい。ここに『風』のロゴがあるのよ。あたしがデザインしたのよッ!」
木葉「ふぇ? そういえば今って授業中よ。あんた本当にヤンキーね。金髪にしてパーマにしなさいよ」
正明「……ッ!」
アホ。クズ。カス。チビ。チケット返せ。金出せ。土下座しろ。
オレそれを言う資格がある。
いや、資格じゃなく、
竹原正明ならば"言わなければいけない"。
あ?
言わなければいけないって、なんだよそれ。
まるで資格じゃなくて"義務"。
義務って事は――。
やめろ! そこに行くな!
木葉「ちょうどいいわ。今から車買いに行くのよ。あんたも暇ならついて来なさい」
木葉「昨日斬と話してレースする事になったのよ。この間ちょうどいい山買ったから、そこでレースゲームするわよ。30km制限ならぶつかっても大丈夫でしょ。バナナでも亀の甲羅でも好きな物投げていいわよ!」
そもそも、だ。
ポケットにある、WSOPのチケットを張るのであれば――。
『ヒヒヒ……いいか、よく聞けよ金髪チビ』
『オレは、絶対WSOPで優勝する……ッ!』
あれは、ギリギリの所で"オレを保った"と思ったが……ああ、そうか。
そうじゃない。
現実を先送りにして目の前から逃げただけだ――。
だってそうだろ。
本当にムカつくならその場でもできたのに……。
今だってそう。
目の前の暇人なチビごときを煽れないなんて……!
木葉「なに黙ってるのよ。ふふん。この帽子が欲しいのね」
木葉「あげないわよ。あははッ!」
やめろ。
木葉「ほら。行くわよ。あんたも好きな車選んでいいわよ」
ぐいっと腕を組まれて引っ張られる。
触るな――!
オレと木葉は、友達じゃなくて――!
同じだ。あいつと。憂ちゃんと同じで――。
いや、それよりも前の記憶。
『あの人』
あの時と同じで。
誰もオレを見てない……!
誰も、竹原正明を見ていない――!


