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第八話『竹原正明ってなんだ?』2/3

漫画を見ながらしばらく時間を潰すと、入り口から個人の客が来店したらしい。
顔を上げると。
坂口「よう」
正明「……あ?」
坂口「子供はおねん寝の時間だぞ」
坂口「で? お前は何やってんだ?」
正明「チッ……」
一瞬で壁に距離を詰めると、もしもの時に予め想定していた窓を開ける。
正明「おいカス店長。てめえ渋沢返せ」
これ見よがしに届かないテーブルにひらひらと万札を置く。
坂口「正明。ここ三階だぞ」
正明「で?」
窓の縁にしゃがみながら下を確認すると、わざわざお迎えにいらっしゃってくれた保護者様に視線を合わせる。
坂口「おいやめろ。下手に落ちたら死ぬぞ」
正明「命を大事にしろとか口走る暴力団とか頭おかしいんじゃねーの?」
坂口「ああ? 正明。お前それ俺に向かって言っているのか?」
正明「うるせえよ。今ギャンブル負けてイラついてんだよ」

『今ギャンブル負けてイラついてんだよ』
自分の言葉が自分の中で反響した。

正明「……」
ちょっと待てよ……。
本当にオレはイラついているのか?
100万円相当のチケットを博打で負けて奪われた。
その事実一点だけで考えれば、経緯はとにかくイラつくに決まってんだろ。
もしくは……竹原正明ならイラつくだろう……って?
正明「……」
自分の感情がわからなくなってくる。
じゃあなんだ? オレは本当はイラついている"フリ"をして。
在るべき竹原正明の演技をしているって事なのか?

正明「……」
仮説を立てるとして、
木葉はオレの友達だから負けても気にならな――なるわっ! 100渋沢やぞ殺すぞクソガキ!!!

じゃあ友達は抜きにして、圧倒的な実力差で……。
っていうかあれ、本当にギャンブルだったのか?

八百長木葉。

正明「……」
仕掛けが"あってくれ"。
それでそれを名探偵のように暴いて、ハリボテがバレた木葉を足蹴にしながらシャンパンを開けて……そんな妄想、

坂口「おいどうした? 怖くなったなら――」
怖い?
ああ……。
ようやく今の自分の状況を思い出した。
ここ三階。ちなみにこの高さから人間が落ちた場合、実はそこそこ死なないらしい。
もちろん死なないっていうだけで凄く痛いんだろう。
ジャンとの鬼ごっこのおかげで、こういうアトラクションにはもう慣れているのでほぼ無傷で降りれる。
正明「……」
でも。
もし失敗して頭から落ちたら死ぬかもしれない。
正明「……」
こわい?
別に。そりゃ失敗したら死ぬだろ。当たり前だ。んなの全然怖くねーよ。
正明「……?」
え?
死ぬのが、怖くない?
ああ――そうだ。怖くない。

で、だ。
じゃあなんなんだコレは。

あん? 待てよ。
怖いって、なんだ?
恐怖すること。恐れること。

怖い。
こわい……なんだ? おかしい。

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