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第六話『VSノルンの妃』9/9

見せ場も駆け引きもなく、運という不条理な強さだけで蹂躙されてゲームは終了した。
それは、本物。
世界最上位プレイヤー。

木葉「こんなもんよ――あんた達なんて」
静かになったテーブルから立ち上がる金髪の少女。
もはや彼女と視線を合わせられる物はいなかった。
正明「……」
春樹「……」
いつもの口調のいつもの挑発。
そんな安い煽りでも苛立ちを覚える事すらも叶わない。
テーブルの上に置かれているWSOPのチケットをひょいと奪われる。
正明「……ッ!」
木葉「安い挑発は不問にしてあげるわ。これは貸しよ、正明」
正明「……」
なんだ……なんだこれ……ッ!
何も……なにも、できなかった。
ポーカーじゃない。
駆け引きもなにもない。
カードをめくったら木葉が勝つだけ。
イカサマプログラム相手にバカラをやっている感覚。

――勝てないんだ。

春樹「……」
とんだ、思い違いをしていた。
昔ゲームセンターで脱衣麻雀をやった時、有無を言わさず天和で100円没収された、あれだ。

何故キニー・ブラウンは風雪木葉に反旗を翻さないのか。
どうしてこんな単純な事もわからなかったのか。
日本最強と畏怖される二階堂春樹であってもテキサス・ホールデムで負けた事なんてしょっちゅうある。
囲碁や将棋などのボードゲームじゃない。100回やって100回勝てるゲームじゃない。
世界に出れば自分よりも上のプレイヤーだってゴロゴロ居て。
だけど、だけどこれはあまりにも――!

『私ら凡人にはわからないさ。吸い寄せるのさ』
突如頭を過ぎった言葉――原初の魔女が口にした呪文。
なるほどね。そっか。凡人にはわからないわけだ。

――格が違う。
これが、クラス保有者の実力。

木葉「クラス保有者として頑張りまーす」
木葉「さっきインタビュー言ったあれ、まさかあんた達、真に受けてたの?」
得意気に。それでいて苛立ちながらピシャリと言い放つ。
木葉「世界最強のポーカープレイヤー13名。名前が何人か挙がるわ」
木葉「イルデブランド。ユーリ。バーニー。スヴェトラーナ。ハルトムート。薩摩。イヨン。バルテレミー。ジャオ。レイン」
木葉「その筆頭――最強の中の最強と言われるアデバヨ」
木葉「そのNO1プレイヤーを飼うアマヤ……だったかしら」
木葉「ふふ……ふふふ」
木葉「あはははは!」
木葉「あたしは風雪木葉よ!」
木葉「CK? 世界ランカー? 最強?」
木葉「バカじゃないの! そんなんでこの風雪木葉に勝てるわけないじゃない!」
木葉「がん首揃えて最強さん座らせなさいよ。あたし一人で全員まとめて蹴散らしてあげるわ!」
正明「……」
春樹「……」
これが、本物。
伝わってくる。CK相手にも負ける気どころかチップを失うビジョンすら持っていない。
そんな事あるわけないと思う反面、それに頷いてしまいそうな自分がいた。
最強を誇示する事がだれだけの恐怖か。

出る杭は打たれ、狙われ、蔑まれ、最後は鎮火する。
普通はそう。どのスポーツでも分野でも、周囲から最強と呼ばれる者は誰であってもビジネス的な意図を持たない限り自らが最強だと決して広言しない。

目の前の少女はどうだ?
少なくとも、ポーカーテーブルを眺める事しかできない僕ら凡人とは決定的に違う。

木葉「正明。再戦したいならあと一回だけ相手してあげるわ」
木葉「あんたもう一枚、チケット持っているわよね?」
正明「……ッ!」
このガキ……ッ!
勝てない。
見たくない物を突きつけられた以上、乗れない。
竹原正明が、煽りに乗れない。

それは、あってはならない事なのに……ッ!
絶対に、あってはならない事なのに――ッ!
あっては、ナラナイ――
ナラナ――

正明「――WSOP、だっけ?」
声を。
ギリギリのギリギリまで絞りあげて、声を捻り出した。
正明「世界大会さあ。木葉も出るんだよな?」
木葉「今回だけよ。一回だけ優勝したら次回からは出るつもりはないわよ」
ッハ、そうかよ。
正明「ありがてえ――なら、当日遊べんじゃん」
木葉「ふぇ? 遊べないわよ。予選はあたしAグループなのよ」
正明「つーことは決勝だな」
木葉「あははは、あんたもたまには面白いわね。あんた程度が決勝なんか上がれるわけないじゃない」
木葉「でも頑張れば……そうね。運が良ければあたしの前に座る事ができるかもね」
正明「ヒヒヒ……いいか、よく聞けよ金髪チビ」
正明「オレは、絶対WSOPでお前を殺す……ッ!」
木葉「はいはい」
正明「……ッ!」
木葉「あんた一度笑いとれたギャグを繰り返すのやめなさないよ。あんたの悪い癖よ」
木葉「あ。そういえば仕事の関係者から蟹渡されたのよ。あんたこういう高い食材好きでしょ。持っていっていいわよ」
木葉「んー……そうね。鍋パーティーなんてのもいいわね。斬を呼んで今度みんなで囲みましょう」

――視界にも入らない。

春樹やラシェルとは違う、まるで、オレを石ころかなんかだと思っている。
大人が小学生を諭すような、そんなふざけた視線を――。
正明「……ッ!」
そういや一人居たな……!
あのクソメンヘラと、同じステージってわけかよ。
木葉「今日これから斬とカラオケ行く予定なの。あんたも暇なら顔出しにきなさいよ」
そのまま部屋を出る友達を止める事はできなかった。
友達。
オレはこのゲームをしている間、こいつを敵で、獲物だと思っていて……。
正明「ぐ……」
正明「……」
正明「ぐぐぐぐぐ……がああああああああああ!!!」
正明「ああああああああああああああああ!!!」
レイナ「……」
工藤「……」
正明「クソ! クソが……ッ!」
正明「殺す……あのガキ……!」
その呪詛はどこか虚ろで、そんな事ができないと諦めが混じっているのが喋っている本人が一番理解していて、

正明「殺す……ぶっ殺すんだ……許せねえ。許せねえ……」
頭の中を蠢く蟲を掻き出そうとする行為に近い。
正明「許せねえ……このオレを……あんなの許しちゃダメなんだ……!」
春樹「……」
凡人には、そんな事はできない。
それを知っているのに。
だからこそそれを必死で拭おうと言霊を作る。

正明「クソ……クソ……クソが……ッ!」
竹原正明は聡い。
残念な事に、現実が直視できてしまっている――。
春樹「……」
そういう意味では、僕も同じかな。
最近は日本最強だのちやほやされていたが、結局僕は凡人で。
長い間忘れていた、当たり前の常識をどうやら僕は忘れていたらしい。
人は、化け物には勝てない。

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