第二話『CRポーカー物語の野望』2/2
キニー「――フフ。悪いクセですね」
キニー「いやね。私はどうも未熟なようで。意味の有無を語りだせば、その選別者が誰なのか。まるで自分が神とでも言うのでしょうか。本当に烏滸(おこ)がましい」
富士見「申し訳ございません。話の意図が見えません」
こういった抽象的な表現に迎合しない富士見だからこそ、キニー・ブラウンは買っていた。
キニー「いえ、こちらこそ大変申し訳ございません。ただの独り言です。ポーカープレイヤーの職業病とでも思い生暖かい目で見守って欲しいものです」
意味がない事。素晴らしいじゃないですか。
完璧も満点も及第点。
何故ならズバリ、主語はテキサス・ホールデムなのだから。
キニー「我々はIR(インテグレーテッドリゾート)までの広い範囲ではなく、とても狭い、しかし中枢であるカジノ事業を手にしました」
キニー「風雪お嬢様を初め多くの役員が肩を落としましたが、元よりカジノにぶら下がるだけのショッピングモールなど必要ないのです」
富士見「……」
富士見の記憶ではそこまで取れると本気思っていた強欲な人物はその風雪お嬢様だけであったが。
キニー「全ての店舗から場所代として"売上の5%"でも取ろうものならビッグ・ビジネスになる――」
キニー「その発想そのものが誤り。我々の目的からすればもはや端金。小銭とでも言い切って良いでしょう」
富士見「……」
富士見(この中抜きを端金扱い……)
富士見はキニー・ブラウンの言葉をゆっくりと組み立てて思考する。
富士見「IRでは1,000を超える店舗よりも1つのカジノがそれらすべての売上を上回ると聞きましたが、それが本当であれば確かに5%という数字より……」
キニー「――違います」
ピシャリと言い放つ。
キニー「強力な収入源を誇るカジノ事業と同レベルのビジネスモデル」
キニー「それをもう一つ手中に収めるのです」
富士見「……え、は?」
言葉の意味は伝わったはずだが、理解ができない。
同レベルのビジネスモデル。
数千万や数億単位の普通のビジネスじゃない。
それは、兆単位の金が動くカジノ事業と同レベルのビジネスを増やすと言っているのだろうか?
富士見「ポ……あの、それがこんなポーカー大会をすることで、でしょうか?」
半笑いになってしまったが、相手のキニー・ブラウンは表情を崩さずどちらともとれる含みのある余裕の笑顔。
キニー「もっとも私の思い描けるシナリオは少々長い道のりになります」
キニー「CR事業。それに付随する……そうですね。命名するとすれば――」
キニー「"CRポーカー物語"」
富士見「……」
それに近い話しは聞き覚えがあった。あったが……正直、スケールの大きさが全く乖離していた。
富士見「以前お話されていたダークヒーローの話しでしょうか」
キニー「その通りです。もちろん、それは一例ではありますが」
富士見「つまり、CR事業。付随するマネーロンダリング。それに続くのが……」
キニー「過程ですよ。その先の答えに辿り着くために、CRポーカー物語が必須なのです」
富士見「……」
キニー「いずれ最終段階まで行けば、莫大な収入装置を我々は保有することになる」
キニー「それをフル稼働させ、日本国から付随するアジア全ての富を得る」
キニー「その後、その富を全ての日本国、もとい日本国民のために使い圧倒的な支持を得ます」
富士見「使う……国民へ還元?」
わからない。
富士見は、この男の見ている世界が何一つわからなかった。
キニー「一企業から一流企業。そして半国営企業。その先の先の先」
キニー「日本国は我々に依存する。その時、WS社は会社の枠を超え、国家の一部と呼べるでしょう」
富士見「…………」
言葉がなかった。
酔狂とも思える妄言。
しかし、しかしだ。この男はその妄言を進めるために今までの道のりを乗り越え、茨の道を成功し続けているのなら――!
富士見「……もし、そこまで行ったら、どうなるんですか?」
漠然とした質問。
キニー・ブラウンは待ってましたと言わんばかりに微笑んだ。
キニー「GDP世界上位の日本国が手中に収まれば、次のステージはズバリ世界」
キニー「世界展開という意味ではありません。既に我々は幾つかの拠点で成功を収めています」
それで言うと、世界の言葉の意味は――。
キニー「世界。即ち――AMAYA」
富士見「……!」
キニー「その第一歩のストーリーを築けるか。我々の最終目標に一番の近道こそ、このCRポーカー物語なのです」
富士見「……」
興奮していた。もっと多くを語らいたかった。或いはそれは無理だと頭ごなしの否定か、もしくはその道筋の詳細を詳しく聞きたい。
とにかく、とにかくだ。
富士見という男は自分が凡人であるという自負が何よりの武器である事を自覚している。
富士見「私にできる事をご命令ください」
凡人は、凡人の頭を働かせず、夢を負わず、ただ目の前の作業をすれば良い。
キニー「WSOPに群がるハエを追い払いたい」
キニー「ショーン・ソッレンティーノを調べてほしい。彼の家族に"ご挨拶"をできる準備を」
富士見「承知しました」
これで良し。
ハルトムート・アインホルンの手足は既に折った。彼はもう動けない。黙って指を加えて眺めているだろう。
残るリスクを考えれば楽観視はできないが、あくまで現時点では敵は少ない。
・カメルーン
・薩摩真司
・ユーリ・デサイー
・バルテレミー
この中で現状の敵で確定しているのはユーリ・デサイーか。
それだけならば十分で、結局見つけきれなかった死神。
"イシュタム"
空になったコーヒーカップを横に置くと、再びパソコンを開いた。
キニー「ふう」
WSOPに興味があるのでしたら、是非エスコートしたいものです。


