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悪党の逃げ場

〇救急ワークステーション・事務室
事務室内に林田、諸星、大宮、シバ、瑠子、村市。
林田「また呼び出しですか……」
諸星「勘弁してよ もう」
大宮「捜査の続きなら明日でもいいでしょ」
シバ「いいえ 証拠隠滅を防ぐため 皆さんには恐縮ですが事件解決までもう少しお待ちください」
大宮「証拠?というと犯人がわかったんですか」
瑠子「言ったじゃないですか!盾原先生が論理的な推理を披露するって」
村市「あのっ 内山先生の姿がないんですけど?」
シバ「ご安心を 内山先生にはこれ以上留まらせる必要がないので 村市さんには江迫さん殺害の推理に欠かせない証人として呼びました」
事務室のドアが開き、盾原、名倉が登場。
盾原「すみませんね 長々と でも事件はそろそろ終幕を迎えます」
名倉「確実に です」
盾原、ズボンの右ポケットからハードボーラーを取り出す。
盾原「殺害トリックの検証に使います」
林田「拳銃⁉」
盾原「ハードボーラー 江迫さん殺害に使われたのと同じ種類の拳銃です」
盾原「この拳銃が本物か偽物かで江迫さん殺害トリックが明かされます」
諸星「なんで?意味不明なんだけど」
ハードボーラーの銃口を大宮に向ける盾原。
大宮「ちょっと 何 人に銃向けてんですか?やめてくださいよ!」
盾原「大宮先生 あなたは犯人ではないです 次に林田先生――」
林田に銃口を向け、
林田「じょ 冗談じゃない‼」
盾原「林田先生もシロです 残るは――」
諸星に銃口を向け、
諸星「……あたし⁉違うし!」
盾原、拳銃の引き金を引く。
銃口から出たのは弾丸ではなく小さな炎。
諸星「えっ?」
盾原「これが江迫さん殺害トリックの真相です」
盾原「江迫さんは諸星先生に手渡されたライター付きモデルガンの引き金を引いたつもりが 実際は暴発する拳銃の引き金を引き 大やけどを負って亡くなりました」
盾原「つまり!諸星先生は暴発する拳銃をライター付きモデルガンと (いつわ)った上で江迫さんに渡し 死の 引き金(トリガー)を引かせたのです‼」
唖然とする3人の容疑者。
諸星「……欠点だらけの推理ね そんなんであたしを犯人にできるの?」
盾原「もちろんです 反論があるのなら一気に畳みかけても構いませんよ」
諸星「じゃあ遠慮なく どうやって江迫さんに暴発する拳銃をライター付きモデルガンと偽らせて渡すことができたワケ?」
盾原「誕生日プレゼントですよ」
諸星「誕生日プレゼント?何ソレ?」
盾原「林田先生が言ってましたよね?江迫さんの誕生日 諸星先生だけプレゼントを渡してないって」
盾原「だから殺害当日の今日 江追さんに4日遅れの誕生日プレゼントを渡したんです」
盾原「暴発する拳銃をライター付きモデルガンと (だま)してね‼」
諸星「あのね!救急車で仮眠してた江迫さんを起こして拳銃をプレゼントした後 どうやって事務室まで移動させて撃たせたのよ⁉」
諸星「てか 救急車の車内で拳銃をプレゼントしても邪魔になるから受け取らないかもしれないし!」
盾原、段ボール箱まで移動する。
盾原「もう1つ あるものをプレゼントしました」
箱の中の栄養ドリンクの空き瓶を1本手に取り、
盾原「江迫さんお気に入りの栄養ドリンクです!」
諸星「何言ってんの!栄養ドリンクと拳銃を同時に渡されても江迫さん余計困惑するじゃない⁉」
盾原「いえ 先に栄養ドリンクを〝差し入れ〟として渡したんですよ」
盾原「そうすれば江迫さんはワークステーションの入口ドアを鍵で開け 事務室に栄養ドリンクを持ってかざるを得なくなります」
諸星「なんでよっ⁉ワケわかんないし」
盾原、村市に問いかける。
盾原「村市さん?江迫さんは栄養ドリンクを飲む際はこの室内で飲んでましたよね?空き瓶をそこの段ボール箱に捨てるために」
村市「はい 先ほど話した通りです」
盾原「事件を一から説明すると――」
盾原「諸星先生は救命病棟の診察室の固定電話から村市さんの無線機に連絡を入れ その直後に救急車へと向かい 仮眠をとっていた江迫さんを起こしました」
盾原「起きた直後 何か理由をつけて江迫さんを (ねぎら)い 栄養ドリンクを手渡します」
盾原「諸星先生からお気に入りの栄養ドリンクを渡された以上 ご 厚意(こうい)無下(むげ)にせず飲むしかない江迫さん しかしごみ箱のない救急車の中では飲むわけにいかずワークステーションの事務室まで移動しました」
盾原「移動後 〝サプライズ〟と (しょう)し 諸星先生は武器マニアの江迫さんが喜びそうなライター付きモデルガンではなく 暴発するハードボーラーをプレゼント」
盾原「そして!結果的に――……引き金を引いた江迫さんは亡くなりました」
諸星「でもどうやって撃たせたのよ⁉いきなり渡された拳銃の引き金を引けなんて…」
盾原、両手を広げ、
盾原「簡単です‼ごく自然な言い回しでね!」
盾原「まず 江迫さんに「せっかくだから撃つところを見せてくださいよ」と言って拳銃を撃つよう促します」
盾原「が 江迫さんがライター付きモデルガンを扱うのは殺害トリックの観点からして当然 今日が初めてなので 諸星先生は先に手本を見せました」
盾原、ライター付きモデルガンを右手で構え、
盾原「手袋をはめた手で拳銃を構え 引き金に指を添えてこうアドバイスしたんですよね?」
盾原「〝火を放つ際はこの引き金を強く引くんですよ〟って‼」
盾原「無論あなたは引き金を引かず 江迫さんにそのまま拳銃を手渡しました」
盾原「こうして江迫さんは引き金を引いてしまい殺害されたというワケです!」
諸星「…道理に合ってる推理かもしれないけど……」
怒った顔の諸星。
諸星「証拠はあるの⁉アンタの言う殺害方法を立証する決定的な証拠‼」
盾原「もう少し待てば証拠は出てきますよ」
諸星「無駄あがきに時間を引き延ばしたって意味ないし」
名倉のズボンの右ポケットからスマホの電話着信音。スマホを取り出そうとする名倉。
名倉「来たか」
名倉、スマホに耳を当てたまま、
名倉「……何?照合したところ間違いないんだな?」
名倉のスマホをひったくる盾原。
盾原「ちょっと ご拝借」
名倉「って おい」
盾原「どーも 探偵の盾原です……できればその証拠の画像をスマホに送ってください」
盾原、スマホから耳を離し、
盾原「諸星先生 証拠の画像です」
諸星「証拠?あたしの診察室から出てきたっていうの?」
盾原「いえ 診察室ではなくあなたの住んでるタワマンのごみ捨て場からです」
諸星、目を強張らせる。
諸星「――えっ⁉」
スマホの画面を見せつける盾原。そこには緑色に塗られた銃弾の画像。
盾原「ペンキを塗っただけじゃ 証拠隠滅には程遠いですよ」
諸星「…………」
盾原が向けるスマホの画面の前に林田と大宮。
林田「なんかの (こま)みたいだな」
大宮「初めて見るけど…何?」
盾原「ハードボーラーの銃弾ですよ 暴発した拳銃に入ってたのと同じ種類です」
盾原「緑色のペンキが塗られていて 少々わかりにくいですけど」
盾原、諸星に向かって、
盾原「俺の無駄あがきにこれ以上反論はありますか?諸星先生?」
意気消沈する諸星。
諸星「なんで……銃弾を明日のごみに出すのが想定できたの?」
盾原、軽く微笑む。
盾原「簡単ですよ 銃弾を単品で手に入れるのは購買手順として不可能なため 必ず複数セットで入手したはずです」
盾原「トリックに使った際の1発の銃弾は普通に取っておきますが それ以外の銃弾は余分で捨てるしかありません」
盾原「銃弾に広く使われる金属は「 (なまり)」で捨てる時は『不燃ごみ』または『粗大ごみ』に文類されます」
盾原「で 今の時代 24時間いつでも好きな時間にごみを捨てられるタワマンのごみ捨て場に目星をつけたというワケです!」
諸星「……だから あたし達の住まいの情報を要求してきたのね」
村市「でもなんで…江迫さんを?」
諸星「動機はね 恋愛に全く興味のなかったあたしにとって江迫さんが本気の初恋の人だったのに失恋に終わって……」
諸星「悔やみきれないぐらい (みじ)めだったから‼」
林田「そんなことで……」
諸星「うるさい‼ (はた)から見れば「そんなこと」かもしれないけど あたしは江迫さんに十分猛アプローチしてきたはずなのに……だけど時乃に先越されて‼」
諸星「殺す以外 この (つら)い無念を晴らせなかった‼」
泣きじゃくる諸星。
諸星「うっ う……!ああっあぁ‼」
諸星「時乃なんてあんな金遣いが荒い女‼何がいいのよ⁉」
村市「…………」
 
〇救命病棟・ロッカー室
村市、鈴のキーホルダーが付いた鍵をロッカーの鍵穴にさす。ロッカーの解錠音。
村市(…警察はいなくなったが やっぱロッカーは不安だな)
火災報知機の警報音が鳴り響く。
村市「なんだ⁉火事?」
村市「宝石が……!仕方ない!」
警報音が鳴り響く中、ロッカー室のドアを開け、急いで廊下に出る村市。
だが廊下に出た途端、闇探偵に後頭部をスパナで殴られる。
村市「なッ⁉」
殴られた鈍い音とともに村市の体が前に倒れる。

〇救命病棟・廊下
意識を取り戻した村市。
村市「……ッ!イデッ!」
村市、痛そうに右手で頭を押さえる。
村市の頭上から声。
声「――起きた直後で悪いが話を聞かせてもらおう」
村市の周りを2名の警官と名倉、シバが囲む。
村市「刑事さん達…帰ったんじゃ?」
名倉「通報があってな 救命病棟に救急救命士が倒れてるって 誰かに殴られたか?」
村市「そうだ!俺殴られたんだ‼ロッカー室の前で!」
シバ「そうですか……ところでロッカーにあった宝石類 ジュエルライフ横浜で販売されてるのと同じものでした あなた宝石強盗犯の仲間ですね?」
村市「へっ?」
名倉「連行しろ」
2名の警官によって両腕をつかまれる村市。
村市「ち 違う‼言っとくが俺は主犯じゃない 指示を出したのは江迫だ‼」
名倉「うるさいな シバ 岩上も追及だ」
シバ「はい」
診察室前の廊下で内山に感謝する盾原。
盾原「おかげさまで事件が解決できました!」
内山「いや 瑠子ちゃんの事件の謎を解きたい意欲に感服して お見事!」
瑠子、廊下の向こう側で連行される村市に冷たい視線を向け、
瑠子「悪党の逃げ場は地獄しかないですよね」

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