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瑠子のプライド

〇救急ワークステーション・事務室
事務室から出ていく名倉、シバ、林田、諸星、大宮。
盾原、部屋の隅に置かれた段ボール箱を見つける。
盾原「箱…なんだろ?」
段ボール箱に歩み寄る盾原。
瑠子、小首を傾げ、
瑠子「先生…?」
箱の中にビニール袋が広げてあり、たくさんの空き瓶が入っている。
盾原「栄養ドリンクの (ビン)でいっぱいだ……」

〇救急ワークステーション・救急指導室
横長のテーブルが横に3個、縦に2列並び、最前列真ん中のテーブルに並んで座る諸星、大宮、林田。その真ん中のテーブルの3人と向き合う名倉とシバ。
名倉「探偵はまた単独行動か……」
警察手帳を左手に持ち、右手に持ったボールペンを神妙な目で見つめるシバ。
シバ「…………」
バックフリップに挑戦するシバ。だがすぐに失敗してボールペンを床に落とす。
シバ「あっ……」
その直後、瑠子が救急指導室のドアを開け、
瑠子「――あれ?今 シバ刑事 バックフリップやろうとしましたよね?」
シバ、ギクッとする。
シバ「まさか!刑事が捜査中にペン遊びなんてするハズないでしょ!ただボールペン落としただけだし」
瑠子、からかうように微笑む。
瑠子「シバ刑事 案外負けず嫌いですね……」
シバ「それより‼盾原探偵は‼」
瑠子「「別の調査があるから一旦離れる」と言っていました!」
シバ「はいはい‼じゃあ盾原探偵抜きで始めますね!」
呆れた表情の名倉。
名倉「少し冷静になれ シバ」
名倉、3人に向かって話し出す。
名倉「大宮先生 先ほどの「誕生日会」について詳細をお願いします もちろん 残りのお二方の先生にも同じ内容を伺います」
腕を組んで語りだす大宮。
大宮「江迫さんは俺らみたいな親しくしてる人の誕生日は必ず祝ってくれる気さくな人でして しかも毎年欠かさず」
大宮「で その恩返しとして 俺ら3人の提案で江迫さんの家で誕生日会を開きました」
大宮「結構喜んでましたよ 江迫さんは」
大宮の言ったことを黙々と警察手帳に書くシバ。瑠子もメモ帳を取り出す。
瑠子「――誕生日プレゼントは?」
大宮「え はい?」
瑠子「盾原先生からご指示をいただきました」
瑠子「「誕生日会で3人が江迫さんにプレゼントしたものの中に事件解決の糸口になる何かがあるかもしれないから確認してほしい」って」
困惑する大宮。
大宮「プレゼントつっても俺はバトルアクション映画に出てくる兵士のフィギュアだったし……」
林田「自分はカトラスのレプリカです しかも今回の事件とはなんの関係もない」
名倉「カトラス?海賊とかが使う刀?」
林田「そうです 武器マニアの江追はゲームや映画の戦闘シーンに出てくる刀にも目がなかったんで」
林田、諸星に向き、
林田「でも諸星くん?きみは江迫に何もプレゼントを渡してなかったけど 事前にあげたのか?」
諸星「違います!あたし プレゼントに何を買っていいかまだ迷ってて 明日デパートで江迫さんが喜びそうなものを買う予定でした……」
名倉「誕生日会に関する裏話は以上ですか?」
瑠子「――あともう1つ!個人情報になりますが皆さんの住まいを教えてください」
瑠子「無論 事件と関係がある質問です!」
諸星「なんで事件と関係あるの……?」
林田「住んでる地区は同じなんだけどな……」
シバ「と言いますと?」
大宮「俺はホテル暮らし 林田先生はペットマンション 諸星先生はタワーマンション 共通してみんなこの地区に住んでます」
情報を手帳に書き込む瑠子。
瑠子「情報ありがとうございます 盾原先生はこれらの情報をもとにきっと論理的な推理を披露するでしょう」

〇救命病棟・廊下
闇探偵の格好をした人物がひと気のない廊下を歩く。救急外来のドアを開けて室内に入っていく。

〇救命病棟・救急外来
ドアの前に闇探偵の格好をした人物。
岩上「わっ‼闇――」
村市「待て!岩上!」
村市「えっと 警察と捜査してた探偵さんですよね?」
岩上「えっ?そうなんですか?」
フードとマスクを外す、盾原。
盾原「はい 驚かせてしまったようで失敬」
盾原「でもそんなにびっくりするほどの人物に見えたんですか?意外です」
岩上「とんでもないです… 大袈裟(おおげさ)に驚きすぎました」
村市「…もしかして事件の調査で何か聞きたいことでも?」
盾原「ずばり!救急ワークステーションの事務室にあった段ボール箱について教えてほしいことがあって来ました」
村市「段ボール…?ああっ アレのことか……」
盾原「中は栄養ドリンクの空き瓶でいっぱいした」
盾原「疑問なのは 栄養ドリンクはどこで購入して 尚且(なおか)つなぜ 事務室内の段ボール箱に空き瓶が大量に捨ててあったのか――」
盾原「 理由(わけ)を知りたいんです!」
盾原「ワークステーション内に自販機はありませんでした」
顔を見合わせる岩上と村市。
村市&岩上「…………」
先に声を上げる村市。
村市「あの段ボール箱は江迫さん専用のごみ箱なんです」
村市「病院近くのドラッグストアで購入した栄養ドリンクの瓶を捨てるための…」
村市、岩上に確認する。
村市「なあ 岩上?」
岩上「おお ドラッグストアに栄養ドリンクの空き瓶を捨てるごみ箱がなかったから 仕方なく江迫さんは事務室内に個人であの段ボールをごみ箱にしてました」
岩上「でっ 箱の中がいっぱいになったら今度は資源ごみの日に大量の空き瓶を病院のごみ捨て場へ捨てに行ってたんです」
盾原「つまり よほどお気に入りの栄養ドリンクだったんですね」
盾原「どうも…参考になりました」
救急外来から出ていく盾原。盾原がいなくなり、不思議そうな表情を浮かべる岩上。
岩上「……俺達に強盗のこと疑わなかったな」
村市「もしかすると闇探偵ってヤツと無関係なのかもな 何も脅してこないし」

〇救命病棟・廊下
壁に両手を突き、ぐったりする盾原。
盾原「もう我慢できない…スイーツほしい……」

〇救急ワークステーション・救急指導室
ふらりとした足取りで室内に入る盾原。3人の容疑者の姿はない。
盾原「あれぇ?容疑者の3人 持ち場に戻った?」
シバ「ええ とっくに ってまた 糖質不足ですか?さっき お菓子たくさん食べたじゃないですか」
盾原「1時間以上前のことだよ?しかも 頭フルに使ったし」
盾原「誰かスイーツ持ってない?」
名倉「事件現場に菓子持って来て食う子供じみた刑事なんか日本中どこ捜してもいないだろ」
盾原「んなこと言わないで スイーツ!スイーツプリーズ‼」
上着の左ポケットから栄養バランスクッキーの箱を取り出そうとするシバ。
シバ「ああっ もう!今日だけですよ!」
シバ、チョコレート味の栄養バランスクッキーの箱を盾原に差し出す。
シバ「有名パティシエの作った高級スイーツと全く対当しませんが」
クッキーの箱に手を伸ばす盾原。
盾原「恩に着るよ シバくん!絶対この事件を解決して――」
大きな声を張り上げる瑠子。
瑠子「いけません‼」
盾原「えっ?なんで瑠子ちゃん?」
瑠子、シバと盾原の間に割って入る。表情が険しい瑠子。
瑠子「一流のパティシエの助手がいるにもかかわらず ほかの店で買ったスイーツで満足するなんてもってのほかです‼」
瑠子「私のプライドが許しません‼」
シバ「ほかの店って…コンビニなんですけど?」
盾原「……今日だけ許してくれない?瑠子ちゃん?」
瑠子「断固私以外のスイーツは認めません‼」
盾原「そんな~~ あー せめて 瑠子ちゃんが調理できる厨房があったらな~~」
シバ「あるわけないでしょ」
盾原「……無理かな~~……え?でも待てよ 瑠子ちゃんのコネをフル活用すれば!」
名倉「コネ?」

〇病院・外来ホール
ベンチソファーに座り、紙袋に入ったマドレーヌを満面の笑みで頬張る盾原。
盾原「瑠子ちゃん特製のマドレーヌ最高~~‼ふわふわ感としっとりした甘さが絶妙だよ~~‼」
瑠子「私への絶賛食レポ光栄に存じます!先生‼」
頭をかしげ、嘆くシバ。
シバ「もう今後二度とないようにしてくださいよ……聞いたことあります?」
シバ「事件調査中の探偵がお菓子欲しさのために事件現場の食堂調理場借りるなんて」
名倉「内山先生にあとで礼を言えよ 探偵」
瑠子「そうですよ 私と内山先生の横の繋がりがあったからこそ病院の食堂を貸してくれたのですから」
盾原「内山先生は容疑者から外そう マドレーヌにありつけたからね」
シバ「捜査中に私情を差し挟まないでください‼」
盾原「冗談だよ 内山先生は犯人候補からすでに外れてるし」
盾原「とりあえずもっかい事務室で殺害トリックを検証だ」
瑠子「はい‼」
瑠子「ところでなぜ容疑者3人の住まいを確認させたのですか?」
盾原「推理の切り札になるかもしれないからさ」

〇救急ワークステーション・事務室
事務室内を眺めまわす盾原。江迫の死体はない。 
盾原「ふーむ 暴発した拳銃を撃たせる催眠装置があれば事件はすぐに解決できるんだけど……」
名倉「そもそも江迫さんがなぜ拳銃を所持してたのか もしくは犯人が持ってきたものなのかさっぱりだな」
シバの上着の右ポケットからメール着信音。シバ、スマホの画面を見つめ、
シバ「拳銃が暴発した原因が判明しました」
シバ「なんでも盾原探偵の言うハードボーラーの銃口に (なまり)や火薬がぎっしりと詰まっていたらしく引き金を引いた途端 銃が破裂したそうです」
盾原「……エグい死因だね」
盾原「そうだ!名倉警部 拳銃貸してくれます?撃つ場面をリアルにイメージしたいんで」
名倉「冗談でもやめろ 刑事が探偵に銃貸すなんてアニメじゃあるまいし」
盾原「少しぐらいいいじゃないですか……」
盾原、右手の指でピストルを作る。何かに気付き、盾原、ショックを受けた顔。
盾原「⁉」
得意げに微笑む盾原。
盾原「……なるほど 大胆不敵なトリックだ」
瑠子「今のセリフ!事件の謎をすべて解き明かしたのですね⁉」
シバ「だったらさっきの容疑者3人を呼びましょうか?」
盾原「その前にシバくん‼明日の朝ってこの地区 何ごみ?」
シバ、スマホで調べる。
シバ「……不燃ごみの日です」
盾原「だったら急いでほかの捜査員に指示して!証拠が消される前に!」

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