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真偽

〇救急ワークステーション・事務室
事件現場を見回す盾原。瑠子、強張った目で死体を凝視する。
シバ「…瑠子さん?やはり無理なさらずに……」
瑠子「ノープロブレムです…だって私は盾原先生の助手なので いかなる『死の状況』から目を (そむ)くなんてもってのほかです……」
盾原「頑張るね 評価するよ」
盾原、床に散らばる拳銃の破片に視線を落とす。
盾原「『ハードボーラー』がバラバラの状態で散らばってるけど かなり激しい暴発だったみたいだね」
シバ、怪訝な顔で盾原に問い返す。
シバ「ハードボーラー?もしかして拳銃の名前ですか?」
盾原「アメリカ製の45 口径(こうけい)の自動式拳銃だよ」
盾原「破片のほとんどが銀色だから間違いないね」
シバ「よく破片の色だけで拳銃の種類が特定できましたね?銃マニアなんですか⁇」
盾原、スマホの画面をいじり、
盾原「マニアじゃないけどね……」
ハードボーラーの画像をシバに見せる盾原。
盾原「ほらっ!シルバーだよ‼」
シバ、盾原のスマホの画面をじっと見つめ、
シバ「確かに銀を基調とした拳銃ですけど…この銃って暴発事故が多いんですか?」
盾原「さあ?アメリカ国内のニュースをよく観てるわけじゃないからわかんないけど……瑠子ちゃん 遺体はもういいからメモを」
盾原の指示に瑠子、顔を上げ、
瑠子「そ そうでした!盾原先生の助手でありながら……」
あたふたと焦りながら、オーバーオールの左ポケットからボールペン付き手帳を取り出す瑠子。白いページにボールペンでメモ書きする。
瑠子「拳銃の種類は……」
盾原「ちょっといい?」
盾原、瑠子のボールペンを取り上げる。
瑠子「えっ?先生?何を……」
ボールペンを見つめ、得意げな笑みを浮かべる盾原。
盾原「シバくん 俺 最近レベルアップしててさ~~」
シバ「何がですか?」
ボールペンを回し、バックフリップを披露する盾原。
盾原「ほらほらっ!ペンが見事に空中で回転してるよ‼」
瑠子、バックフリップする盾原をスマホで撮影。
瑠子「なんと‼こないだ始めたばかりなのにナイス上達じゃないですか!」
呆れ返ってしらけるシバ。
シバ「隠し芸ならあとにしてくださいよ…わざわざ事件現場でやらなくても……」
シバの上着の右ポケットからスマホの電話着信音。シバ、盾原に向かって、
シバ「電話に出ますので…って 聞いてないか……」
スマホを耳に当てるシバ。
シバ「どうも…ああ 了解しました 診察室ですね……」
スマホを耳から離したシバ、強めの口調で盾原に呼びかける。
シバ「ペン回しはやめて‼救命病棟に行きますよ」
盾原「りょーかい……て なんで?」
シバ「そういえばまだ話してませんでしたね……」
シバ、警察手帳を開き、
シバ「江迫さんの死亡推定時刻の午後9時25分より少し前 午後9時18分頃のことです」
シバ「村市さんのIP無線機に救命病棟医の内山先生から連絡が入り「午後9時25分に診察室に来てほしい」と指示を受け 時間通りに村市さんは救急外来を離れ診察室へ」
シバ「ですが妙なことに診察室に内山先生は不在 仕方なく村市さんは仮眠中の江迫さんを起こそうと救急車へ向かいました」
シバ「ところが今度は江迫さんの姿が見当たらず 余儀なく電気が点いていたワークステーション内の事務室のドアを開けたところ 遺体を発見したというわけです」
シバ、村市に向かって、 
シバ「ですよね 村市さん?」
廊下から事務室内を眺めていた村市。
村市「ええ 普段は救急救命士のみが所持する鍵でしか開かないワークステーションの入口ドアが開いていて 中に入ってみたらこの有り様でした」
盾原「じゃあ村市さんが江迫さんを起こしに行く前に拳銃が暴発……なるほど」
シバ「なので村市さん 内山先生のいる診察室へ我々と一緒に来てください」
村市「いいですけど その前に救急外来に寄りたいです」
村市「もう1人の救急救命士に伝えなきゃならない事情が色々あって 非番の救急救命士も呼ばないといけないし……」
シバ「どうぞお構いなく あっ そういえばロッカー……」
シバ「 度々(たびたび)すみません 亡くなった江迫さんのロッカーを調べたいのすが ロッカーの鍵はどこにあるかご存じでしょうか?」
村市、ズボンの右ポケットを探り、
村市「鍵なら……」
「江迫」と書かれたネームタグの付いた鍵をシバに差し出す村市。
村市「江迫さんのロッカーの鍵です」
シバ「あの?なぜ鍵をお持ちで?」
村市「救急外来に落ちてました 江追さんに届けるつもりがすでに救急車で仮眠中だったので」
村市「それで起きてから渡そうと」
盾原「ふ~ん?じゃあ診察室に行こっか」

〇救命病棟・廊下
ひと気のない廊下を列をなして歩く4人。先頭にシバ、次に盾原、その次に瑠子、最後尾に村市。
盾原「江迫さんって毎回当直になると 決まった時間に救急車で仮眠とってたの?」
シバ「そのようです 午後8時半に寝て 午後9時半少し前には起こされてたみたいですよ」
救急外来に差し掛かり、
村市「ここで一旦失礼します では刑事さん達 またあとで」

〇救命病棟・救急外来
村市と話す岩上。
岩上「……しかし その盾原って妙な探偵が俺達を (おびや)かした闇探偵と同一人物だったら――」
村市「いや その線は薄いな」
村市「宝石強盗の件に触れたら反応がイマイチで関心がなさそうだったから」
岩上「おいおい!警察がいる前で強盗の話持ち出すって――」
村市「確認だよ!探偵が俺達に接触するために捜査に加わったかもしれないし!」
村市、鈴のキーホルダーがついた鍵を岩上に差し出す。
村市「宝石は別のロッカーに移した 鍵はお前が預かっててくれ」
岩上「俺が?ああ 警察が付きっ切りだからな でもこれ以上余計なことを口走るなよ」
村市「言われなくとも 盗んだ宝石がかかってるからな」

〇救命病棟・診察室
シバ、瑠子、盾原が到着する。
瑠子「あ やはり内山先生じゃないですか?」
救命病棟医の 内山(うちやま) 定和(さだかず)(45)が瑠子に気付き、
内山「きみ…美波さんとこの瑠子ちゃん!久しぶりだね!」
瑠子「ご 無沙汰(ぶさた)しております うちの店をごひいきなさった際はお世話になりました!」
盾原「おやっ 知り合いだったの?」
瑠子「私が店で働いていた頃の常連さんです」
内山「聞いたよ!瑠子ちゃん 今はパティシエを離れて探偵の助手になったって」
誇らしげな顔で、瑠子。
瑠子「よくご存じで‼今私の隣にいる盾原大先生のサポートを務めています!」
盾原の方に視線をやり、感心する内山。
内山「へー 立派な青年だね!」
盾原「瑠子ちゃん「大先生」は持ち上げすぎだよ……」
内山「なるほど 刑事さんと一緒に行動してるってことは警察からも頼られる 凄腕(すごうで)の名探偵なのか!」
盾原、照れ顔で、
盾原「いえいえそんな 俺だけじゃなく瑠子ちゃんも優秀です」
盾原「助手として事件解決に貢献してくれて助かってます」
内山「師弟関係がうまくいってるみたいだね 瑠子ちゃん」
瑠子「はい!なんせいずれは〝世界一の名探偵〟をサポートする〝世界一の探偵助手〟になるので 私は‼」
盾原「だから持ち上げすぎだって…!」
シバ、内山に語り掛ける。
シバ「あのう 江迫さんが亡くなった件について (うかが)いたいのですが まず内山先生と江迫さんのご関係は?」
内山「同じ職場だけで関係性は 薄かったです プライベートでの係わりも全くですね」
内山「ところでなぜ僕に事件についてお尋ねを?」
シバ「それが……事件の 概要(がいよう)から話しますと……」
内山、シバの説明を聞き終えると、
内山「病院の敷地内で拳銃が暴発って 通常はあり得ないとしか言いようがないですね」
シバ「ごもっともです」
内山「しかし刑事さんの今の説明の途中でも指摘しましたが 僕は村市くんに診察室から電話はかけてませんし――」
内山が話している最中に村市、到着。
村市「遅れました すみません って内山先生?」
内山「村市くん きみの無線機にかかってきた電話は本当に僕からだったのかい?」
村市「間違いないです 「内山」と名乗ってましたし」
内山「聞き間違いじゃないのか?どんなふうにしゃべってた?」
村市「確か…話し始めた時 鼻声で咳込んでてましたね……」
盾原「―― ()ったです 村市さん」
村市「なんですか?」
盾原「「咳込んでて」ってのは風邪の症状みたいに『ゴホッ ゴホッ』という擬音を口にしてた感じですか?」
考え込む村市。
村市「えっと……」
村市「あ!思い出しました! (おっしゃ)る通りです」
盾原「ならその時の村市さんの通話の相手は必然的に内山先生じゃないですね!」
盾原「内山先生 さっきから見た感じ 咳き込んでないし鼻声でもないし」
盾原「電話の相手は十中八九 江迫さんを殺害した犯人で間違いないよ 鼻声で咳込んでれば多少は内山先生の声色とごまかせるからね」
盾原「そもそも咳き込んでる状態の医者が病院内にいるなんてもってのほかじゃん!」
シバ「となると この救命病棟の診察室の固定電話を使用できた医療関係者…つまり救命病棟内に犯人⁉」
内山「ちょっと刑事さん……極端かと」
シバ「ですが〝救命病棟と関係のない〟怪しい人物がここの病棟内に入り 診察室に向かったという目撃情報は届いてません」
盾原「いいや シバくん 内山先生に成りすまし 村市さんと通話したのは救命病棟以外の医者か看護師だよ」
シバ「そんなはずは…?そもそも内山先生と偽り 村市さんの無線機に連絡した犯人の目的が不明です」
盾原「とりあえずみんな 廊下に出よっか 事件の序章を検証だ」

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