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名OR闇探偵

〇宇佐岡学園・体育館倉庫
倉庫の外から盾原に怪訝な視線を送り続ける増城。
増城(昨日はフードとマスクで髪型と顔半分以上見えなかったが声色・背丈・体格が昨日の闇探偵とソックリな気がする……)
増城(だがなんでまた俺の前に現れた?この学園で起きた殺人事件の捜査で偶然俺に遭遇……)
増城(いやいやおかしい!偶然には出来すぎてる!)
増城(まさか!)
増城(中添を殺したのはアイツで 警察に信頼されてる立場を利用して嘘の犯人をでっちあげる気か⁉)
増城と盾原の視線が重なる。
盾原「ん?」
増城(ヤバい!)
とっさに視線を外す増城。
不思議そうな表情で小首をかしげる盾原。
盾原「…?」
シバ「ん?」
シバ、バレーボールの支柱が倒れた倉庫の隅で何かを発見。
シバ「これ…スマホ?」
盾原「単なる誰かの落とし物じゃなさそうだね」
スマホの電源ボタンを押し、画面を見つめるシバ。
シバ「…不在着信が5件 発信元はすべて『中添氷太2』となってます」
シバ「すみませんが どなたかこのスマホに心当たりは?」
思わず声を漏らす増城。
増城「あ…」
シバ「何か?」
増城「多分 中添先生のスマホだと思います」
島口「でも確か中添先生はスマホ 2台持ちでしたね」
島口「 (かばん)とデスクの引き出しにそれぞれ1台ずつしまってたはずです」
盾原「このスマホは犯人が持ち去ったとみて間違いないですね」
盾原「これとは別のもう1台のスマホは発見されましたか?警部」
名倉「ああ ガイシャが倒れてた床のすぐそばに落ちてて 専門の業者にロックを解除してもらってるところだ」
名倉のズボンの右ポケットからスマホの電話着信音。
名倉「おっ もしや……」
スマホに耳を当てる名倉。
名倉「解除できたのか?……発信履歴?なるほど……」
スマホの画面をタップして、通話を終了させる名倉。
盾原「もう片方のスマホの発信履歴は5件ですね」
名倉「ああ もちろんだ」
名倉、シバの手にしている中添のスマホに視線を注ぎ、
名倉「どうやら5件の発信先はすべてそのスマホのようだ」
盾原「なるほど 犯人の手口を理解しました」
シバ「というと?」
盾原「シバくん 中添先生のスマホを」
シバから中添のスマホを受け取った盾原。
盾原「犯人はこの中添先生のスマホをくすね ここの倉庫に隠した」
盾原「すると中添先生がスマホをなくしたことに気づき 予備のスマホで着信音を鳴らして倉庫までやって来る」
盾原「中添先生が倉庫に入った直後 待ち伏せてた犯人はなんらかの方法でアンモニアガスを発生させて中添先生を殺害した」
盾原「午後8時30分以降に学園を出た先生々なら誰でも犯行は可能というワケさ」
盾原の推理を聞いていた教頭が否定の声を上げる。
教頭「…いやいや 言っとくが私にはアリバイがある」
教頭「帰ってからは長い時間 寝るまで妻と一緒にテレビを観ていた」
教頭に追従するかのようにほかの教職員達も主張する。
島口「私もです 学校を出て帰宅してからは子供達とずっと一緒でした」
河田「…自分も教頭先生や島口先生と同じで家族がアリバイの証人です」
名倉「では 皆さんのアリバイ確認の聴取を行いたいので どこか空いてる部屋を貸してもらいたいのですが……」
教職員達に向かって、低頭する名倉。
名倉「どうかご協力お願いします」
教頭「仕方ないな だったらまず理事長の許可が必要かと」
シバ「でしたら私が要請しますので 皆さんはそれまで別の場所で待機を」

〇宇佐岡学園・体育館連絡通路
盾原と名倉が並んで歩き、その2人の後ろに教頭、教頭の両脇には増城と河田。さらに教頭の背後に島口とそのほか5人の教職員が一列になって続く。
名倉「――参考までにお聞きしますが 昨日 中添先生にいつもと変わったところはありませんでしたか」
名倉「 些細(ささい)なことでもいいんで」
島口、おぼろげに答える。
島口「あのっ!中添先生 社会科見学から帰ってきてからはなぜか上機嫌だった気がします」
島口に同調するかのようにほかの教職員も次々と声を上げる。
声「ああ なぜか嬉しそうでした!」
声「珍しく鼻歌交じりで学園の職務をこなしてましたね」
教頭「社会科見学中にいいことでもあったんじゃないか」
ビクつく増城。
増城(余計な話題を…ッ!)
河田、名倉に向かって、
河田「…あの こんな時に言うのもなんですが刑事さん」
名倉「なんですか?」
河田「先月自宅マンションの駐車場で車の盗難被害に遭いまして…最近警察からの報告が (とぼ)しいのですが……」
河田「どうにかならないでしょうか?」
愛想笑いを浮かべる名倉。
名倉「悪いんですが 担当の部署じゃないんで」
河田「ですよね…すみません」
盾原「へ~~ 車の盗難に もしかしてかなり値が張った高級車だったとか?」
河田、苦笑いを浮かべ、
河田「いえ 普通の軽ワゴン車です 鍵はきちんとかけたはずなのに盗まれて……」
河田を横目で見る増城。
増城(盗んだのは俺だからな 銀行強盗に使わせてもらった)
増城(カラーリングもしてナンバープレートも取り換えた 車内に指紋も残してない)
盾原の背後に視線を注ぎ、
増城(問題は目の前の探偵 もしコイツが昨日の探偵だったら口封じしないとな……)
盾原が突然増城に振り向く。ニコッと微笑む盾原。
盾原の微笑みに驚愕する増城。
増城「――ッ⁉」
何事もなかったかのように、盾原、正面に向き直る。
ドクンドクンと増城の心臓の鼓動が早くなる。
増城(なんだ…今の笑みは⁉)

〇宇佐岡学園・生徒指導室
向かい合う2台の学習机に名倉と増城が対面して座り、事情聴取が行われている。
名倉「――では昨日の午後8時30分頃 どこで何をしてましたか?」
増城「その時間帯……」
名倉の背後にはシバと盾原。
増城の事情聴取が終わる。
名倉「――増城先生のアリバイは証明されました 職務に戻って結構です」
増城「ありがとうございました……」
 
〇宇佐岡学園・廊下
生徒指導室のドアを閉め、廊下に出た増城。
増城「ふぅ……」
増城、生徒指導室と反対側の廊下を歩く。すると生徒指導室のドアが開き、盾原が顔を出す。
盾原「増城先生‼どーも!」
驚いて振り返る増城。
増城「えっ⁉」
盾原、はにかんだ笑みを見せて増城に近づく。
盾原「いや〜〜 にしてもまた会っちゃいましたね‼」
驚愕する増城。
増城「‼やっぱり昨日の……⁉」
盾原「ええ!それと再会したついでにお話ししたいことがあるんでよろしいですか?」
増城、警戒するように左右の廊下を確認し、
増城「わかった……じゃあ校舎裏で待っててくれ」
盾原「オッケーです!場所は把握してます」
 
〇宇佐岡学園・会議室
室内前方のホワイトボードの前に名倉とシバ。
名倉「――先ほどの事情聴取でアリバイを確認したところ成立してないのはあなた方3人だけでした」
コの字型テーブルの左側の席に座る3人の容疑者。
国語教師で茶道部顧問の 三渡(みわたり) 蓮華(れんか)(29)、物理教師でサッカー部顧問の 糸畑(いとはた) 航大(こうだい)(32) 、英語教師でダンス部顧問の 魚谷(うおたに) 尚美(なおみ)(33) 。
シバ「盾原探偵がさっきから見当たらないんですけど始めますか?」
名倉「仕方ないな あとで報告しとけばいい」
一番奥の中央の席に座る名倉。
名倉「――皆さんの中に確実に犯人がいるとは断定してません」
名倉「しかし ほかの先生方から殺害された中添先生とお三方を結ぶ興味深い情報をキャッチしました」
名倉「今からその情報の事実確認を行いたいと思います」
三渡「裏付けですか……」
糸畑「予想はしてましたけど……」
名倉「よろしいですか?魚谷先生」
魚谷「構いません 隠すことは何もないんで話します」
名倉、警察手帳を開き、
名倉「まず三渡先生から」
名倉に複雑な表情を向ける三渡。
名倉「…三渡先生は最近まで中添先生と付き合ってたみたいですね 半年ほど」
三渡「…否定はしません」
名倉「それと言いづらいのは承知の上ですが 別れた理由を教えてもらえれば……」
三渡「いいですよ 中添先生が亡くなった以上 隠す必要ないので」
名倉「ありがとうございます」
三渡、すまし顔で語りだす。
三渡「調べはついてると思いますが 私はこの学園の理事長の (めい)に当たります」
三渡「その関係性もあってですけど 3週間前に理事長から中添先生と別れた方がいいと強く言われたのでその提言に従いました」
三渡「しかしながら 全くもって後悔はしてません」
三渡が言った内容をメモしようとホワイトボードに黒マジックを走らせるシバ。
名倉「なぜ理事長に――」
三渡「理事長の思惑に関して私から言えることはありません 以上です」
無言で視線を合わせる名倉とシバ。
名倉&シバ「…………」
名倉、魚谷に向く。
名倉「次に魚谷先生ですが」
名倉「魚谷先生はこの学校に来る4年前にも中添先生と勤務先が一緒だったらしいですね」
魚谷「はい 一時期交際もしてました」
魚谷「でも中添先生の方から別れを切り出したんです ほかに好きな人ができたって」
名倉「…あまり触れられたくないかもしれませんが 糸畑先生の妹さんですよね?」
不快な表情を浮かべる糸畑。
糸畑「正直 認めたくないですけど」
糸畑「妹は3年ほど付き合って別れたそうです 中添先生の方からほかに好きな人ができたからって 一方的に」
三渡、手を上げる。
三渡「その当事者が私です 自分で言うのもなんですが 3人目の交際相手になりました」
シバ、引きつった顔でマジックを止める。
シバ「相当な愛の 遍歴者(へんれきしゃ)ですね」
三渡「…教師の中では女子生徒に一番人気があってモテてたので」
三渡「それより話は変わりますが 中添先生を殺したアンモニアガスの謎は解けそうですか?」
軽く首を横に振る名倉。
名倉「いえ 現時点ではまだ……」
糸畑「大丈夫なんですか?警察と一緒に捜査してるあのウインドブレーカーの探偵さん……」
糸畑「事件を解決してほしいのは 山々(やまやま)なんですけど」
シバ「もちろん……事件解決の糸口を模索してるさなかではあると思います」

〇宇佐岡学園・校舎裏
黒のスニーカーを履いた盾原、誰かを待っている。
盾原「まだかな まだかな~~♪」

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