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名探偵登場

〇宇佐岡学園・体育館
体育館倉庫入口前に警戒テープが貼られ、明かりの点いた倉庫内では鑑識がカメラで現場写真を撮っている。
警戒テープの外側には島口や増城のほか、複数の教職員の姿。
島口「なぜ昨日まで教職をまっとうしていた中添先生が……」
増城「亡くなったんですかね?」
島口「私もさっき来たばかりで情報をよく把握してないのですが最初に発見したのは 河田(かわた)先生らしく……」
島口「なんでも顔にやけどの (あと)があったとか」
増城「やけど?」
島口「よくわかんないですけど……」
島口、立ち去ろうとする。
島口「もうここにいても仕方ないので 私 職員室に戻ります」
増城「じゃあ自分も」
島口と増城、同時に振り返ると、教頭の 陣内(じんない) 考次郎(こうじろう)(57)が目の前に立っていた。
島口「教頭先生……」
教職員全員、振り返る。
教頭「先生方!朝から不幸な事故で気持ちの整理がつかないことをお察しします」
教頭「ですがいずれにしても生徒達に伝えなくてはならない案件でもあるのでここはひとまず解散し――」
教頭の背後から大きな声。
声「 ()ったです‼教師の皆さん!」
声の方に教頭、振り返る。
教頭「はっ はい?」
驚きの顔を見せる増城。
増城「なっ⁉」
ウェーブパーマのヘアスタイルに、黒で統一されたフード付きウインドブレーカーとウインドパンツを着用している探偵の 盾原(たてはら) 永海(ながみ)(27)が左手に紙袋を抱え、体育館出入口ドアから現れる。
盾原「どーも どーも皆さん」
来客用のスリッパで倉庫の方に向かって歩いていく盾原。
盾原「俺も警察とともに徹底的に調査しますのでご協力お願いします」
未だに驚きを隠せない増城。
増城(昨日のウインドブレーカーヤロウなのか⁉なんで⁉)
盾原に警戒する目を向ける教頭。
教頭「あんた い 一体なんだね⁉警察に見えないが 部外者じゃないのか?」
盾原「そう警戒せずに 俺は盾原永海 探偵です」
増城(……探偵?昨日と言ってることが同じだな)
教頭「探偵って なんで警察と一緒にいるんだ?」
盾原「なんでって…協力者なので」
島口「……協力者?」
盾原「そうです 俺は神奈川県内で起きた難事件 特に殺人事件をすべて100パー解決に導いた実績がありまして」
誇らしげな顔で、盾原。
盾原「というわけなので警察から絶対的な信頼を得ています!」
盾原、後ろを向いて誰かを呼びつける。
盾原「だよね?シバくん」
神奈川県警捜査一課の刑事(巡査長)の「シバ」こと 芝崎(しばさき) 香音(かのん)(25)が体育館出入口ドアの前で軽くお辞儀する。
シバ「どうも」
シバ、盾原のあとを追って、
シバ「私を置いて先に行かないでください 盾原探偵」
盾原「悪いねシバくん とりあえずここにいる皆さんに俺のことを紹介して」
教職員達に向かって、警察手帳を開くシバ。
シバ「その前に私から――神奈川県警捜査一課の芝崎です 皆さん捜査にご協力お願いします」
教頭、腑に落ちない顔でシバに不満をぶつける。
教頭「刑事さん 学内に警察とは無関係の人物を連れてきて こちらとしては 承服(しょうふく)しかねます」
シバ、落ち着いた態度で、
シバ「確かに 正気(しょうき)沙汰(さた)ではないと思われても仕方ありません」
盾原に向くシバ。
シバ「ですがこの方は我々警察も認める名探偵であり これまで30件以上の難解かつ巧妙な殺害トリックをすべて解明してきました」
シバ「警察になくてはならない とっておきの存在です」
島口、恐る恐る口を挟む。
島口「あ あの?」
シバ「どうしました?」
島口「「殺害トリック」って (おっしゃ) りましたけど殺人事件なんですか?」
島口「情報があやふやでてっきり何かの事故死かと……」
肩をすくめる盾原。
盾原「まさか」
盾原「検視官の報告によれば 被害者はアンモニアガスを吸って中毒死したと聞きました」
盾原「どう考えても体育館倉庫でアンモニアガスは不自然です」
島口「アンモニア?理科の実験とかで使うあの刺激臭の?」
盾原「ええ 被害者の体にアンモニアガス特有のやけどもあってなぜガスが発生したかは今から調査します」
盾原「の前に……」
盾原、紙袋の中に右手を入れる。
盾原を注意するシバ。
シバ「食事なら我慢してください 学内ですよ」
盾原「そんな固いこと言わずに」
紙袋から取り出したフランスのお菓子、フィナンシェを口に入れる盾原。
盾原「このフィナンシェ マジでイケるね~~」
盾原「シバくんも食べる?」
シバ、盾原からフィナンシェを1つもらう。
シバ「では ご 厚意(こうい)に甘えて」
盾原「一流のパティシエが作ったスイーツだけあって ほかの洋菓子店では味わえないよ~~」
フィナンシェを一口かじるシバ。
シバ「まさしく 美味(びみ)です…」
両腕を組み、愚痴のような独り言を漏らす教頭。
教頭「全く!探偵なんてサスペンスドラマじゃあるまいし!」
教頭「今どきの警察は探偵の力を借りんと事件を1つも解決できんのか?」
増城、盾原に怪訝な視線を送り続ける。
増城「……」
増城の視線に気づき、振り返る盾原。
盾原「?」
増城、サッと素早く盾原から目を逸らす。そんな増城に声をかける島口。
島口「どうしました 増城先生?」
増城「いや 同僚が亡くなって なんか今頃ショックな気分です」
島口「増城先生 中添先生と年も近くて仲良かったですからね」
増城、虚弱な表情で返答する。
増城「振り返ってみれば…そうでした」
 
〇宇佐岡学園・体育館倉庫
シバと盾原、倉庫内に入る。警戒テープの外側には複数の教職員がまだ居残っている。
盾原「皆さんお疲れ様で~す」
鑑識達にフィナンシェの入った紙袋を勧める盾原。
盾原「おひとついかがですか?おいしい絶品スイーツですよ~~!」
鑑識が1人、盾原の紙袋の中に右手を入れる。
鑑識「ありがたくいただきます……」
盾原を再び注意するシバ。
シバ「差し入れじゃないんですよ 捜査中ですよ」
盾原「シバくんも食べたじゃん ところで……」
盾原、辺りを見回し、
盾原「あ おはようございま~す!」
警戒テープをくぐり、神奈川県警捜査一課の警部、 名倉(なぐら) 勝喜(かつき)(44)が登場。
名倉「出た 甘党探偵め……」
名倉、盾原の紙袋を見つめ、
名倉「言っとくが俺は菓子は食わないからな というか今回呼んだ覚えないんだが」
盾原「当然ですよ」
盾原「早朝に解決した事件の帰り道にシバくんの運転する車に乗ってたら 別の事件発生の無線が入って その事件の詳細に ()かれてこの現場に向かったんですから」
名倉に弁解するシバ。
シバ「…言い訳がましいですが」
シバ「私達警察だけで解決するつもりだったのに死因のアンモニアガスに強い関心を持って「現場に向かいたい」って聞かなくて」
盾原「すみませんね でも俺のわがままを通してくれた以上 事件解決に 尽力(じんりょく)します」
盾原、名倉に紙袋を差し出し、
盾原「それよりフィナンシェ本当にいいんですか?」
盾原「やせ我慢せずに召し上がった方がいいですよ?糖分で脳の働きが活性化し 捜査に身が入りますよ」
名倉、シバに向かって軽蔑の目。
名倉「もしかしてシバも食べたのか?」
シバ「勧められてつい……」
盾原「それより見てください!名倉警部‼」
名倉、素早く盾原の方を振り返る。
名倉「なんだ?事件に関する証拠品か⁉」
得意げに微笑む盾原。
盾原「ふふふ……」
右手の指でコインロールを披露する盾原。
盾原「高レベルなコインテクでしょっ⁉」
名倉「んなモン今見せる必要ない‼真面目にやれ!」
シバ「おちゃらけないでください 捜査中って言ってるのに……」
盾原「不評か せっかく1週間足らずでマスターしたのに」
コインを上着の右ポケットにしまう盾原。
盾原「今度はなんの曲芸にチャレンジしよっかな~~♪」
シバ「事件そっちのけで隠し芸を見せようとわざわざ現場まで?」
盾原「んなわけないって で?名倉警部 事件のいきさつをお願いします」
警察手帳を開き、説明する名倉。
名倉「亡くなったのは中添 氷太(ひょうた)さん 35歳 この学園の教師で担当科目は化学」
名倉「この人物だ」
名倉、中添の写真を見せる。
盾原「30代後半の割には若々しくてイケメンですね」
名倉「死亡推定時刻は解剖の結果を待たない限り断定できないが 少なくとも昨夜の午後8時30分以降」
名倉「この午後8時30分というのは中添先生以外の教職員が全員帰るまでの時間帯だ」
名倉「ちなみにこの学園では教職員が職員玄関から出て帰る際 ほかの職員が中に残っていようが必ず外から玄関ドアを施錠するルールがある」
名倉「各教職員に玄関ドアのスペアキーが持たされてる」
盾原「スペアキーがあれば この学園の教師なら犯行は誰でも可能なワケか……」
名倉「ガイシャは 明後日(あさって)のテスト つまり明日行われるテストを作るのに 没頭(ぼっとう)してたらしい」
盾原「生徒は明日 テストどころじゃないですね」
名倉「余計な心配しなくていい 探偵は」
名倉「最初に遺体を発見したのは河田先生でしたよね?」
名倉、警戒テープの外側に目を向ける。軽く手を上げる体育教師の 河田(かわた) 一広(いちひろ)(49)。
河田「はい 体育館出入口のドアが開いてた上に館内の電気が点けっぱなしだったので不審に思い 倉庫に向かうと中添先生が倒れていて救急車を呼びました」
名倉、警察手帳に視線を戻す。
名倉「それが午前7時15分頃 およそ1時間前のことだ」
名倉「救急車を呼んで隊員が駆けつけたがすぐに死亡を確認」
あごに右手を添え、質問する盾原。
盾原「…死因はアンモニアガスによる中毒死でしたね?けどおかしくないですか?」
名倉「やはり気づいたか……」
盾原「倉庫内にアンモニアガスを発生させる装置が見当たらないんですけど……」
名倉「なぜか発見できてないんだよ」
名倉「犯人が巧妙すぎる殺害トリックを 駆使(くし)したのがよーくうかがえるな」
倉庫奥の壁面に向く盾原。ガラス窓が1ヶ所と、その窓の1メートル上に換気口。
倉庫の扉に目を向けたまま窓を指差し、
盾原「遺体発見時 倉庫の扉とあの窓は開いてましたか?」
名倉「ああ 扉は開いてたが窓は内側から鍵がかかってて ちなみに窓の向こうは校舎裏で学園の備品倉庫がある」
名倉「何か事件解決のヒントになりそうなものはないか ほかの捜査員が調べてる」
盾原「難事件ですね……けど!」
盾原、自信に満ちた表情で宣言する。
盾原「この事件の真相を俺が絶対に解き明かしてみせます!」
盾原、胸に右手を当て、
盾原「ぜひ 名推理を期待しててください‼」
名倉「はいはい 張り切るのはいいけど興奮すんなよ 不謹慎だろ……」

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