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第一話『オレは竹原正明で、』1/3

◆【西暮街】
こっちの世界にやってきたばかりの頃。
今から――もう、二年前の話し。

正明「――ギッったな」
大胆にも山から麻雀牌をごっそりもっていく左手。
そもそも麻雀では左手を使うのはマナー違反。理由はこのように多くの牌をかすめ取るのに適しているからだ。

六道組員「手を離せ」
正明「開けろ」
六道組員「今謝れば、許してやる。もし何もなかったら――」
正明「開けろ」
六道組員「いいんだな?」

再三の確認と拒否。握っているのをこの目で見た。
イカサマの現場を抑えたと確信していた。
尤も、当時はジャンもいないので力で制圧される事も考えられないぐらい未熟なのは置いとくとして、だ。
正明「――ッ!?」
結果は空だった。

六道組員「言ったよなあ。坊っちゃん」
逆に手首を掴まれると、小指を握られ――
正明「ギ――ッ!」
音はならなかった。
激痛と、困惑と、怒りと――
有り得ない方向に曲がった小指。
獣のように反射的に声を張り上げたが、今でも覚えているのはその時でさえオレは恐怖は抱かなかった。
激痛と、困惑と、怒りと――憎悪。

六道組員「イタイイタイだねえ。お家帰るか坊や」
なんで?
握ったはずなのに。
確かに握った。
なんでこいつ笑ってる?
オレ見下してるのか?

痛みからぐるぐると思考が回って捻り出された言葉。

正明「ヒヒヒ――ざけんな」
精一杯の虚勢。
浮かべた涙が溢れないように。上ずった声は隠しきれない。
それでもまだ怯まない。

この頃のオレは綺麗で、勝てば金はちゃんと払う。
約束は反故されないと、ある種の宗教的思考から完全に脱却出来ていなかった。

それを抜きにして諮(はか)られたのはこっちだ。
完全に抜いたと思ったその牌。手の中にない。
抜いたと、見せかけられた餌に引っかかってしまった――。

六道組員「根性あるなあ」
そうなればこっちのものと、そう言いたいのであろう。
痛い。痛い痛い痛い。
苦しい。こんな思いしたくない。

でも、
許せない。

この後普通に麻雀してそれで良い手が入れば――そんな真っ当な相手じゃねえってのだけはわかる。
その予感は的中し、二巡もしないうちに再びこいつは今度こそ山から牌をブッこ抜いた。

正明「――ッ!」
その左手を――折れた右腕で再び握った。
六道組員「……ッ」
正明「ヒヒヒ」
正明「開けろ――ッ!」
真っ当じゃない相手に、真っ当じゃないオレ。
六道組員「……」
手中に握った牌が、卓の上に落ちた。

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