第二十話『魑魅魍魎の世界』6/7
膝笑ってって……は? え?
頭の片隅にあったのは二階堂春樹の全てウソで演技で。
オレは掌の上で遊ばれていたこと――
――そうじゃない。
"残念ながら"そうじゃない。
正明「…………」
こいつ、こいつは――200渋沢失うのが怖い人種だ。
今、勝ちたがっている。
その熱が、しっかりと伝わっている。
それはウソじゃなく、言動と気配で、そうなのだ。間違いない。
加えてプロポーカープレイヤーだ。時間を重ねればそれに比例して実力差が如実に現れるであろう。
それは実力者故にラシェルや憂ちゃんが持つ絶対的な自信。
そうじゃない。
こいつ、こいつは――!
春樹「ははは。焦らすね。はははは。あー、やっば。ボク本当にヤバくなると笑っちゃうんだ」
壊れてる。
日本最強のプレイヤーが――何しているんだ?
春樹「カード。オープンしてよ」
1ゲーム目。
対二階堂春樹のゴールはどこか?
どうやって戦いに持ち込むか?
勝利するために必要なピースはなにか?
報酬をどうやって得るか?
不慮な事故、乱闘をどうかわすか。
様々な事をずっと考えてきた。
それが、それが――。
正明「……ッ!」
自分のカードも、見たフリだった。
見てもいない。
99%じゃない。100%こいつは降りる。降りるしかないのに。
オレの読みが仮に外れて、全てが二階堂春樹の掌の上で。かつバレッツ(AA)やキングス(KK)レベルな不運が舞い降りても――それでも、それでも乗れないんだ。
日本最強のポーカーの実力者が、素人相手に運勝負を好む理由なんて何一つ存在しない。
条件を何一つ満たしていないのに、だ。
もう駆け引きも思考も存在しない。
勝負は、じゃんけん。
正明「……ッ」
頼む――!
都合の良い神に願い出たオレのカード二枚は――2,K
正明「ギ……ッ!」
2,K……それって……そんなのって……ッ!
春樹「おっし! おっし! ドミった! ドミったーーーー!!」
(★ドミネイトの事。【ドミる】【ドミられた】【ドミった】などと表現するポーカープレイヤーの造語。ドミネイトとはハンドの一部が被り、かつ有利な条件。『AKvsAJ』『K8』VS『K4』ここではKが被っていてかつ上位カードを持っているのでそれに当たる)
正明「……」
バカな、バカな、バカな、バカな――ッ!
なんだ、こいつ、何をした――!
この店か、このトランプか? オレのカードがわかっていたのか?
二階堂春樹は一体、何を仕込んだ――!
謀略を上回る脅威を持つ相手に敗れたのか。
それとも、まさか本当に……!
正明「……」
有り得ない。それだけは絶対に有り得ない。
有り得ないはずなのに――有り得ないはずなのに!!!
春樹「GO!」
正明「……」
その先は、もう絶望しかない。
ポーカーでは勝てるつもりはなかった。
負けるつもりもないが、少なくとも分が悪い勝負の自覚はあった。
なので、ポーカー外のテーブルを巻き込んで、技を駆使して勝利へ繋げるつもりだった。
それでも届かなければ、その先に……
けど、なんだこれは。
こんな運ゲー。
正明【K,2】
春樹【K,9】
この瞬間、場の5枚のうち2がでなければ敗北が必須。
加えて9が出れば敗北がほぼ確定する。
もちろん9が落ちても2が2枚落ちればスリーカードだが、そんな薄い確率は視野に入れない。
場の5枚に2が落ちるか。
富豪じゃない。誰がじゃんけんで100万単位の金を賭けると言うのだろうか。
春樹「フロップカード!」
退路はない。
成立した以上、催促される通り震える指先でカードをめくる。
そこには――4,7,7。
正明「あ……」
春樹「うっし! うっし! うっし!」
助けて――助けて助けて。
負ける。
一番可能性の高いフロップカードがスルーされた。
60,000VS20,000。破れてもチップ差があるため勝負は続くが、同時に40,000VS40,000のイーブンに持ち込まれる。
日本最強相手に、イーブン。
正明「……」
この状態で、オレがカードすり替えをできるのか……。
イーブンで、日本最強を迎え撃つって……
正明「……ッ!」
あと2枚。
4枚目のターンカード。5枚目のリバーカードに2が落ちなければ敗北が確定する。
13分の1。
ある。
決してないとは言えない確率。
しかし今となっては、もはや都合の良い夢物語にしか思えない。
春樹「ターンカード」
正明「……ッ」
まるで人形のように、言われたカードをめくり――。
それは、絶望の"9"


