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第二十話『魑魅魍魎の世界』4/7

春樹「うーん、いやー、まいったな。あはは。うん。オッケーオッケー」
春樹「整理しようか。キミのベッドは600万円とボクの質問に答える」
春樹「それなんだけど、もう一つ。加えてほしい」
春樹「ボクが勝利した際、ボクの傘下に入ってほしい」
正明「ハハハ、バカだろ――てめえ。たかが200ポッチでこのオレに条件付きつけられる身分かよ」

それに頷いてテーブルの上に置かれたのは一台の携帯電話。
それは、金色に光るガラケーのようなもの。ガラケーの場合、サイズも一回り大きい事から数世代前のもにも受け取れる。

春樹「少し雑学の話をしようか」
春樹「外資規制厳しい中国の裕福層が、カジノで数千万、数億円のギャンブルをするにはどうしたら良いと思う?」

マネーロンダリング。

表に出せない金を裏で回して、回して、回してと金を洗う作業を繰り返し出どころが見えないようにする比喩から日本語では『資金洗浄』と呼ばれる。
その脱法行為に及ぶ人間の種類は多種多様。
よく思い浮かぶのが大企業の税金逃れ、若しくは暴力団の資金繰りが挙げられる。

その一種。
裕福層が国境を超えて税関の持ち込み上限である$5,000USDを超える金額をどう他国に持ち込むのか?
鞄の中に紙幣を詰めれば空港のX線で引っかかり突破ができない。
海外送金をすれば足が付く。
その回避方法は色々とあるが、2000年代流行った手法の一つがこれ。

NORIAの携帯電話。
真っ当な通信会社から派生してできた合法闇ビジネス。
金とダイヤで施工されたデコレーションの造形。
それを中継先である中国、澳門、米国、カナダ、日本で販売と買取の金額が100%に近い構造で売買を行った会社。
携帯電話本体の価格を買い、それを本体価格に限りなく近い値段で売るだけ。
携帯電話を国境を超えて売買するだけ。
至って合法に思えるが、問題はその値段。

一つ、800万円~億単位のものまで用意されている。
それは事実上のマネーロンダリングの手法として裕福層に幅広く用いられた手法。
その現物がまさに、


正明「……これだってわけか」
春樹「今の金はすごく高いのは知っているかな。こいつは円換算にして1,500万円。ボクはこれを二つ保有している」
正明「……」
仮にこいつの話しが事実だとして、だ。

当然そんな目利きはない。
こいつが口頭で1,500渋沢と言ったからといって、それを鵜呑みには到底できない。
春樹「もしくは、こっちの方が分かりやすいかな。それはそれでボクとしては助かるんだけど」
正明「……ッ!」
こっちとやらの目利きはある程度持ち合わせていた。

春樹ポケットから出したのはロレックスのデイトナ。
これはブラックランダム番で、中古価格でも300万は超える物もある。

正明「ヒヒヒ……」
まいったな。
ポーカープレイヤーといえその場しのぎの現金では圧倒できる。
その構想も、現品一つであっと言う間に崩れる。

春樹「ボクの要求に200万円とこいつだけじゃ足りない。だからこっちを出した。どうかな?」
正明「……」
自称1,500万円のNORIAか、分かりやすいロレックスか。
どちらを是とするのか。
ここでの答えが、竹原正明の底を見られる事になる。

オレは――。
正明「現金のみだ。200で張れ」
春樹「……」
両方を拒否する。
当然、ポーカープレイヤーの言葉なんて信用できない。
そして残念だが、この時計が本物かどうかの識別なんて素人のオレの目利きでは難しい。

春樹の現金に手を伸ばすとそれに透かしが入っていることを確認していく。
春樹「現金主義か。うんうん。今の若い子はそうだよね」
春樹「でも、正明君のベッドは譲れない」
600万円と、傘下に入るというヤツか。

春樹「別に爆弾持って突っ込めとかそういうのはしないよ。サークルに入るノリで全然大丈夫。アットホームな職場的な?」
正明「そりゃ現金のみじゃ合わねえだろ」
春樹「なら辞めようか」

正明「……」
春樹「……」
正明(このガキ……)
駆け引きは続く。


春樹「提案があるんだ」
春樹「勝負なんて辞めて、今のボクらが望んだ事を取引するのはどうかな」
確かにそれなら双方に取って悪くない話しである。

なのだが――

正明「ヒヒヒ――ハハハハハハハッ!」
正明「――バカかよッ!」
正明「ヌルい事言ってんじゃねえよ日本最強さんよお……ポーカープレイヤーはオール・オア・ナッシングだろ!!!」

正明「騙し合って命削って、全部獲るか失うか。そういう世界の頂点に君臨するのが二階堂春樹様なんだろ?」
春樹「あー……そういう子ね」

さて、今こそまさにポーカープレイヤーの腕の見せどころ。
正明「二つ提案を飲め。それがイヤなら春樹とは金輪際会わない。六道組に報告する」

これ以上は譲歩しないとハッキリと境界線を引く。

正明「一つ。オレが勝利した際『竹原正明にポーカーで負けました』とメディアで宣言しろ」
春樹「いいよ。もう一つは?」
正明「ハンデください」
春樹「……」
春樹「……ん?」
正明「ハンデをお恵みください」
春樹「え、あ、あれ? たった今かっこいい事言ったよね。オールオア……なんだっけ?」
正明「どうかこのド素人に、どうかどうかハンデをお恵みください」
春樹「……」
正明「うし。決まりだな」
反論されるのが怖いので決まった事にする。

正明「まずチップ差。当然20,000 VS 60,000でやる。BBは500。ヘッズアップだからSBは無しでいいだろ」
正明「で、席はそこに座れ」
正明「カードを配るのはオレ。さらにオレの用意したトランプも使う」
正明「それとこのグローブを左手にはめろ」
黒い軍手。中に機械の入ったものを渡す。

春樹「……」
正明「どうする? 日本最強さんよお?」
春樹「……」
何かを待つような長い沈黙の後、
春樹「ん? もしかしてそれだけ?」
春樹「全然いいよ。構わないさ」
正明「ヒヒヒ――吠えたな」

まさかまさか、こんなに上手く事が運ぶなんて思ってもみなかった!
マークトデックのカードを同意で使えてディーラーはオレ!
いかにこいつが日本最強といえカードが丸見えの状態!

負ける要素はない!!!

唯一の気がかりはこちらの細工を見破った場合だが……
その目くらましを見破られるかな?

相手が日本最強だとしても、小細工だけは自信がある。


ポケットから"用意したトランプ"を握る。
互いにチップが、それぞれ60,000点。20,000点が支給される。
春樹「……はは、ちょっと緊張してきた」

余裕ぶってられるのも、今のうちだぜ――!
マークトデックが見破られない限り負けるわけがない。
仮にそれを全て看破できたとして、ようやくポーカー勝負。

さらに生まれる三倍の資金差。
考えられうる最悪なシチュエーションになっても、そうそう落とす勝負じゃない。
勝ちが、目の前まで降りてきている。
正明「……」


なんか、
あまりにも順調な感じがして――


正明「あー……確かに、ちょっと緊張してきたな」
正明「勝負前にトイレ」
春樹「オッケー。ボクも後で行く」

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