バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第二十話『魑魅魍魎の世界』3/7

結局とりとめのない話しをしながら食事を終えた。
春樹「まだ時間あるかな? 僕もうちょっと飲みたいんだよね。明日は完全オフだしさ。イェーイ」
正明「ああ。全然良いぞ」
来たな――!
ドクン。
胸が刻む。まるで今心臓が動いたかのように呼応する。

さあ、ポーカーの時間だ――。
春樹「それじゃあキャバクラ行こうか」
正明「ああ」
正明「……」
正明「……あ?」
春樹「え、あはは、わーかったよ。おっぱいでしょ。うん。ボクも前回行きたいなーって思ってて、でもやっぱり……」

正明「春樹」
正明「ポーカーバー行こうぜ?」
その誘いをどう受け取るのか。
反応を確認しようと思ったが、
春樹「おッ! そういうのもいいね! それじゃあプロの実力を見せてあげるよ! はは、って言っても全然下手くそだけどね」
余裕綽々(しゃくしゃく)だな。
こいつの真意はわからない。
もしかしたら、オレの発言も計算づくの上なのか。本当にただの天然なのか。
どちらにせよ――
今から、お前は凍るんだぜ?


【ポーカーバー】
春樹「そうそう。そういえば正明君、ポーカー教えて欲しいとか言っていたよね」
正明「実戦でいんじゃね? 勝負しようぜ」
春樹「おお! 強気~。いいよ。やろうか」
正明「……」
ここまで要望がトントン拍子で進む事に違和感を覚える。

もしかすると――逆手に取られて誘導させられているのでは?

ネガティブな思考が頭をよぎる。
誘導していたとして、何のために?
こいつがオレ如きを嵌める理由なんて存在しない。
よってその発想そのものを排除するべきなのだが――今日、オレがここに居るのはこいつが誘ってきたから。

つまり、竹原正明に用があるのだ。
店の中身を確認する……怪しい要素は見当たらないが、急な誘いのため下見をしてなければ知り合いもいない初めて入る店舗。不安要素は多い。

どうにか"持ってこないと"いけない。

正明「あー、つっても、何も賭けないってのはつまんねーだろ。財布の中身全部賭けようぜ」
春樹「うっわ、凄い強気。あれ、でも僕持ち合わせが……実はカード派だから現金あんまりなくて……」
正明「オレの兄貴が六道組の構成員なんだよ」
初手。始まりだからこそ、持ちうる一番強力のカードを切る。

正明「二階堂春樹と薩摩真司には絶対近づくなって言われてんの」
春樹「へー! あ、そうそう。実はその辺も聞きたかったんだよね」

そういえばとでも言わんばかりの思い出したかのような反応。前情報がなければ鵜呑みにしていた。

正明「いいぜ。何でも答えてやるよ。稲村慎之介だっけ? そろそろ出てくるみてーだし、そっちも色々情報欲しいだろ」
こっちはお前を凌駕する情報を持っているんだぜ?
そのつもりで喋った内容も、うんうんと変わらない表情。切り崩せない。
正明「オレさ。兄貴の名前が坂口哲也。組長六道戒六の側近だ」
正明「望むならその辺の情報もベッドに乗せていいぜ?」
春樹「へー。面白いね! 知ってるよ。坂口さん。有名だよね。へー、そうなんだ。凄いなー。いいよ。それも乗せようか。あー、ちょっとドキドキしてきた」

――これでもまだ、崩せない。
と、思ったのも束の間。
春樹「あ、六道組ってあの反社会勢力だよね。大丈夫? ボクこれから怖い人達に囲まれたりしない?」

チッ……ッ!
正明「……」
先に音を上げたのは、こっちだった。
正明「春樹――もういいだろ」
正明「欲しい情報言って値段つけろ。それをオレのベッドに乗せろ」
サイドバッグから"それ"を取り出す。

正明「とりあえず、現金はここに600ある」
600万円。ロクさんからの見せ金300。オレの全財産300。

それを"驚いた表情"で見つめる。

春樹「うわあ……え、ボクあと5万ぐらいしか……」
春樹「……」
春樹「ちょ、ちょっとまってね!」
どたどた、慌てて電話すると店外に消えていく。
正明「……」
一人残された店内。
脱出口を確認しポケットに忍ばせている連絡用のボタンを常に押せるように準備している。
それを仮に押せなくてもピアスについているマイクから中の声は外に繋がっている。
もちろんここがあいつの巣で、もう春樹が戻って来る事はなく怖いおじさん達に囲まれることも想定している。

正明「……」
よって向こうに待機するスケスケと斬がいつでも連絡を繋いだ状態。

最悪に最悪の状況。
相手が拳銃を持っていた場合……それは持ってくる可能性はあっても、発砲する事はないだろう。

たかが600で強盗殺人。
死刑一歩手前。流石にそこまでのリスクとは見合わないはず。
そして拳銃さえなければ、街のチンピラ相手なら何人集まろうがあの二人で十分制圧できる。

正明「……」
よし。大丈夫だ。今のところ穴はない。
思考を巡らせた中、3本目のタバコに火を点けた時春樹が戻ってきた。

春樹「お待たせー。ATMで降ろしてきたよ。いやー、手数料えぐいね。あれ考えた人死刑でいいと思うんだけど、絶対ボロ儲けだよね」
そしてテーブルの上に置かれる紙幣。

その数……。
春樹「200だね。うん……ちょっと、これがボクの限界かな」
少しだけ上ずった声。オレの物差しではウソをついていないと判断をするに足りる。
春樹「あのね、うーん、深くは言えないんだけど、プライベートでちょっと、ね。別件ですごいお金使っちゃって、正直今超節約モートなんだ」
正明「そんなんで大丈夫かよ。ベル=ホワイトにちょっかい出されるかもしれねえのに」
春樹「あはは、それなんだよね。本当に……」
春樹「……」
お?
初めて見せた、警戒心を強める二階堂春樹。
正明「言ったろ。正しく明るい竹原正明」
春樹「……」
値踏みするような視線を真っ向から受け止める。

しかしベル=ホワイトねえ。
全く知らねえけど憂ちゃんが言っていた変な情報が役に立ったらしい。

ってことは北村憂をそそのかすか……六道からそっちに切り替えてもいいかもな。
春樹「正明君、キミ、本当は誰の傘下なの?」
正明「髪の毛ウェーブの女にちょっと知り合いが居てな」
春樹「あ、すごい。それすんなり教えてくれるんだ。へー!」
春樹「……」
春樹「へー……」
それから、春樹の言葉は続かなかった。

ビンゴ。
どうやらこいつは憂ちゃんと面識があるようだ。
それもオレにとって都合の良い形で。
春樹「イシュタム……知っているんだね?」
正明「その答えを――ベッドに乗せるんだろ?」
春樹「ふふ」
そう煽って"初めて"二階堂春樹は笑った。

しおり