第二十話『魑魅魍魎の世界』2/7
どうやって二階堂春樹を誘い出すか。
幾つかのプランを考えていた最中、意外にも向こうからコンタクトがあった。
正明「……」
もちろんそれを呑む。
呑むが……主導権を握られる嫌悪感は強かった。
話はトントン拍子に進み、そして本日――
◆【繁華街】
春樹「やほー! やほやほやほー! 偉いね。約束の時間15分前なのに。君、見た目からして30分ぐらい待たせるかなーとか勝手に思ってたけど最近の若者って偉いじゃん」
相変わらず絶好調なお喋りを続けるのが曰く日本最強のポーカープレイヤー。
二階堂春樹。
正明「飯奢ってくれるって約束だもんな」
春樹「あっちゃー。覚えてたかー。ってあれあれあれ。この前ラーメン奢ったよね? うん、別にそれぐらい全然いいんだけどね」
春樹「それじゃどこか入ろうか。お腹ペコペコ。オススメある?」
正明「この辺わかんねーわ。適当でいんじゃね?」
ロクさんの縄張りはまずい。とはいえ、こいつの地元もかなり遠い。との事で、自宅から一時間ほど場所を移した繁華街で彷徨う事で合意した。
◆【店内】
春樹「ねえ今の店員さんって美人だけど彼氏いない系のパターンだとボクは思うんだ。何ていうのかな。この、女性独特のこの、失恋後の味、味じゃないか。匂い、うーん、気配!」
……そういやこの辺は考えてなかったな。
場に乗るのがラシェルやダリア、場を壊すのが木葉だとするなら、こいつ"場を作る"プレイヤー。
例えるならば、1だよね。2だよね。3だよね。と小さく相槌を続けていくうちに突然6兆8,000億だよね。とわけのわからない爆弾を仕込まれる、その手のタイプ。
そういう意味では二階堂春樹は理解ができる。
手口こそ違うが――オレも同族だからな!
春樹「胸チラとかじゃなくて、すっごい巨乳が露出なしで存在感あります! みたいな、あれの方が絶対エロいと思うんだ。で、露出はいらないんだけど、薄地がいいんだよね」
よってこいつの手法はわかる。わかるが……実のところ対処方がない。
特に今、本命じゃなくジャブ。様子見の段階。会話を打ち切っても別のくだらない会話へと転化して事は終える。
正明「……」
思えば、憂ちゃんの会話もいつもこの手の話だ。
どうでもいい話をつらつらと、時間の浪費と認識させ意識が離れた後に――ブチ込む。
憂ちゃんと出会った事は幸いで、となればこれは初見じゃない。
イヤと言うほど、この手のタイプは熟知している。
正明「……」
強いてこの流れをどうこうするのであれば、オレ自身も場を作る事だが……。
二階堂春樹が、竹原正明をどうしたいのか。
その目的が見えない以上、こちらからのアクションは失敗する可能性を招いてしまう。
春樹「それじゃあ早速本題なんだけど」
そう。こいつを釣る餌としては"まずは"六道組。
そのためにここ数日、必死に情報を取ってきて――
春樹「合コンしようよ」
正明「……」
正明「ん?」
春樹「あれ、ヤバ。もしかして今の若い子って言い方違う? えっと……男女で楽しくお酒飲む……飲み会? そう! 飲み会!」
春樹「うあ……コンパ! コンパだ! イェーイ! コンパイェーイ! ヒュー!」
正明「……」
――って違うだろ。
イラつく。
それがこいつの目的なら、それは見事に刺さっている。
思考を中断するな。呑まれるな。駆け引きはもう始まっている。
春樹「ボクってさー、仕事の都合って言うか先輩の都合って言うか、世界中色んなところ飛び回ってたんだけど、そろそろ落ち着きたいよねー。良い人いないかなーってやっぱり思うんだよね」
正明(……チッ)
目的のために迂回に迂回を重ね相手の情報を得るのはオレもよく使う常套手段だろう。
春樹「ちなみにボクは黒髪ロングヘアーで巨乳の美人がタイプかな。お慕いしてます、みたいなこう……なんていうのかな。すり寄ってきてくれる猫系女子? みたいな?」
しかし流石は日本最強のポーカープレイヤー二階堂春樹。
既にもう相手の姿が見えなくなった。こんなクソみたいな会話超打ち切りたい。
正明「……」
よし。
オレはこんな会話したくない。それは向こうから見た竹原正明もそう。
となればオレの正しいリアクションは……いやいや会話に乗って、痺れを切らすはずだ。
正明「由美子の知り合いでそういう女居たな。今度紹介してやるよ」
春樹「うおおおお! うお、本当に! あの、君! なんでも好きな物頼んでいいから! 今日ボク奢るね!」
しかしそれにしても憂ちゃんに似ているな。
喜怒哀楽がハッキリしてて、人間味があるって意味で。
加えて言うなら、憂ちゃんの感性は常人とは異なり不気味さを感じるが、こいつの目的。女という点については男として常識の範囲内である。
春樹「そういえば、ごめん。名前なんだっけ。お互い自己紹介まだだよね」
正明「……」
名前なんだっけ。
煽っている様には聞こえない。逆に気遣いができるならばその部分丸ごと抜いて自己紹介しようだけで事足りる。
って事はこいつは頭が良くなく、気遣いもできないが悪いやつじゃない。そんな男が素で喋っていると断言するべきだろう。
――ポーカープレイヤーでないなら。
正明「正しく明るいと書き、正明。竹原正明だ」
ちん○ん(千田千尋)が余計な事を口にしたせいで本名を名乗らざるを得ない。
もとい、こいつには竹原正明の名を刻んでもらう必要がある。
春樹「僕は二階堂春樹。ポーカー界では知らない人がいないほど有名で、一般人は誰一人知名度がないんだ。あははポーカー人口が少ないからつまりほとんど僕の事なんて知らないんだけどね」
日本最強プレイヤー、二階堂春樹――。
それを目の前にした時、オレの境遇で行う行動として……
まず、その気さくな口調を崩すところから始めるだろう。
正明「なあ――別に二階堂春樹って大したことな……」
春樹「すみませーん、生二つお願いしますー」
春樹「あ、お姉ちゃん可愛いね。地元の人? あー、やっぱり! こっちの人ってなんか親しみやすいよねー」
春樹「親しみやすいねんて!」
正明「……」


