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第十七話『恐怖の裏が快楽へ』1/2

◆【リレイズ北村】
ザッ、ザッ、ザッ、と100均で買ってきたホウキで店内を清掃していく。
掃除はどちらかと言えば好きだが、労働は大嫌いで、だけど正直段々慣れてきた自分がイヤだった。
憂「ねえ正明君。正明君正明君正明君。まーさあーきくーん」
正明「……」
蛇口から水道水を入れてテーブルの横に置く。

憂「今日まだ飲んでないよ。それにそれ水道水だよ。飲めないよ」
正明「水道水が飲めないわけねーだろ」
憂「うーわ、日本人だー」
わけわからん絡みを無視して掃除を再開する。

憂「ねえねえ正明君。やっぱり……んー、怒ってる?」
正明「あん?」
憂「んー……」
憂「この前、私が勝った後正明君オコだったでしょ」
正明「おこ?」
憂「怒っちゃったよね?」
正明「そりゃ負けたら怒るだろ」
憂「んー。だよねー。凄かったもんねー」
うんうんと頷く。

憂「テーブル叩いていきなり関係ないモッチーにローキックしてたから、からかいすぎちゃったかなーって」
憂「反省。えへっ」
あ、なるほど。オレ煽られてるのか。
憂「お詫びに、今日はデートしてあげようかなーって思っているんだぞ」
正明「ただの罰ゲームかよ。行かねーよ」
憂「……」
憂「それなー」
なんか今日の憂ちゃんムカつくな。

憂「とりま、遊び行こうよ」
正明「とりま?」
憂「あれ……? もしかして伝わってない? うん、バリ伝わってない?」
突然携帯を取り出したと思うと、うんうんと頷いてしまった。
憂「それなー」
殴っていいかなこいつ。

憂「あ! 凄く良い事思いついたよ正明君! 正明君って貧乏でお金ないでしょ。毎日天カス食べてるんだよね」
正明「そのガセネタ言ったヤツ教えてくれよ。ぶっ殺すから」
憂「それなら身体を賭けるってのはどう?」
正明「……」

……正直、そういうの提案も北村憂ならあるとは思った。

正明「ッハ。それってギャンブル漫画とかで見る、手足に穴空けるとかそういうのか」

恐ろしい提案だがこいつは北村憂。
その発想はむしろオレの中にあるイメージと近い。

憂「えー。センス悪。そんなの可哀想じゃん。正明君にそんな酷いことしないよー」
まあそうだよな。常識的に考えて、そんな突拍子のない……

憂「お尻の穴賭けようよ」
正明「それなー」

今日酒飲んでねえってシラフでこんな事口走るのが本当に恐ろしい。

憂「それじゃあやろっか。負けたら正明君の処女もらうね。どうせ私が勝つからもう挿れていいよね?」
正明「なあ憂ちゃん。オレ実は女をあまり殴らない紳士なんだけど限度があるんだぜ?」
憂「えへへ、300万円でどうかな」
正明「……」
300渋沢……300渋沢だと……
ホモAV男優の相場……そんなもの知るわけないが、300渋沢と言うのならばその金額は遥かに上回っているのではないだろうか?

憂(迷ってるね)
憂「350万円」
正明「……ッ!」
憂「370万円」
正明「オークションやめろ!」

落ち着けバカ! 今はこいつに勝てん! 認めろ正明! どんなに煽られても糸口が見えない相手とはやらん!

憂「じゃあ……正明君が勝ったら私の身体を好きにしていい、って言ったら?」
正明「わはははははは!」
憂「何故笑うんだい?」


正明「そういや憂ちゃんって普段何しんの?」
憂「うん? お客さんの接待とかポーカーの指導とか。もう先生教えてくださーいって毎日連絡頻繁で凄く大変で、お店も人で溢れて溢れてナンパもしつこくて……」
正明「妄想じゃない方な」
憂「んー。何しているんだろうね。天井見たりボーッとしてたり……」
憂「アニメ見たりゴロゴロしてたり……あ! 掲示版もこの前立ち上げたよ。職レポ! ポーカー店の店長だけど質問ある? って」
憂「レスつかないで落ちちゃった……ふふふ」
憂「……」
憂「はあ……なんか死にたくなってきたなあ……もう全部終わらせちゃおうかな……」
なんだろう。こいつって根っこが暗いよな。
憂「ねえ正明君。人ってなんで生きているの?」
正明「心臓あるから」
憂「確かに!」
今日はいつもに増してうぜえ絡みだな。

っと、もう12月か。
11月中にこいつの借金代わりのバイト終わらそうと思ったけど、少し遅れたか。ま、つってもあと一回だが。
正明「次でもうリレイズ北村来なくて済むな」
憂「うん? なんでなんで」
正明「前話したバイト分、あと一回で終わり」
憂「あ、そうなんだ。じゃあ追加でお願い」
正明「やだー」
憂「ん?」
正明「いやだぁ~」
憂「……」
ガラガラといつもの場所から渋沢さんの煉瓦が生まれる。
憂「ほら」
正明「いやなのだぁ~」
憂「……」
憂「え?」
正明「だって今のオレじゃ勝てないもん」
憂「……」
憂「うわ、困った! 正明君超頭良い!」
あ、ヤベ。今のイラついた。

憂「ん? 待って。それって正明君が本当にもう来なくなるってこと?」
憂「もー、そんな事ないよね。全然そんな事ないもんねー。ねー?」
正明「バイトとしてはな」
憂「お客様として常連さんになるんだね!」
正明「……」
当たり前だが、憂ちゃんにとってのオレは可愛い後輩。
もしくは歳の離れた友人。
或いは良く思っていないとしてもただの話し相手や暇つぶしだろう。

到底――敵としては、見られていない。

正明「……」
無意識に握りしめた拳を緩めた。
ヒヒヒ、当たり前だよなこんなクソ雑魚。
今はそう思ってろよ!

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