第十五話『金の先にあるものは?』
◆【屋上】
高台から見える景色は素敵だが、生憎良い景色とは言えない。
大都会とまでは言えないが田舎でも学園の屋上。
周囲の建物の高さから一望はできないが、それでも少しでも高く高く有りたいとその男は限界まで突き詰めた。
貯水タンクの上に立ち世界を眺める少年の瞳には、何が見えるのだろう。
風に揺られる前髪から自然を感じると、ここに世界がある事を噛み締めて目を瞑った。
しばらくそうしていると、タバコの香りが風に乗る合図で目を開いた。
――依頼主の登場である。
恭介「出会うたな――この俺と」
正明「スケスケが呼んだからな。遠いから降りて来いや」
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恭介「少々値が張ると念を押したが、まあ貴様には相応しい買い物であろう」
正明「お! ってことは……」
恭介「二人の天使が向かい合って自転車を漕ぎ、周囲を蔦と唐草の文様が取り囲む」
恭介「その線は繊細で、シンメトリックな構図が美しい」
恭介「百年以上変わらないこのデザインは、世界中のマジシャンやカーディストの手元で回り続けている」
そういって差し出された一束のトランプ。
恭介「Bicycle(バイスクル)」
正明「おおおおおおおお!」
それを4つ。合計4束。
恭介「一つは市販品。残り3つは特注の品だ」
正明「わああああああい! わあああああああああい!」
恭介「貴様が物品でここまで歓喜するものが、よもやマークトデックとはな」
マークトデック。
スケスケが使ういつもの難しい言葉ではない。
それが今回依頼の商品名、トランプそのものだ。
恭介「真っ向うから化け物をぶっ飛ばす――ククク、そう豪語していた結果がコレか」
正明「騙し騙され、騙り騙られが錬金術の真っ直ぐなんですよ」
オレより頭の良いヤツなんていない。オレより頭がキレるヤツはいない。
少し前まで本気でそう錯覚するぐらい、何もかもが順調だった。
それがテキサス・ホールデムに出会ってから、このザマだ。
恭介「――問おう」
恭介「最終的に、貴様の野望が果ての果て。その最終地点まで辿り着いた時、何が残る?」
正明「金」
恭介「その先だ」
正明「……?」
やけに今日はスイッチ入ってるな。
考えた事がなかった質問に頭を巡らせるが、放棄した。
正明「ボク達は、何の為に生きているんだ……ッ! 的なヤツ? ヒヒヒ、くだらねえけどそういうの好きだぜ」
正明「つーか日本人ってみんなそういうのないんじゃね? みんな生きてるから生きてます、みたいな。逆にみんな死んだら死ぬだろうし、怖いよな」
恭介「真っ当な考察だな。異を唱える箇所もあるものの概ねは同意」
恭介「しかし、いやなに。錬金術師の目的であり存在価値である金。それは周知の事実で疑うつもりは毛頭にない」
恭介「だが、貴様の場合その先の世界も見据えているのではと少し興味が湧いてな」
恭介「俗物の具現化である貴様だが、地位や名誉といったありきたりな答えには照らされないのであろう?」
正明「誰が俗物の具現化じゃ!」
うーん、違う。この程度のツッコミでは到底木葉の領域には届かない。
恭介「一応、本心だ」
恭介「あの日、死を賛美する眼を持っていた貴様。故に、こうやって問う機会も残り指折り数える程だろうと思い、ふと、な――」
あの日、死を賛美する眼……あー、焼肉屋の事か。
確か憂ちゃんぶっ殺すって豪語したんだっけ。
で、その後……。
正明「……」
正明「ふぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
恭介「詠唱か?」
正明「なによそれッ!」
うっしゃっ! 木葉に近くなりましたですわッ!
正明「あー、それなんだけどスケスケ君」
正明「もうボコボコにされて完膚なきまでに負けちゃった。えへ」
恭介「……ほう」
意味ありげに微笑む。
恭介「貴様が人から乖離している属性の一つがそれだ」
恭介「虚勢を張らん。欲に忠実である意味最も人間らしい貴様が自分の不都合を周囲に知らせるのが不思議でな」
正明「負けは負けだろ。しょうがねえじゃん」
正明「――絶対許さねえけどな」
恭介「ククク、それも流石とでも言おう」
見栄。
ある意味それは竹原正明の中で一番記憶から消したい黒歴史――モチがいたのでモチに関わる全てを消した上での二番目に消したい黒歴史かもしれない。
恭介「では、これで再戦を挑むと?」
正明「正明諦めない! 正明頑張る! 正明戦う! 正明ネバーギブアップ!」
正明「でも今は時期が悪い。ほら、最近寒いじゃん?」
これはすげえ武器だが、これだけじゃまだ全然北村憂には届かない。
一縷の望みで命は張れない。
一縷とは言わず一割。でもやっぱり二割。でもでもやっぱり五割は欲しいよな。やっぱ99%。
正明「ちょっと回り道して、雑魚狩りしようかなーって」
恭介「其れが依頼の内容か? ククク、資金繰りのレベルからか」
正明「あー、そうそう。博打じゃなくて別の依頼したかったんだ。ちょっと調べて欲しい人物がいるんだよ」
恭介「問おう」
正明「稲村慎之介。この街で警官殺しした殺人犯だって」
恭介「……何故錬金術という代物は危ない橋を好むのか」
正明「ちげーよ。そんなヤバいヤツとはやんねーよ」
言ってから気づいた。ヤバいヤツ、ってざっくりした見方なら犯罪者と同等以上に危ないヤツを相手にしているんだろう。
正明「細かい情報もそうだが、最近の動向について調べてほしい」
恭介「承知した」
正明「……」
正明「ついでに二人。調べてほしい人物がいる」
正明「薩摩真司。それと二階堂春樹」
恭介「……おい」
正明「ん?」
恭介「貴様、もしやボコボコにされたと言う相手は日本の頂点に……」
正明「あー、違う違う。それとは別のヤツ」
正明「日本最強のポーカープレイヤーってのが、二階堂春樹っていうみたい」
恭介「つまり?」
正明「そいつが次のターゲットなわけよ」
正明「つまり日本最強っていう雑魚狩りよ――!」
恭介「ククク、なるほど退屈しないな――ッ!」


