第九話『反省会はハマるんで』
◆【ハマルン】
32o
『o』はバラバラの意味で、この場合例えばハートの3とダイヤの2となる。
もとい、始めに配られる最弱のカード。
"そいつ"はフロップを見る前に32oでポットの3倍レイズから入った。
――何故?
利がないんだ。
相手がAやKやQなど上のカードを持ってフロップに望んだとして、ローボードが落ちればチャンスはあるが、わざわざこのカードで行く意味がない。
もちろんAKに対しの23でも、場のボードが368などであれば3のワンペアの方が強い。
強い、が。それでも6,8のワンペアにも勝てない以上大きく打てない。
じゃあ何故32oでそいつは入ったのか?
その時の場のボードは49Q。
後にオレのレイズにリレイズして、したり顔でカードを見せつける。
場に32は落ちておらず、必敗のカードで。
オレはそのレイズに耐えきれず、降りた。
――降ろされた。
あれだ。
あれが、分水嶺。
それから敵の姿が見えなくなって……オレは駆け引きを放棄した。
今となってはわかる。
あのカードだから、意味がある。
『来れば勝ってたのにビビったんだんだ』
ただ、そう言いたいだけの挑発なんだ。
バァン!!!
禁止行為の台パンではない。元気よくチャンスボタンを押しただけだ。
ハゲジャグさん「竹ちゃん……わかる、わかるよ。ぼくも死ぬ時はこの店にトラックで竹ちゃんと突っ込むって決めてるんだ」
正明「一人で死ねよ。巻き込むな」
あのバカがうるさすぎて家で思考することができない。
じゃあ家以外で頭を整理する場所……それが、パチンコである。
ちなみにスロットは子役のカウントやCZ確率など数えるのに忙しいのに対し、パチンコはお金を入れた後は口開けて待ってるだけなので有効だ。
正明「……」
テキサス・ホールデムにおいて駆け引きを放棄することはその時点で敗北を意味する。
今思い返すと放棄したんじゃない。放棄させられたんだ。
あの女――あの女――ッ!
『一万回やっても負けないよ?』
んなわけねーんだよ!!!
テキサス・ホールデムの勉強を続けてある程度の"目"は頭に入っている。
ヘッズアップ(1vs1)の場合、フロップ前であれば強いカードなんて知れている。
AA:85%,KK:82%,QQ:80%,JJ:77%,TT:75%,99:72%,88:69%,――と、ポケットペアでここまで。
AKs67%,77:66%,AQs66%,AJs65%,AKo65%……ってなわけで、Aと何かがくっつく強いカードでも65%~67%。3回に1回は負けるってこと。
そもそも最強のバレッツ(AA)であっても勝率は85%。
最強のカードでこれだ。
最強のカードも15%で負ける。回数で言えば7回ぶつかれば1回は負ける。
よって一万回やっても負けないとか、盛りに盛った誇張表現なのは数字上間違いないと反論できる。
反論できるが……。
正明「……」
そうじゃねーんだよな……。
そうじゃない。着眼点はそこじゃない。
チィ……!
つくづく自分が凡人だと思い知らされる。
まず普通に考えてだ。駆け引きあってのテキサス・ホールデム。
もし駆け引きが存在せず、確率だけで打ち合った場合、確率の精度が高いプレイヤーが勝利していく。
だがそれは恐らく53:47とか、そんな話しになるはずだ。
一ヶ月やれば100%憂ちゃんに勝てない。一週間でも9割以上無理。
しかし1ゲームだけならば、オレにも4割以上。限りなく5割に近い勝利があるはずで。
で――そうならないってのがポイントで。
正明「……」
待てよ……。
32oのブラフに怖くなって、駆け引きを放棄した。
それがそもそも違うだろ。
極端な話し、駆け引き放棄して全部オールインしたらどんなにヒキ弱でも15%。相手がA持ちの強ハンドでも35%は勝てる。
憂ちゃんにとっては駆け引きした方が勝率が良いはず。それを放棄したとなれば、それは悪手だ。
――で、
駆け引きを放棄したと決めつけていたオレは本当に駆け引きを放棄したのか?
本当に?
正明「……」
あの女は、誰よりも熟知している。
どうすれば、人が嫌がるのか。
ハゲジャグさん「竹ちゃん、お魚さんが……お。ボクもきた……」
どうせ当たんねーだろ。
正明「……」
どうせ当たらねえよ。
当たらねえと思うけど、でも……。
キュインキュインキュイン!
正明「おー! 早えじゃん!」
ハゲジャグさん「ボクも当たったよ。早かったねえ」
1/300の確率が50回かからなかった、って考えれば中々早い。
0.33%でも50回で引ける場合もある。その確率はおよそ15%。
フロップ前に最強のバレッツがオールインして負ける確率も15%。
正明「……」
確率はウソをつかない。
期待値がプラスであろうがマイナスだろうが、
偏りがあろうがあるまいが、結局は収束する。
パチンコ、スロットを実際に打ってみてわかったのはその収束は思っているよりも早いということ。
ハゲジャグさん「竹ちゃん、調子いいね」
ハゲジャグさん「今日は夜から用事あったのになあ。もうこれ、今日ずっと帰れないかもしれないねえ」
正明「63%閉店まで引き続けたらな」
リバーカード。
最後の一枚でたまたま勝敗が変わるケースを何度も見てきた。
7割勝っていたゲームが、たまたまバッドビートで負ける。そんなクソみたいなケースも、逆に幸運もあった。
テキサスホールデムは囲碁や将棋などのテーブルゲームと違う。
100回やれば、世界最強が相手でも40回は勝てるだろう。
何故なら運が8割。実力2割のゲームだから……そんな風に、思っていたが――
これ、そもそも前提が間違ってねーか?
『ビッグボーナス!』
ハゲジャグさん「うんうん。今夜は久しぶりにシーフードカレーも出そうかなあ」
もう一度、もう一度考えろ。
憂ちゃんと遊びでポーカーしている時、オレの想定通り4割以上の勝率はある。
実際に戦った実践値で累計、即ちトータルで4割勝ってるという"事実"だ。
これ、推測とか予測でなく、実践値。事実っていうのが滅茶苦茶でかい指標になる。
対して――。
初めてテキサス・ホールデムをやってみたデビュー戦。紛れもない本気の北村憂の為す術もなく完封された。
そして二度目の対戦は――さっき振り返った通り。
2の0。確率4割を仮定として、全然想定内の確率で……
想定内の確率だからこそ、見誤ってんじゃねーか?
『一万回やっても負けないよ』
正明「……」
確かめる必要があるな。
だけどどうやって?
アミューズメントや低レートじゃダメ。
つっても高レートでの勝負なんてオレの実力じゃあすぐに蒸発する。
理想はノーリスクで答えを抽出するって事だが……都合良い考えだろうなあ。それは。
『ショックー』
ハゲジャグさん「終わってしまったねえ」
正明「そうだな」
飛び抜けてる運もない。
確率を突き詰めればそれに長けるヤツには劣る。
表情から読み取る心理的な経験値なんてない。
じゃあ何がのあるのかと問われれば――何もない。
そんな凡人なオレが全てを上回る北村憂を相手にするなんて馬鹿げている。
得策ではないと言うより、弱肉強食のギャンブル世界で最も非効率な事をしていると理解している。
北村憂を、諦めるか……。
『ショックー』
正明「ヒヒヒ……」
こいつクソ金髪クソ女、憂ちゃんみてえだな。
ハゲジャグさん「台を殴ったらダメだよ。可哀想だもん」
北村憂を諦めるだあ?
思ってもねーよな。そんな事。どの口で言ってんだよ。いや、言ってはねーけど。
憂ちゃんを相手にするのは最も非効率。大丈夫。理解している。そんな事もわからないほどバカじゃない。
理解はしているが――受け入れねえだけなんだよ!
ってなると課題や問題は山積みだが、まずはオレのレベルアップか。山積みの課題を一個ずつ片付けなきゃなんねえわけね。
そうなると千尋のところでプロを消費したのは痛いな。近場の実力者から何か盗めればと思ったが……。
正明「さーーーって、さて。どーすっかな」
白紙だな。やることが多すぎると動きが鈍るんだよな。
さて……どうすっかなつっても選択肢なんてねーわな。
手探りで探すか。


