第四話『気持ち悪い』2/2
憂「私がさ。このお金賭けるから、正明君が負けた時に払う物。私が決めていいかな?」
正明「う、う、あ、え……な、なんでしょうか?」
やべえ。これBB分も買えねえ……オールイン勝利で104円。ぐ…うひょお。死んだ。
憂「お金じゃないよ。安心して」
正明「……」
そういやそうだったな。
こいつは北村憂で、金よりも……なんだ、いや、なんだじゃねーだろ。
こいつの欲しい物を知るために、そもそも今日ここに来たんだよな。
その答えを渇望したところ――。
憂「正明君は、何も賭けないでいいよ」
正明「……は?」
憂「ノーリスクで、私に勝ったら100万円! わーい!」
正明「……」
あ……?
こいつ……。
憂「ね! ほらほら、ムカついた顔し始めた!」
憂「正明君って、本当にキレイな良い子だもんねー。こうやって施されるのが一番嫌いなんでしょ?」
憂「私があげるって言っても受け取らないでしょ。あははは! 自分で勝ち取りたいんだもんねー。やーん、すっごい可愛いー」
正明「…………ッ」
聖域と呼ぶのは大げさだが、そういうの。
誰にも見せるつもりのない心の奥を土足で入ってくる恐怖。
誰にも知られたくない事。それを平然と覗いて踏みにじる羞恥。
羞恥と恐怖の感情が入り乱れて――。
憂「私はね。正明君にノーリスクで勝負を挑んでほしいの」
憂「だって、そんなチャンスで負けちゃったら、また悔しい想いする正明君が見れるんでしょ?」
憂「だってだって、すっごーーーいお得なのに、それって正明君の道理から外れてるから、イライラしちゃうんでしょ。やーん、すっごいピュア!」
こいつ――!
正明「ぐッ…………」
こいつ、こいつ――
――なんだこいつ!!!
気持ち悪い、
気持ち悪い……!
人を、感情を、まるで手のひらで操って……何が楽しいんだ、何が。
正明「……ッ!」
冷静になれ! パニックになるな!
こいつ相手に頭が働かなかったらそれこそ一瞬で飲まれる。考えろ。思考を止めるな。
正明「……」
嬲(なぶ)るのが、虐めるのが楽しい……なるほど。そういうのなら、わかる。
オレだって加虐心。虐めて喜ぶ心が全くない聖人ってわけじゃない。気持ち良いとは思わないが、最低限は備わっている。
たけど、こいつは……なんだろう。同じなのに、理解できるのに何か違う。
得がない……得がないから?
なんて理に基づく定規で測ろうとしてそれじゃ測れなくて。
測れないのは当たり前の事で、理由は北村憂だから
そんな、そんな思考停止でさえ、受け入れてしまいそうな。
力いっぱい、自分の拳を握りしめた。
――落ち着けつってんだろ小者が!
憂「……」
葛藤する獲物を楽しそうに眺めると、準備を始めた。
右手に持つトランプを内から外へ広げ52枚表向きで見せつける。
左手に持つ壱万円札を内から外へ広げ100枚の丸の内駅舎を見せつける(万札お札に描かれている建物)
憂「怖いでしょ」
憂「逃げることも。立ち向かうことも」
怖い。
ただ金を広げられただけなのに、恐怖を覚えるのは何故なのか。
怖いってのは、理解できない事よりも。普通じゃない相手よりも。
少しだけ、ほんの"少しだけ"おかしい事なんだ。
チェンソー振り回しているスプリッター映画に出てくる化け物よりも恐怖を覚えるのは何故か?
人間と同じ外見で、人間と同じ心を持っていて、人間と同じ成分でできているのに――人間じゃない目の前のこの女。
ほんの、ほんの少しだけが違う。
その少しが、個性の幅を超えた、異質な何か。
憂「私の欲しいものって"ソレ"なんだ」
憂「だからぜーんぜん、気にしなくていいんだぞ★」
正明「――やる」
でもオレは、竹原正明で。
憂「あはは。前に教えてあげたんだけどな――」
正明「……」
オレは、誰であってもオレを煽るヤツを許しちゃいけない。
憂「一万回やっても負けないよ?」
正明「だったら十万分の一でも引いてやる――!」
オレは、オレを煽るヤツを――許さない!!!


