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第四話『気持ち悪い』1/2

暇なのか清掃だけは行き届いているのが唯一の評価点。
そんなリレイズ北村だが、ワイン瓶が足元に転がるのに気にならなくなっていた。

それでもその語りは留まる事を知らない。

憂「それじぇね、生徒が言うの。憂先生のおかれで、ボクは成長できみあしちゃって!」
望代「んー、んー……」
憂「そう! そうなのモッチー! あは、あははははは! あー、ちょっと気持ち悪いかも」
正明「トイレで吐けよ」
歩けないぐらいにワイン瓶が転がってて、コレだ。

ちなみにモチは出前のピザをたらふく食べた後、少し飲んだらもう眠くなってる様子。
今は憂ちゃんの独り言大会になっている。

憂「あはっはは、あー、たのちいねー。たの、ヒック。たのし!」
正明「はいはい」
酒に強いわけじゃないので、飲まないように徹していたが……。
ついにモチもテーブルに伏せて寝息を立てた。

憂「れも正明君もありがほね。わらひすっごく嬉ひかった」
憂「なんかゆ……うん、う……うん。嬉しい! 嬉しいんだ!」
正明「はいはい」
今日は完全に時間の無駄だったな……こうなりゃオレもワインがぶ飲みするか。

憂「ううん。ちゃんとお礼ひわせて」
正明「いいって」
憂「聞いて! 聞きなさい! あはは! いいね! 聞きなさい!」
あー、もう面倒くせえなこいつ。

憂「やっはり聞かないれ!」
憂「あははははは!」
殴っていいかな……ここで殴らないって、オレ偉いよな。

憂「れもね、私に興味あるっへほとだよね? そうだゆね。あぁん、お姉さん、うれひい。素直になっていいんらよ?」
正明「はいはいはいはい」
マジで無駄足だったな。
こいつを相手にするために色々多角的にアプローチしたつもりが、結局は――


【BGM OFF】
憂「北村憂をポーカーで潰したいわけだよね――?」
正明「ッ――ッ!?」

心臓が鷲掴みにされる感覚。
虚ろだった視線は微動だにせず、はっきりとオレを捉えていて、ゆっくりと、微笑む。


憂「目がいいよね正明君。キレイだし、正確だね」
憂「私を格上だとわかってる。で、それでいて、わかって突っ込んでくる」
憂「――そんな真っ直ぐな正明君だから嬉しいんだよ」

視線を交えただけで、言葉通り格の違いを思い知らされる。
ふと頭を過ったのは、先日言われた『死相が出ている』の言葉。

正明「――ヒヒヒ」
そうだよな。
これだよ。北村憂は、こういうヤツだよな。

憂「今日はお金持ってないでしょ。初めから緊張感がないもんね。それなら探りのつもりで来たのかな?」
憂「あはは、まだるっこしいけど、そうやって石橋を叩くのって正明君らしいね」

そういやこいつ――ッ。
呂律(ろれつ)も……!

いつからだ?

北村憂は、ワインを飲んで虚ろな目で夢の世界にトリップをしていた。
滑舌がボロボロになるまで飲んで、呂律の回らない語りの後、トイレでげえげえ吐いていたみっともない大人の代表者だった。

じゃあ……今のハキハキ喋る"コレ"はなんだ?

些細な事だ。ほんの些細な事だが……いつからオレはその認識を植え付けられていた?


憂「やろうよ」
52枚のトランプをポーカーテーブルの上に一瞬でスライドさせる。

憂「今日はポーカーじゃなくて、ギャンブルを、ね?」
正明「……ッ」
オレが金持ってないって前提で、ギャンブルってなると……なんだ、こいつの欲しい物は。
思考が定まらないまま、北村憂は続ける。
憂「バイト中にね。私がお手洗い行っている最中とか、眠ってる時とか。色々ね。この辺にお金しまってあるの知っているよね」
そうやって鍵のかかっていないキャスターから百萬円の束をチップの横に置く。

憂「このお金、正明君取らないの。良い子だよねー。じゃあ悪い事しないのかって言うと、バーバを騙し討ちでチケット取るぐらいの極悪人さんだ!」
憂「それってつーまーりー」

憂「施されるのが嫌いな思春期の子供! あーん、かわいいーッ!」


ドンッ!
勢いよく財布をテーブルに叩きつけた。


正明「てめえ誰を煽ってるのかわかってんのか――北村憂!」
憂「あーん、かっこいー」
正明「……」
いそいそと財布の中身を確認する。
正明「…………」
10円玉が1,2,3……52円。

え、ウソ。いやいや、ウソでしょ。

52円。
正明「……」
どうしよ。お財布君空気読んでよ……。

憂「私がさ。このお金賭けるから、正明君が負けた時に払う物。私が決めていいかな?」

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