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第66話

 すばしこい奴だ。
 聞いていた話の通りだ。
 その小さな体に、この牙を突き立ててさえやれれば、必殺の毒で難なく仕留めることができる。
 たやすいはずだ。
 だがこの小さい生き物は、はしこいにも程がある。おまけに信じがたいほどのスタミナを持っている。
 何度、何十度噛みつこうと飛びかかっても、こいつは予知能力があるのかと思う程に素早く、そして力強く大地を蹴り飛んでかわす。
 牙も、毒も、まったく奴に届きはしない。
 対するこちら側は、信じたくもないことにそろそろスタミナが切れかけている。
 牙も、毒も、何の助けにもならない──ああ、爺ちゃんの言ってた通りだなあ──
 最後にそんなことを想った直後、脳天に何か固いものが突き刺さるのを感じた。
 コブラは無念の中、捕食された。
 マングースは、強かだ──
 爺ちゃんの声をふんわりと聞きながら。 

 マングースは闘いの中盤あたりから、気づいていた。
 自分と、この毒蛇の闘いを、誰かに見られている。
 見物客か。呑気なものだ。
 こちらは命を賭して闘っているというのに。
 他者の必死の形相を観るのは面白いのだろうな。
 そうしてコブラを仕留めた後、視線の来る方向をおもむろに見上げた。つまり、上空をだ。
 そこには、翼の生えた大きなネコ科がいた。
 さすがにマングースはぎょっとして目を剥いた。
 ──な、なんだこいつは?
 そいつは翼を持っている。
 そして空中にとどまったまま、まっすぐにこちらを見下ろしている。
 言葉をかけるべきか──いや、とりもなおさずさっさと立ち去るべきか。
 ──こいつは……何をしたいんだ?
 マングースはじわじわと緊張の高まって来るのを自覚していた。
 だが、翼の生えた大型ネコ科は突然ふわりと翼をはためかせ、飛び去ってしまったのだ。
 後には何も残らなかった。
 青い空と、木々の茂みと、自分と、蛇の屍骸以外は。

          ◇◆◇

「ねえ、モサヒー。あなたの細胞を一つ、分けてもらえないかしら」
 やっとのことでキャンディとの諍いを治めることができたと思いきや、コードセムーはそんなことを言い出した。
「うん、ぼくの細胞ですか」モサヒーは大いなる疲労感というものを認知しながら訊ね返した。「うん、それをどうするんですか」
「いやだわ、決まっているじゃない」セムーは頭頂の双葉をくるくると回転させながら答えた。「私たちの子を作るのよ」
「──」モサヒーは高速で考えた。「──」そしてさらに高速で考えた。「──うん、それは」やがてセムーに訊ねた。「うん、何かの罰ですか」
「罰?」セムーは驚き叫んだ。「まさか、とんでもないことだわ。むしろ逆よ。あなたにこれ以上ない最高のご褒美を与えてあげるのよ」引き続き矢継ぎ早に説明する。
「──」モサヒーは高速で考えた。「──」そしてさらに高速で考えた。「──」モサヒーは、あと何度高速で考えればこの問題は解決するのだろうか、と案じた。

 その一連のやり取りを、ヒマワリは情報として吸収し、天高く輝く太陽に向け新規メッセージとして放出した。
 それは風に乗り、海を越え、タケにより受け取られた。

          ◇◆◇

「うむ」
「やはり、これは」
「そういうことなのだな」
「うむ」
 レッパン部隊は、タケをもしゃもしゃと噛み砕きつつお互いの黒い目を見合わせて頷いた。
「つまり、レイヴンの仲間であるモサヒーと」
「コードセムーと名乗る双葉は」
 レッサーパンダはふさふさの尻尾をまっすぐに立ててお互いの目を見交わし合った。
「結婚した、と」
 そしてレッパン部隊は、さっそくその新着情報を世界中の動物たちに送り出した。

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