第一話『闇の商人、交渉術』1/2
◆【木葉自宅】
ショーン「どうだろう? 趣向の一つとしては面白いと思うのだが」
闇の商人ショーン・ソッレンティーノは口元に薄い笑みを浮かべながら言った。
彼の声はまるで磨かれた絹のようになめらかで、しかしその奥には計算された響きが潜んでいる。
ショーンの提案は以下の通り。
次のWSOP、ショーン側の陣営が優勝したらアーティストの出演料金を倍額に。
逆にこちら側が優勝した場合出演料はタダで良いとのこと。
自らもポーカーを楽しみ幅広い知見のあるショーン・ソッレンティーノ。
支配階級のインターネットと呼ばれる男はありとあらゆる人脈を持つ。
そんな彼だからこそ絶大な自信があった。
木葉「あんたバカなの?」
仮にその提案相手が世界最強だったとしても――。
小学生にしか見えない少女は、口元を吊り上げて相手の表情を覗き込む。
木葉「あたしに喧嘩売るってどういう事かわかってんの?」
ショーン「喧嘩を売るなんて滅相もない! 私は風雪木葉の大ファン! むしろ逆。どうせ風雪様が優勝するんだ」
ショーンは両手を軽く広げ、恭しい仕草で言った。彼の言葉は蜂蜜のように甘く、しかしその瞳の奥には狡猾な光が宿る。
ショーン「なんの問題もないはずですよ。何故なら風雪木葉様に勝てる者などこの世界にはいないのですから
ショーン「――ですよね?」
木葉「ふふ」
ポーカープレイヤーとして目利きが悪い木葉でも、流石にその意図は伝わった。
――舐めている。
この風雪木葉を、だ。
ショーン「風雪様が優勝――それがベースでの提案。となれば……」
ショーン「むしろ破格! エリー・ゴールデンがこの程度の値段で出演なんてあり得ないわけですよ」
木葉「誰よそいつ」
ショーン「子供にはわからないか……うーん、音楽会のスーパーマンですよ」
木葉「子供?」
ショーン「いえいえ、世代の話しですよ。私が子供の頃に流行したものとは違いますから」
木葉「……」
さて――どうしてくれようか。
この少女、気は長くない。
木葉「頭の悪いヤツね。そんな見え透いた挑発にこのあたしが乗ると思っているんでしょ」
木葉「――もちろん乗るわよ」
見た目通りの小さな少女は、全てを踏み潰す巨大な重戦車。
木葉「おい」
屋敷の主は『誰か』に声をかけた。
木葉「……」
木葉「やっぱりいいわ。正面からちぎるのも面白そうね」
ショーン「……」
ショーン「…………ッ」
不覚にも、自分の娘ほどの少女に身震いした。
裏社会での貿易が多いショーンは、知っている。
よもや、風雪木葉と名乗るMMM(エムスリー)は此方側の人間だ。
裏で生きるショーン・ソッレンティーノは"その目"を見ることが少なくない。
目をみればわかる。
この少女は、経験があるのだ。
年端も行かぬ生娘と思いきや、過去に人を――。


