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第十三話『これぞまさにポーカープレイヤー!』8/9

1ゲーム目。SBである正明が自分から時計回りでカードを配っていく。
"自分から"
晃「……」
その滑らかな手付きを見て須藤晃は警戒心を高める。

晃(トランプ捌きが手慣れているな……)
長いこと店で打っていた正明をずっと観察していたが、そこで見抜いたクセや傾向は全てリセットしなければならないとすぐに判断した。

素人のそれじゃない。完全なテキサス・ホールデム経験者である。
それも、恐らく訓練を積んでいる。
事実として正明はリレイズ北村では日常的にカードを配っている。

晃「コール」
千尋「コールです」
正明「コール」
斬「オールイン!」
正明「……おいおい、本当に? いきなり大丈夫?」
晃(しまった――)
ある意味イカサマをします! と宣言していた竹原正明。そこに注意が向いたが、もう一人居た。

それに……"オールイン、だと?"

テキサスホールデムもまるでわからないように装っていた女性が、ポーカー用語であるオールインと口にした。

千尋「……」
千尋のカードはTJのスーツ。遊びなら見に行きたいカードでもあるが……フロップ前にオールインとなると初っ端は厳しい。

正明「えー、オールイン? やめとけって。絶対無理だって。本当に大丈夫ー? つってももう遅いけどな」
晃「……」

500万円もの大金のベッドを意味する、コール。
それに対し、この軽口。
当然策があるのだろうが……その裏をかいて、案外策はないのかも知れない。

が、かもしれないで突っ込む金額ではない。
そもそもカードを操るは竹原正明。
まさか初めから仕掛けないだろう。そう思うから、その逆。どちらにせよ数ゲームは様子を見る必要がある。

晃のハンドは奇遇にもこの店と同じ名前、Queens。即ちQQ。
最強とは言えないが、かなりの上位カード。
従来であればほぼ引けないシチュエーションだが、今回に限り、仮に最強のバレッツであっても勝負はできない。

晃「……」
言うまでもない。罠だ。
カットカードを入れてない。
トランプがきちんとシャッフルされるまでは見る事はできない。

ブラインドに貯まるポットは40,000。それとオールインの5,000,000。
四人でBB10,000/SB5,000を考えれば、10ゲーム程様子を見ても資金的に痛くはない。

晃「ダウン」
晃が降りた時点で、ヘッズアップになる可能性を嫌い千尋も降りる。
千尋「ダウンです」
そしてセオリー通り二人が降りると、

正明「オールインコール!」
晃「あ……?」

シャッシャッシャッ、とカードをめくると、決着。
正明「くっそー! 無一文だー」
斬「あ、あはは……えっと、これボクの勝ちなの?」
正明「おう。Kのワンペアでジャンの勝ち。すっげー。強え~」
正明「んじゃ、オレお金なくなったし帰るか」
斬「うん」

あまりにも自然な掛け合いに頭に情報が入らなかったが、
ちゃっちゃと片付けをしてお金を戻す正明&斬

千尋「――待つです!!!」
晃「ふざけんな!」
激昂してテーブルを激しく叩く、その先に――、


斬「動くな――」
斬「動いたら切る」

千尋「え……」
晃「……ッ」
懐に手を忍ばせた須藤晃を相手に、刀の切っ先を首元に押し当てる。

人の命が失われる恐怖。
晃「……ッ」

銃よりも刃。
これが刺さればどうなるか。そのイメージを鮮明に相手に植え付ける事ができる。

晃「銃刀法違反だぞ……警察呼ぶぞ」
パンパンパン、とまるで何かを成し遂げたように嬉しそうに手を叩くのは竹原正明。

正明「良い事言った! 法律違反は許さない! 素晴らしい!」
そう言ってテーブルに乗せる一枚の写真。
正明「ここって危ない街じゃん? なんかポーカーバーとか営んでる危ない店長さんが、葉っぱ密売している時の写真なの、これ」
晃「は……?」
正明「つってもこんなピンぼけ、かろうじて人物ぐらいで葉っぱかどうかわかんないじゃん? 聞いてみる? どっちに聞く? 警察?」
正明「それとも"六道組の八木昌孝"?」
晃「――ッ!? な、は!?」
正明「あとこれ。全く関係ねーけど」
そして二枚目の、全く関係ない合法的な平和な写真を乗せる。
正明「千尋ちゃんのお母さんってすっげえ若えのな。バイト掛け持ちしてるとか言う割に結構良い家じゃん」
千尋「え――ッ!」
斬「動くなと言っている」

晃「……」
晃「お前……何者だ?」
正明「一般人でござるよ」
正明「ただ、オレよりゴネれる人間見たことねーわけ。ゴネゴネ勝負してみる?」
晃「ふざけ……ッ!」

その言葉が続く前に、ポーカーテーブルに血飛沫が舞った。

晃「ぁ……」
千尋「ひ……」
斬「ボクは、動くなと言った」

氷のように無表情さは刀と同じ不気味な無機物。
顎から下、その刀から血が啜るようにたれて斬の白い手を汚した。

晃「あ……あぁ……」
斬「喉じゃないから大丈夫。顎を少しだけ切っただけ。大人が狼狽えるほどじゃないと思う」
正明「……」
いや、やりすぎですよ四光院ちゃん。
なんだろう、なんてーのかな。男って普段の生活で血とか見ないわけじゃん? 結構ドン引きなわけよそういうの。


ダリア「あんたの負けだねえ。晃」
晃「ぐ……」
とりあえず間引きみたいなので最後ぐらいちゃんと〆よう。
正明「今日の事はお互い忘れて、今後一切会わない。愚痴らない。関わらない。それでいいかな?」
正明「それが呑めなくてゴネるっつーなら、オレの敵になるわけで?」
千尋「……」
晃「……」
その拒否権は二人にはなかった。

パチパチパチ、と拍手。

ダリア「竹原正明。今日は見事だったねえ」
ダリア「あんたの勝ちだ。あたしが証人になるから安心して帰るといい」
正明「ッハ。偉そうに。なーにが証人だよ。紫ババアに何できるんだよ」
ダリア「二人の仲裁ぐらいかねえ。あんたは私を少しぐらい信じてもいいなんじゃないかい?」
ダリア「そうだねえ……私はあんたの先輩ってところさ」
正明「先輩? ッハ。老害め。老人は老人らしく最近の若者は~とか言ってろよ」
ダリア「煽らないでほしいねえ後輩。私は先輩と言ったけど、あんたの言うようなつまらない人生の先駆者を名乗るつもりはないさ」
ダリア「"北村憂"に魅入られた先輩だねえ」
正明「……」
……そういや、いつぞや憂ちゃんが言ってたお婆ちゃんってこいつか。

斬「誰? 女の人? ねえ、ボクが知らない人だよね」
今日は成功したけど、ジャンとは色々打ち合わせが足りなかったなあ。



ダンッ!
長い沈黙が続いた後、力強く、ポーカーテーブルを叩いてようやく動いた。
晃「…………」
罵声を浴びせず、吐き捨てる言葉を飲み込んで堪えるが、千尋が帰った後にでも爆発するだろう。
その千尋も何をするわけでもなく、テーブルにじっと座っていた。
ダリア「やられたねえ」
もういいだろうと、長い沈黙を破った。

ダリア「あんたもプロなら、テーブル外の戦いも覚えておくんだねえ」
晃「……ッ!」
まあ晃には良い勉強になっただろう。
事実上WSOPのチケットを200万で購入し、
ダリア「……」
WSOPのチケットを200万で購入し……

ダリア「……?」
最終的に、ネットオークションで200万円を超えると言われているチケットを200万で購入した、だけ……?

――なるほどねえ。

ダリア「晃。そのチケット、本物かい?」
晃「……ッ!?」
弾かれたように確認するが、その表情を見て理解する。
晃「あいつ……!」
ついに熱が漏れた心の声。
ダリア「フッフッフ」


しかし竹原正明。良いところを見れた。
ダリア「竹原正明は何時頃来店したんだい?」
千尋「……4時間ぐらい前です」
4時間……それぐらい時間かけて悪態ついて、客を飛ばして仕込んでたってわけか。ご苦労なことだ。

そう考えると本当にタイミングの良い時に――。
ダリア「……」


じわりと、背中にイヤな汗が滲み出た。


ダリア「…………ッ!」
タイミングが、良すぎる……!
ダリア「私が来る前、他の客が全部帰ったのは何時だい?」
千尋「結構前です。2,3時間前ぐらいで……」
ダリア「――ッ!」

正明『どんな形にせよ、オレから金奪ったクソ野郎は地獄見るんだぜ?』


――やられた!
竹原正明の目的は初めから――ッ!


ダリアは自分の特別招待券のチケットを持ち上げる。
ダリア「……」
いつだ……!
いつ? あいつはチケットに触れていなかった。
ずっと離れた距離に座っていた。

ならどうやって……。

斬『うう、うううう……ヤダ……もうヤダ……なんで、なんでこんな……』
ダリア「……」
そうか、あの時殴られるフリをして……ッ!

そう。そうだ。それなら何故気付かない? あいつらがグルだと知って、なぜそんな単純な……。


そう自分の目の悪さ思い返すも――すぐに合点が行く。


女を殴り続け周囲に不快な想いを与え勝負へと引き出した。嘘。
その後テーブルの上に乗る本物の紙幣800万円。嘘
演技が実ったと突然軽口を語る。嘘。
1,000万円の大勝負が始まる。嘘。
助っ人を呼んで確実に稼ごうとする利口である。嘘。
オレにカードを配らせろとそれが本命だという。嘘。
勝負を即座に終了させる。嘘。

全ての本命は――!
ダリア「フフフ……ハハハハハ!」
これぞまさに――ポーカープレイヤー!

なにが99点だ。満点を超えている。
キニー・ブラウンによく似る理論派かと思えば、その上。

理外の理。
成程! 竹原正明――逸材だ!
将来必ず頭角をあらわす。時がきたら、あいつは誰と組むのか――。

"WSOPのチケットと書かれている紙を"破り捨てた。

千尋「な……え!?」
ダリア「千尋。晃。あの子に手を出すな」
ダリア「竹原正明は――私が頂こう」

しおり