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第十三話『これぞまさにポーカープレイヤー!』7/9

800が積まれる。
800萬円。
帯付きの束が8枚。


先程9万円入った財布を奪われて泣きわめいた長身の女が、札の固まりを、100万円の束をポンポンとテーブルの上に無表情で並べていく。
晃(え……え……)
千尋(……)

理解が、追いつかなかった。
10万に満たない金額で、泣いてこのチンピラを止めていた。
10万に満たない金額で、男に殴られて床に伏せた。
10万に満たない金額で、自暴自棄を匂わすように涙を流して助けを請うた。


それが、それが――。
嘘。真実。


その答えは、テーブルの上に置かれた800萬円の日本紙幣が全てだった。

ダリア「確認してもよろしいかねえ?」
カウンターから滅多に使わない紙幣計算機を置くダリア・グリフィス相手に、余裕の表情で束を渡す男、竹原正明。

斬「マサ殴るの下手すぎる。もっと本気で殴らないとこっちもリアクションがおかしくなる」
斬「あと気を使って猫パンチみたいになってるけど、あれは良くない。手を痛める。そもそもマサの遅いストレートなんて当たるわけないんだから、ちゃんとやってくれないと困る」
正明「あー……今そういうのやめてくれる?」
斬「何度も言うけどならない。マサ、頬殴った後拳当たってないからって本人があんなに驚いたら台無しになる。ボクだったらすぐに気付く」
斬「モチの事は毎日殴っているじゃないか。ああいう風に、顔の形が変わるぐらい思いっきり……」
正明「わーったわーった! そういうダメ出しは全部終わってからな!」

正明「で――」
パン、と手を叩く。

正明「こいつら殺すための1,000渋沢。ちゃんとあるかよ紫ババア」
ダリア「ああ。本物だねえ。あんたが出した800万円は」
正明「1,012渋沢な。間違えるなよ」
晃「……」
千尋「……」

ダリア「フ、フフ――」
ダリア・グリフィスから見て、ここまではほぼ完璧に近い。
チケットを200万で売りつけ、それから800万を加えた1,000万円でポーカー勝負。

力は金。
それは人生の比喩でもあり、テキサス・ホールデムの真理でもある。

点数をつけるとすれば、98点。
2点足りないが――。
晃「いいだろう」
その1点分の減点も今、消えた。

可能性として晃がここで拳を下ろせば、チケットを200万で買っただけで損切りはできたのに。
それができないのを晃の未熟さと呼ぶのは可哀想で、それをさせない挑発を見事駆使した竹原正明を褒めるべきだろう。

さて、そうなると最後の減点分の問題点が残る。
正明「うーっし、そんじゃオレとジャンでチップ半分ずつくれよ」

果たして、竹原正明は勝利することができるのか――?

既に種明かしをしてお喋りを楽しむほど緩んでいるが……。
相手はアマチュアで屈指の実力を持つ千尋に、日本の頂点に位置する須藤晃。プロポーカープレイヤーだ。

さらに不気味なのは、この二人が今"幾ら持っているか"竹原正明は知らない。
少なくとも自分より遥かに下の金額だろう。
その程度の認識ではある。その正確な金額を知らない故に、晃側は"いつでもゲームをやめれるカード"を保有している。
晃は100万円、千尋は10万円分のチップを場に置いた。
正明「ハンデだ。ボタンはやるよ」
斬「え、これ自動卓なの?」
正明「あー、うん。ゴメンな。雀卓じゃねーから、ちょっと勝負終わるまで黙ろうな」
(※ディーラーボタンの事。ゲームを行なう時一番有利と言われるポジション)

正明「じゃ、配るぜ――?」
竹原正明&四光院斬 VS 須藤晃&千田千尋
ダリア「特等席で、見届けさせてもらおうか――」
ゲームが今、始まった。

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