第十二話『杳杳(ようよう)たる至近距離』3/5
序盤、意外にも憂ちゃんは最速でチップを失った。
バッドビート。
最後の1枚でたまたま形勢ひっくり返り、あえなく退場となった。
その偶然は恐らく本物で、憂ちゃんが花を持たせる感じはしなかった。
だからこその千載一遇で――!
ゲーム終盤。
ブラインド(BB/SB)もどんどん上昇し残り三名に入った。
10,000点スタートのオレの点数は15,000。他二名が40,000点近くと並んでいる。
状況的にはどこかでオールインを決めて30,000点に増やさないといけない。
そうなれば五分。逆に今は残り三名に入ったものの、順位だけの三名で圧倒的に劣勢であることに変わりはない。
正明「……」
オレの経験を考えると、ヘッズアップ(1VS1)を多く行っていた。
よって最後の一人になるまでチェックで回し続けるのが一番固いアクションとも思うが、そのときにチップ差が15,000 VS 85,000となれば絶望的だ。
せめて倍。30,000は欲しい。
ハートが2枚。567。
ストレートにフラッシュになんでもござれの盤面。
正明「オールイン」
憂(……)
フロップ前にレイズした"AJ"の真っ黒(ハートもダイヤもないという意味)。ハイカードエースの勝負ブラフ。
何故フロップ前に上げたのか?
カードが強いからだろう。
AA,AK,KK,QQなど……
それらの強カードは、このハートの567ボードでは何の意味も持たない。
辻褄が合わない。辿れば誰もが見える。
客1「ダウン」
客2「ダウン」
それでも、乗れない。
オールインは特別なのだ。
だが、このアミューズメントは相手を見てもいない。
憂(うふふ)
そのオールインは本物か?
答えはそこに書いてある。
声の震え。目を逸らす。逆に必要以上に目を合わせる。早口になる。語尾が弱くなる。逆に語尾が強くなる。口を手で隠しながら喋る。
だと言うのに、この場は自分のカードを主軸に考えるプレイヤーのみ。
対面でポーカープレイをしているのに、まるで全員がオンラインのような損得の機械的な描写だ。
正明としては、オールインを連打する事によりブラフを意図付けさせたいのだろう。
しかし、別ゲーム。
正明「オールイン!」
客1「ダウン」
客2「ダウン」
ぐ……!
勝負手、KKが入ってすかさず打ったが、ダメ。
15,000程度の相手に対しても乗ってくれない。
正明(チッ……!)
思うけど日本のプレイヤーは固い(堅実)傾向が強い。
ブラフのやりとりが殆どない。
もちろんそれが間違っているとは言わないが、トーナメントはリングゲームと違い、最後の一人になるまで延々と続くゲーム。
よって最後の一人を炙り出すために、BB/SBが時間と共にどんどん高騰する。
ってなると限界まで潜って最後の最後に運勝負……?
やめてくれ。最悪だそんなの。
憂「……」
憂(やっぱり自分のアクションに気付いてないみたいだね)
憂(お酒の肴に正明君を眺める。あー、美味しいなー)
人前なのでラッパ飲みでなく安物をワインをグラスで楽しむ。
憂(その割には我慢できなくなって飛び込むと思ったけど、それはないみたいだね。うんうん。博打の経験は結構あるみたいだね)
正明「レイズ5,000」
憂(必要なポーカー用語しか口にしてない。それじゃあ正明君の魅力の半分も出てこないのに。あーん、痒ーい)
客2「オールイン」
正明「コール!」
ターンカードの状況で中央に出揃う。
相手は……有ろう事か、フラッシュとストレートの両方を睨んだオールイン。
正明「ふ」
もしハートや6,Jのどちらかが落ちればツーペアの正明が敗れるが、確率的には圧倒的に有利である。
客2「やー、お願い。来て。きてきてきて」
来るわけねーだろアホが。都合良すぎなんだよ。
ディーラー「最終リバーカード」
そして落ちたのはハートのK。
正明「ああっ!?」
客2「あははは、やったやった」
正明「……ッ!」
く……!
そりゃ必勝じゃない。何割かは負ける可能性はある。
ある、あるけど……ッ!
正明「くそぉ!」
大勝負での弱さ。
憂ちゃんに負け、ラシェルにも負け、有ろう事かこんな雑魚相手にも勝ちきれない。
正明「……」
未練がましくテーブルを見つめるが、何もできない。
諦めて席を立った。
憂「あーん、ワインなくなっちゃったー」
憂「キリもいいし帰ろっか」
正明「……ああ」


