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第十話『空腹時の食事は牛丼かガムか』2/2

◆【リレイズ北村】
憂「……」
死神と呼ばれた女は今日も檻の中で空を眺める。
視線の先にあるのはシャンデリア。その奥にある天井。
眺めるのはそのさらに奥。空。

憂「……」
虚ろな瞳は焦点が合わない。
もう何時間もそうしているのだろう。
一般人には理解できない、長い長い硬直。それは思考なのか、儀式なのか。

憂「……ヒック」
酔っぱらいであった。

ぐびぐびぐびぐび、と突如一気飲みをすると「ぽーい!」と元気よくワインの瓶を床に投げ捨てる。

憂「あー……お客さん来ないかなー」
憂「あは……あれ、お客さん……?」
憂「……」
憂「……はあ」
静寂の中、幻覚を楽しむほどは酔いは回らず本日最後のワインもなくなった。

憂(酒屋さんに注文しないと……)
そうは思うものの動けない。
もしここで店を離れてしまえば重大なリスクを抱える。

憂「記念すべきお客様第一号とすれ違い……」
うーん、それはダメだね。

あんまり気が進まないけど、ジンでも飲もうかと考えるが、やっぱりジンは飲みたくないなと結論付けるがお酒は欲しい。


憂「やっぱり飲むぞー! おー!」
よくわかんないけどアルコール消毒とか言うしね。うん!

カランカラン。
憂「んなっ!? 今なのっ!? い、いらっしゃ……がっ! おごごごご、足の小指ぶつけ……ぃ、いら、いらっしゃいますぇ……!」
正明「……何してんだ?」
憂「あ、ん、もー! 正明君じゃないの! もう! もう! プンプン! お姉さんプンプン!」
憂ちゃんって何歳だっけ?


とりあえず転がってるワインとかを片付ける。
憂「初めてのお客様だと思って期待したら正明君だと思って落胆したの。もー。あ、ピザ出前取ろうか? 食べる? 食べるよね? 焼くのすっごく時間かかるみたいだからいっぱい待ってるんだぞ」
憂「あ、もしもーし。ピザ適当に。うん。4時間後ぐらいに……うーん、適当でいいや。うん。よくわからないし。場所は……」

ほら、コイツもだ。
タバコ吸ってイキっても。どんあ表情を見せてもこいつはオレを視界にも入れない。

正明「なあ。憂ちゃん――オレ、ポーカーどれぐらい強いんだ?」
憂「うん? どうしたの?」
正明「強くなりたい」
憂「うーん……なんかすっごいやる気だね。どうしたの急に」
正明「前に言ったろ。ぶっ殺したいヤツがいるって」
憂「あー、言ってたかも……? うん。言ってた言ってた!」
こいつ絶対覚えてねえな。
正明「……」
言っとくけど、てめえもなんだぜ?


正明「なあ、憂ちゃんとオレの実力差ってどれぐらい離れてるんだ?」
憂「うん? もうほとんどないよ」
正明「ウソつけよ」
憂「うんー? 本当だよ。だっていつも遊んでるけど、もう半分近く勝ってるじゃない。あ、もしもーし。ピザ適当に何枚か欲しいの。うん。やっぱ六時間後にー。おまかせー。いっぱいで大きいのねー。トッピングもりもりでー」

正明「勝負の場だったら――例えば、命賭けてポーカーしたら?」
電話を切った後、うんうんと意図を組み取ったように頷く。
憂「一万回やっても負けないよ」

だよな――。

その言葉に憤りも否定もない。オレ自身も素直にその事実を飲み込む事ができる。
そう。それ。その正体がわからない。

正明「WSOPって知っているか?」
憂「うん? 本当どうしたの今日。うん。もちろん知ってるよ」
正明「もしオレがそれに参加して――優勝する確率は?」
憂「ゼロだね」
あっけらかんと、言い放った。


憂「あれって幾つか種類はあるんだけど、基本的に……えっと、円だと100万ぐらいのトーナメントなんだよ。あ、違うか。円安だからもうちょっと150万ぐらい? とにかく正明君にとって100万円って大金でしょ」
憂「それで優勝したら何千万。オール・オア・ナッシングの大会なら億単位のお金が手に入るから、そうなったら正明君は人生変わっちゃうよね」
憂「だからゼロなの」

勝てば億万長者のトーナメント。
ここまではポーカー大会の説明をした流れで、最後に付け加えた『だからゼロなの』にこの話の肝がある。

正明「んで話を戻して、一万回やっても負けない憂ちゃんに勝ちてえの。鍛えてくれよ」
正明「オレは――WSOPで優勝する」
憂「……えーと、あはは」
憂「正明君……その……チケット持ってないでしょ?」
木葉チケットは今、財布の中にある。

正明「ああ。"持ってない"」
正明「今から買ってくる」
憂「ふーん……」
憂ちゃんにしては珍しく、何かを考えている。

憂「お姉さんが奢ってあげようか」
正明「なあ北村憂――!」
正明「てめえオレがそういうの嫌いってわかってて煽ってんだよな――」
憂「そんな! それだけじゃないよ!」
憂「正明君は結局吠えてるだけで乗れないがわかってて煽っているんだぞ」
正明「ヒヒヒ――」

このクソ女……嫌いじゃねえな。
絶対ぶっ殺してやる――。

憂「うーん……でもそういうのも面白そうだね」
それは自分に向けて呟いたもので。
憂「私も正明君にちょこーーーとだけ、張る事にするよ」
正明「あん……?」
憂「ううん。こっちの話し。特訓しようか」

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