第六話:『オッドアイの万能執事後編』4/4
恭介「……ッ」
食器を下げて、テーブルを拭く雑用の最中。
テーブルを拭く、食器を片付ける。
視線が物に行っているのに、視界は物しか見えないのに。
まるで第三の目が開眼したように死角に位置する悪魔達の様子が手に取るように見える。
望代「もー。ダーリンったら~」
正明「うふふ。すまないハニー」
恭介「…………」
始め向かい合って座っていた二人は、気づくと錬金術師の隣に魔女が移動している。
何をするではなく、イチャイチャと、まるで付き合いたてのカップルのように。
――あの二人が、絶対にやらないリアクションを。
恭介「……」
怪しすぎる。否、隠してもいない。
あの悪魔達がこのまま時間が過ぎるまで何事もないわけがない。
何を狙っている? 何故今更恋人の演技を? 他の客は大丈夫か?
動くならばいつ? 今? 料理の最中?
望代「あ、すごーい。洋服かわいー」
正明「こら。知らない人に絡んだら迷惑だろ……って本当だ。凄く可愛いですね」
女性客「え、あ……ありがとうございます」
望代「どこで売っていたんですか? とってもセンスが良いです」
正明「うんうん。洋服とアクセントがきいていてとっても似合ってます」
女性客「あ、ありがとうございます……嬉しいです。これ、イギリスに行った時のアパレルブランドで……」
望代「へー! 凄いですね!」
正明「とっても魅力的です」
恭介「……ッ!」
何をするつもりだ錬金術師!
ぐ、名前を書いただけで殺せるノートはないのか!?
そうだ。厨房に包丁があった。あれで……いや、冷静になれ!
あんなのを刺したら包丁がダメになるし床も汚れる!
正明「あははは、それは面白いですね」
女性客「あははは、ありがとうございます」
望代「あははは」
恭介「ぐ……ッ!」
貴様ら妖怪はあははははと一般人の様な笑いをしないだろう!!!
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正明「ヒヒヒ、まあ聞け――」
正明「何もしない」
望代「あ?」
まあこいつはそう言うだろうな。
正明「まあ聞けってば。あいつは今パニック状態だ。いつゴキが飛び出すか。マグカップが宙を舞うか。テーブルがカウンターに突っ込むか気が気じゃねえ」
正明「考えてもみろ。そんなことしたらこっちが悪いだろ」
望代「……?」
難しい難問を解くように腕を組んで考える。
望代「それが?」
流石は鏡望代。
A級戦犯も裸足で逃げ出すラスボスに相応しい器っす。
正明「見てみろ。今、あいつはパニックでオレらは優雅にコーヒーを飲める。これだけで十分なの」
正明「いつ狂って喉掻き毟って自殺するか怯える田代君を見ながら飲むコーヒー。これがそう――グランドフィナーレよ」
望代「ふーん」
正明「――つっても、なんにもしないのは芸がないんで思わせぶりな行為は色々して消耗させて楽しむ」
そう言われてコーヒーを一口含む望代。
恭介「……」
遠目に映る怯えるスケスケを眺めながら、口を離した。
正明「どうだ?」
望代「ん……」
望代「こんな美味いコーヒー生まれて初めてでゲス」
正明「ちなみにそのコーヒーオレのな」
それから地獄のような時間が20分経ち食事が運ばれる。
恭介「……」
ヤツらの食事に何かを入れることは結局できなかった。
口に含んだ瞬間に絶命する薬など流石に携帯してないし、中途半端な報復は奴らを刺激する。もしそんな口実を与えてしまえば――。
なるほど――世界が、核兵器を手放さないのはこういうカラクリか。
食事を始める。
望代「ここのケーキ凄く美味しいんですよね。どっち食べます?」
正明「そうだなあ。モチ。好きな方を選んでいいよ……っと」
望代「竹原さん、よそ見してたらケーキが崩れちゃいましたよ」
正明「む……うわあ。生クリームが崩れちまった」
正明「しょうがない。オレはこっちを食べるよ」
望代「ダメよ。そんな見栄え悪いの竹原さんに食べさせらないわよ」
正明「まったく。今のセリフそのまま返すよ。何より、オレのミスだからな」
望代「うふふ。それなら半分こにしましょう」
正明「わかったよ。まったく、モチは優しいなあ」
恭介「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
3分が経ち、5分が経ち、8分が経ち。
食事を終える頃には永遠と見紛うほどの時間が経過し、その後もテーブルの下に隠れては出てきてと神経がすり減っていく。
人生で一番長い1時間が経過した後、恭介の携帯にメッセージが届いた。
そこには明らかに今日ではないオッドアイ、自分の顔写真が添付されたファイルと共にこう書かれていた。
『商談がある』
恭介「……」
外道め――ッ!
無から巨万の富を作り出すこの男。
まさしく錬金術師の名に相応しい外道め――!


