第十三話『弟子と師匠と友達と』5/6
決着はすぐに訪れた。
三回目で、上位カード。AKsが舞い降りる。
正明(乗せる――!)
こいつを、どう口車で乗せるか。
ヘッズアップ。1vs1だ。
何を喋っても降りる・行くと決めている通常のハンドとは大きく異なる。
それにBBが1/20と高額。
オールインをすぐに強いられる状況では――と、
その思考が巡る前に――。
木葉「オールイン」
――ッハ!
バカが!!!
正明(勝った――!)
もちろん勝ち確定ではない。
有利なだけ。
とは言えやれる事は全てやった以上、ここから先はボードに祈るだけ。
正明「オールインコール!」
発声と同時にカードを投げ捨てる。
正明「なッ……」
木葉「エーシーズよ」
歓声が湧く。
最強の、バレッツ。
AA VS AK。
逆転するには、Kを三枚出すか、なにかのフラッシュに偶然ひっかるか。
その絶望的な確率はわずか6.8%。
せめてエースのハートか、キングのクラブが場に三枚出てくれれば――。
そんな願いも虚しく、フロップカードが捲られ木葉の持つダイヤの7,4,2。
残り2枚。奇跡的にキングを二連続で引く事ができる0.1%はもちろん叶わず、ハートの4が落ちて終了。
リバーカードを見るまでもなく勝敗が決した。
正明「バカなッ――!」
ディーラーに不審な動きはなかった。少なくともオレには見えない。
木葉のアクションもトランプも仕掛けはわからない。
偶然? 誘導? イカサマ? 実力?
なんだ? なんだこれは――?
木葉「おい。あんた達何してんのよ使えないわね。こんなのでもお客様よ」
木葉「浮き輪ぐらい準備してあげなさい」
嘲笑が巻き起こる。
正明「……ぐぐ、、、!」
木葉「ふふ。冗談よ。約束したじゃない」
ツリ目の木葉が、少しだけ優しく微笑む。
木葉「あたしはもう"弱いもの虐め"はしないわよ」
……なるほど、ね。
これが、クラス保有者。
CK――風雪木葉かよ。
なるほど、なるほど。確かにラシェルとは格が違う。オレとのレベル差がどれだけあるのか、実力差すらもわかんねえ。
……さっきの外人といい、WSOPってのはこんなのがゴロゴロいるなら確かに、優勝なんて見えねえわな。
正明「あー……」
木葉「ふふん」
紅茶を飲みながら正明の言い訳を待っていると、溜め息混じりに口を開いた。
正明「オレのクーラーボックスに、魚大量にあるんだわ。あれ食うんじゃねーぞ。後で取りに来るからな」
ポケットからタバコと、携帯と、あと少ない財布と貴重なガムを取り出す。
木葉「なにしてんのよ」
正明「あー、はいはい。ちょっとわかったわ。WSOPはあたしが優勝するもんねーみたいなヤツか?」
正明「ッハ。だからチケットぐらいどうでもいーと。なるほどねえ」
立ち上がり、一応ストレッチをしておく。
木葉「――正明。終わりじゃないわよ」
木葉「いくらあんたとは言え、この風雪木葉を侮辱したのよ」
木葉「冬の海に飛び込むのがイヤなら、ここで頭を下げ……」
――全力で、駆けた。
木葉「え?」
ああ、逃げたのかと思ったら、窓からデッキに足を掛けるゴミ袋の男が映り。
木葉「え、本気で――」
"何かが海に落ちた音が聞こえた"
ザッパーーーン!
正明「ぷはっ! 冷てえ!!!」
上空からイェーイと陽気に笑う外人達の声が聞こえる。
チクショウカス共が……覚えてろよてめえら……!
木葉「ちょ……あんた、バカなの!?」
正明「うるせえ! バーカバーカ!」
木葉「スクリュー巻き込まれたら死ぬのよッ!」
声が聞こえたのかわからないが、すいすいと船から離れるように泳いでいく。
木葉「……ッ!」
バッと後ろを振り返る。
木葉「何してんのよ! 早く浮き輪投げなさい!!!」
黒服が慌てて投げる。
それは見事なもので、ちょうど正明の手元にキャッチできる位置に。
正明「邪魔だ!」
木葉「ちょ……あんた何してんのよ!」
正明「うるせえバーカ! チービ! 魚食うなよ! それ今日の夕飯だからな!!!」
木葉「なッ……」
なんなんだこの男。
頭を下げれば終わりなのに、なにをつまらない事に意地張っているのか……!
高橋「はー面倒くせえ。オレ行ってくるんで、大丈夫っすよ」
高橋「今日はたまたま暖冬で良かったっすよ本当に。冬の気温なら死んでるって」
木葉「は? 行くってあんた……」
高橋「大丈夫っす。こうみえても昔YOUTUBEで海上保安官の特殊救難隊マニュアルを視聴したことあるんでね」
木葉「は? なによそれ……」
黒服の一人は主の話も聞かずその黒服を脱ぎ捨てパンツ一枚になると、すぐに地面を蹴った。
ザッパーーーン!
高橋「来ちゃった」
正明「なんでだよ」
高橋「うう、海寒いな。掴まれ。泳いで連れてってやる」
正明「いい。来るなし。泳げるし」
高橋「おー。流石若者はちげーな。こっから10kmぐらいだから頑張ろうな」
正明「……マジ?」
高橋「な? 無理だろ?」
正明「……」
正明「ッハ。バカかよ。10kmしかねーのかよって落胆したところだけど?」
高橋「マーサーの負けず嫌い俺わかんねーわ」
飛び込みに付き合ってくれる高橋さんの人の良さこそわかんねーわ。
高橋「暖冬とは言え20度ぐらいか……5時間以上かかると低体温症のリスクあるんで、早めに行くぞ」
高橋「サメに食べられたら流石に助けられねーから急ぐぞ」
正明「そんなヒキしてねーよ」
高橋「たった今ヒキ負けたじゃん」
正明「やかましい!!!」


