第十三話『弟子と師匠と友達と』2/6
◆【海上カジノ】
誰かが言った。
テキサス・ホールデムとは人生だと。
金持ちはより金を生むチャンスを得て、失敗も痛くない。
むしろ金を雑に扱える分、貧乏人から巻き上げる成功率が安定する。
一方で貧乏人は命を賭ける事を強要される。
自分の命を賭け、何倍かに資金が膨れ上がったとしても金持ちから見ると端た金に過ぎない。
もちろん、それは成功例でほとんどが星となる。
不条理。
しかし、それが人生でテキサス・ホールデム。
生まれた環境と持った才能が9割以上を占める。
この不条理を映し出したゲームこそ、まさにテキサス・ホールデムと。そして人生と言うべきではないだろうか?
千尋「……」
ここにも一人。貧乏人がただ耐えている。
座っているだけで金持ちに巻き上げられる。
それでも、飛び出せば死ぬ。
もし、貧乏人が対等に実力で勝負をしたいと考えるのならば、
男性「レイズ20,000」
千尋「――リレイズ90,000です!」
男性「……ダウン」
千尋「……ふう」
同じ貧乏人ならば対等に戦うこともできる。
ダリア「少しずつ増えてきたねえ」
千尋「そうですね」
千尋「少しずつ、です」
山のように積み重なるチップリーダーから嫌味を言われるが、途方のないチップ差に目眩を覚える。
ダリア「怖いねえ」
そしてついに千尋に訪れた強カード。
AKs。スペード。
(※sはAとKの同じ柄。尚、ハートやスペードなどのマークに優劣はない)
千尋「……」
千尋(来た……!)
強いカードを手にした時、どう打つか?
これは人によって様々な意見が出る。
まずは利確。
フロップカードが3枚出て、仮にハートの5,6,7が落ちてレイズをされればフラッシュやストレート、最悪5のワンペア如きにも負けてしまう。
それならばいっそ、3枚のフロップカードが出る前に全ツッパで降ろし、確実に場のポットを拾う。
もしくは――弱いフリをして入り、自分のカードと場のカードが一致した後相手が釣り上げるのを待つか。
この場合、一致しなければ水泡に帰するがリターンも大きい。
ポーカープレイヤー、千田千尋は、
千尋「チェック」
貧乏人は、命を賭けるしかないのだ。
参加人数は4名。
フロップカードがめくられる。
ボードはスペードの4,5,ダイヤのK。
千尋(おおおおおおおおおおお!!!)
千尋は現状で一番強いKのワンペア。
同様にKを持つプレイヤーが居たとして、もう一枚がAなので事実上ワンペアでは最強の組み合わせだ。
もちろん負け筋もある。
4,5を持つツーペアには負けるだろうし、AAのバレッツにはKKでは負ける。
他にも6,7を持っているプレイヤーがいれば4,5,6,7でストレートのリーチになるしリスクは含まれる。
都合の良い話だがKKを持たれれば最強のスリーカード。
しかしそんな最強の手であろうと、だ。
場に1枚。スペードが落ちればフラッシュで逆転できる。
フラッシュが成立。それも、エースを保有している時点で仮にフラッシュ同士の戦いでも千尋に軍配が上がる。
千尋「チェックです」
上乗せは、しない。
あくまで、弱いカード。
弱いカードで入ったが、4,5をもっていなかった――そんな自分を演じる。
全員チェックで回り、次のカード。クローバーの4が落ちる。
千尋「……」
千尋にとっては嫌なカード。
4,5,K,4。
強い順番に並べると、以下の通り。
4444K(4,4)フォーカード
KKK44(K,K)フルハウス
55544(5,5)フルハウス
444KK(4,K)フルハウス
44455(4,5)フルハウス
444AQ(4,A)スリーカード
4445K(4,2)スリーカード
kk44A(K,A)ツーペア ★千尋の現在の手
フォーカードやフルハウスなどそうそうない? そうかもしれない。
こんな薄い確率に一々怯えていればポーカーなんて打てない。よって考えない。
しかしスリーカードならどうだろう?
このボードの場合、配られた2枚のうち1枚、4を持っているだけで成立してしまう。
但し、4一枚でコールで入るのは考えにくい。
全員がチェックで回る。
千尋(……4をもっているフリをするプレイヤーもいないです)
千尋もそれに習い、チェックで回す。
ダリア「レイズ70,000」
千尋「……ッ」
その高額なレイズで二人が即座にカードを捨てる。
残るは、千尋とダリアの2名。
ダリア「おや、4を持っていたかい」
まるで4を持っていなければ勝てるとでも言いたげな、ポーカープレイヤーの常套句。
千尋「コールです」
高額なポットが積み上がり、ギャラリーが湧く。
最終リバーカード。スペードの2。
千尋(来た――!)
本当に偶然。運だけだが、フラッシュが成立。
これで仮に4を一枚持っていようと、スリーカードよりも上のフラッシュが優位に立つため千尋の勝利はほぼ固まった。
世界最強プレイヤーとルールも知らない素人でも、カードの勝率自体は変わらない。
腕の見せどころは、ここから――。
千尋「チェック」
そのまま、フラッシュを確定し自分の勝利を疑わない千尋はチェックで回した。
つまり、ダリアが降ろすために上乗せすることに賭けたのだ。
ダリア「うーん、困ったねえ……」
乗せる。ここまで来たなら、弱いなら弱いで相手に降りてもらうため乗せるはず。
それも弱い手となれば、ガツンと、一気に!
その読みに賭けた千尋のアクションは――、
ダリア「レイズ100,000」
見事実った。
千尋「オールインです!」
千尋が発声すると同時にダリアがカードを捨て、勝者が確定した。
ディーラーが5%の金額を手元に入れると、中央に山積みになったチップが千尋の元にやってきた。
千尋「……ふう」
ダリア「良い打ち方だったねえ」
そう言うと、紫の老婆は席を立った。
ダリア「少し疲れたねえ。部屋を案内しておくれ」
ボーイ「畏まりました」
千尋「ふふ、やった」
ダリア「……」
小さくガッツポーズと笑顔が漏れる千尋を背にして、賭場から離れていった。
正明「これオレの盛っている唯一の紙幣。受け取ってくれよ」
ダリア「お……竹原正明。遅かったねえ。なんだいこれは」
まるで北里さんなんて存在自体知らないように、面白そうに千円札を眺める。(※千円札の北里柴三郎)
正明「おばあちゃんはフルハウスが成立したのに弟子が可愛いからお小遣いをあげるために降りた」
正明「正解してるなら倍額くれよ」
ダリア「……ふふふ」
正明「随分弟子に甘えな。オレんとこの酔っぱらいにも見習わしたいぜ」
正明「で、答えは?」
ダリア「あたしゃポーカープレイヤーだからねえ」
受け取った千円をポケットにしまいこんだ。
ダリア「カードの中身を見たいなら、それなりのお金を持ってくるんだねえ」
ッハ、上等。
正明「どんな形にせよ、オレから金奪ったクソ野郎は地獄見るんだぜ?」
こちらの挑発に満足そうに微笑み去っていった。
正明「……」
正明(貴重な高橋さんの1,000円が……)


