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第十二話『ゴミ袋を乗せた豪華客船』2/6

◆【艦内】
千尋「凄いです! 凄いです凄いです! 竹原さんも中に入るです!」
正明「うるせえ死ね!」
千尋「え……!?」
正明「あ……なんでもない。ちょっと今気分悪いから一人にさせてくれよ」
いつものノリで軽口言ったが、そうだ。こいつはまだ距離感がわからないんだ。
千尋「……」
千尋「わかったです。色々回った後にまた来るです」
千尋「後で二人で回りましょうね」
結局向こうも体裁を取り戻し、どこかに消えた。
正明「……」
籠絡する対象である千田千尋がどう感じたか。何を演じているか。

最重要任務よりも、ドレスとスーツで溢れた社交場でただ一人見世物のようなゴミ袋でここに居る事にムカついていた。

つーかこれ広すぎ。なんなのよこれ。

船に乗った。
そう。我々は船に乗ったのだ。
それなのに廊下があり、沢山の部屋があり、電気がある。
カーペットまで敷いてありただ移動するだけの廊下に高価そうなシャンデリアが均等に並んでいる。

正明「チッ……高橋さん。あのチビどこいんだよ」
高橋「ん? お嬢様まだいねーぞ」
正明「はあ!?」
高橋「途中で合流する予定だな」
正明「途中ってここ海……はー、なに? 別の船でこっちに渡るパフォーマンスとか品のねーことすんの?」
高橋「あー、そんな感じか」
マジなのかよ。
自分で言っておいてアレだけど……なるほどな。確かにそりゃ、千田千尋のように木葉に媚び売るのもわかるわな。
正明「……」
ま、いいや。


正明「なあ。マグロ釣ったら木葉買い取ってくれるかな」
高橋「釣れるわけねーだろ」
正明「あ? わかんねーだろ」
高橋「わかるっつーの。大体マグロが何キロあるかわかんねーだろ素人め」
高橋「今日はもっと小さい魚。この辺だとカサゴぐらいか」
そう言って携帯で実物を見せてもらう。
ギザギザな背びれが骨が多い感じがするが、爛れた皮膚が逆に食欲を刺激する。
高橋「高級魚よ」
ほー。結構でけえじゃねーか……!
正明「いいねいいね。テンションちょっとあがってきた。美味いかな」
高橋「唐揚げにも刺し身にもいけるな。ビールのお供よ」
いいねーいいねー!
釣り道具を開けるが、まだだと制された。
高橋「今移動してるだろ。まだダメだ」
正明「そういやすげー今更だけど、オレらどこ向かってんの?」
高橋「は? あー……そうか、マーサー……可哀想に……」

高橋「北朝鮮」

正明「……」
正明「え……」
高橋「うっそー」
正明「やめろよそういうの!」
チクショウ、ちょっとビビった。

高橋「ははは。どこも行ってねーよ。適当に走らせて、そこで休憩してまた帰るだけだ」
正明「なんだそりゃ。つまんな。何が楽しいんだよ」
高橋「そりゃお前、カジノだろ」
正明「……あ?」
高橋「あの中。今お偉いさんが演説しながらオードブルつまんで。その後片づけてカジノよ」
正明「……」

ババババッ!
自分の体中をまさぐり財布を確認する。

残高――840円。

正明「……」
チラ。
高橋「マーサー。先に言っておくけどオレ月収16万なんだ」
正明「転職しろよ!」

クソ……クソ! あのチビ! クソチビがッ! 本当に会話のドッジボールしかできねえから……クソが!

自慢のセルタの白スーツを披露して、せっかくの賭場で勝ちまくっての生活が……あのチビが、日本語のキャッチボールさえ出来ていれば……!

高橋「つーわけで、まずは飯食ってこい。船止まったら釣り教えてやるよ」
正明「……そうするわ」
他にも何かないかと考えたが、財布がない以上何もできん。

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