第十話『キチガイに刃物』2/5
◆【路地裏】
ヒヒヒ! 爆勝ちよ!
財布が太って苦しそうにしているのが裏ポケットから伝わってくる。
今夜は肉だな。家には貧乏神がいるからリッチに外食と行き……。
正明「――がっ!」
なにが――!?
何かで頭を殴られた。
なにが起こったのか確認するよりも先に、答えを教えてくれた。
客「へっ……儲かったんだってなあ鵜久森君」
この声……さっきの客か!?
とっさの判断で財布を確保すると、そこには既に別の男の手があった。
客「あ? 放せよ」
――ざけんな!!!
すぐさま立ち上がろうとするが、手足が動かない。
客「別に命とろうってわけじゃねーよ」
正明「ギッ……!」
倒れているところを蹴り上げられる。
声も出ずに転げるとようやく敵と対面する。
客「あんま手間取らせるなよ。出すもん出したら帰っていーよ」
正明「……ヒヒヒ」
ミスったな……!
オレの事わかんねー相手で初回のポーカーならと思ったのは正直、油断した。
ジャンかスケスケ連れてくればよかったと思ってももう遅い。
足……には力が入らない。やべ。これ逃げられねーわ。
護身用でナイフとか持っとくべきだったか? ッハ。職質かかったらやべーじゃん。無理だって。
……あー、逆パターンとかあるのかな。
こいつナイフ持ってて、ぐさー、って。
胸ぐらを掴まれて起き上がらせる。
目の前には脂ぎった中年のおっさんの顔があった。
狩りを楽しむように、舐め回すように、ねっとりと捕食者の優位を楽しむ。
正明「ペッ」
すぐに殴られて再び地面に転がる。
耳鳴りがひどい。殴られた頬より、地面に打った頭の方が痛い。
客「もしかして鵜久森君、自殺志願者?」
客「いんだよ別に。望み通りにしてやってもさ」
頭から血が流れてるんだから少しぐらいヒヨってくれてもいーじゃん。
正明「ッハ……」
どうする……どうする……って、ハハ、選択肢なんてねーんだよな。
その時、
??「あのー、すみません!」
声が聞こえた。オレは地面のアスファルトから視線を動かせないで、相手はわからない。
??「それ、ちょっとまずいかなーって思うんですよ」
客「あ……誰だてめえ……?」
??「まあまあまあ。ほら、きっと若いし学生さんですし。ほら、少ないですけどこれで、ね。ね?」
客「……」
客「おいそういうのやめてくれよ? まるで虐めてるみたいじゃねーか」
地面とお見合いして状況がわからない。
声だけが聞こえるが、多分金でも出して追っ払おうとしているのか。
ああ――誰だか知らねえが、おせっかいのバカめ。
客「こいつが俺の財布盗んだんだよ。なあ?」
正明「……そういうなら、おまわりさん呼ぼうぜ」
黙らせようと仲裁に入る一般人と揉めた声が聞こえた後、オレの横に倒れてきた。
正明「……」
意識を覚ます。
時間がどれぐらい経ったかわからないがまだ太陽は出ていない。
気を失ったのはほんの数十分かも知れない。
夜。暗闇にも目が慣れて、自分が転がっていたことを認識すると遅れて体中に痛みが走った。
正明「ぐ……ッ!」
両方のお尻をポンポン叩くが、言うまでもなく財布はパクられている。
正明「チッ……」
横には、律儀に倒れている少年。
??「……」
見ず知らずの派手にやられた子ども。
ッハ。巻き込まれた中学生がコレならオレの方がひでーか。
ミイラ取りがミイラにってパターンじゃねえか。アホかこのガキ。助けられねえなら出しゃばるんじゃねーよカス。
ミイラ取りがミイラになるバカめ。
いらねえ偽善して怪我しやがってマヌケが。
正明「つっても、実はあんまそういうの嫌いでもねーんだわ」
痛みと会話しながら立ち上がると、近くのコンビニを目指した。


