第一話『船はいいなあ』2/3
堂々と法律違反を行う反社会勢力じゃない。
グレーの隙間産業を行う輩でなく、グレーを白に染められる程の相手。表向き合法になってしまえば手は出せない。
???「この件はオレの負けだ。手を引くぞ」
春樹「……」
やけにあっさりしているのが気になった。
春樹「でもこれあきらかに暴力団が絡んでいますよ。関西最大手グループの名前があったんでしょ」
???「それはあくまでオレの調査結果だ。調査方法は開示できない事に加え、尻尾が掴めない以上取り合ってはくれないだろう」
???「あの男がそんなポカをするわけがない」
キニー・ブラウン。
現WS社の代表であり元CK保有者のポーカープレイヤーである。
面識はないが、そのクラスの人間になれるほど頭はキレるということか。
春樹(って元CKならそりゃバカじゃないよねー)
???「公安警察は動かせないか?」
春樹「実は日本っていうのは少々特殊な国でしてー。判例主義と言いますか、腰の重い組織というか役人仕事と言いますか……」
春樹「んー……薬物の密航はキニー・ブラウンが噛んでいるんですよね」
???「関係ない。それは元々暴力団組合が10年前からやっていた。WS社介入の前からな。仮に関係があっても関係性が掴めなければ意味を持たない」
春樹「あー……ですよね。そういうの上手くやりますよね」
春樹「うん。それならもうお手上げです」
ざらついた音声から溜め息を聞こえた。
???「表社会へのゴマすりだけでなく、裏社会への寝技を使えたあいつを褒めるべきだろう」
警察が利権を求めて動いている以上、証拠となる薬物を抑えてもグルになってもみ消すだろう。
もしくは紅林事件のように架空の犯人をでっち上げ罪をなすりつけるか。今回は目に見えて反社勢力もいるので怪しまれず上手くこなすだろう。
春樹「結局中断ってことでいいのかな」
???「ああ。協会の人間を当てにならんが、少しだけは期待もできる」
???「悔しいが、次の敵の動きを見守る他ないな」
次。
その分岐点となる最大のイベント。
春樹「WSOP」
???「そうだ」
春樹「……」
手元に届いている招待状。
日本に居るプロの中で唯一自分だけがVIP枠で招待されている。
実力や実績から見れば妥当とも納得できるが、やはりどうしても勘ぐってしまう。
"もしかして、誰かに呼び込まれているのか?"
???「話は変わるがイシュタムという女性を知っているか?」
イシュタム。
ここで出てくるという事は、神話ではなくあの人物だろう。
国際指名手配者。666人殺し。1億ドルを一夜にして奪った。テロリストの首謀者。
様々な伝説が尾ひれをつけ肥大化した一種の陰謀論となりうる名称だ。
春樹「伝説のポーカープレイヤーですよね。確かシンガポールで死んで……2年前でしたっけ?」
というかテロリストとか、それはもうポーカープレイヤーじゃないのでは?
???「否、その女は生きている」
???「あまり自分の事を語りたくないが、オレは何かしら関係性がある。日本語で言うと……そうだな。腐れ縁というヤツか」
……え? マジで?
嫌々吐き捨てるように言うと、言葉を続ける。
???「それにしても予想通りの反応だな。あの女の事を薩摩真司は口を開かないだろうな」
春樹「……」
薩摩さんも知ってるのか……それなら本当に世迷い言じゃないんだな。
???「そのイシュタムは今。日本に潜伏している」
えぇ……。
???「俺の見立てでは資金面も潤沢。武器に兵士調達にまさにキチガイに刃物と言うべきか」
???「あの女は逃亡や引退は考えられない。必ず意中に決めた相手を仕留める」
???「問題だ」
???「イシュタムには世界中多くの敵対する組織が存在する。あいつを憎しと思う団体も多いが、その逆もまた然り」
???「あいつが誰をターゲットにするのか? ある程度は予想できるが、完全に絞る事は難しい」
春樹「ってことはもしかして……」
???「そう。その中には俺の名前もあるだろう。俺達の敵の名も。そして、お前達の名前も」
春樹「……うへぇ」
???「コールドストリーク薩摩真司。織部の昆虫ハルトムート・アインホルン。テスラクロマシー・イルデブランド。頂点AMAYA。そして――キニー・ブラウンも」
もしもターゲットがキニー・ブラウンならば、という仮説で進めた場合、
"WSOP当日だ"


