第2話 盗賊の鎌
第1章 死に戻り地獄の序章
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ロード直後の寒気が、まだ身体から抜けない。
氷の世界は崩れ、今度は夜の森だった。
「……盗賊の谷……か?」
どこかでフクロウが鳴いた。森の空気は湿っていて、
土に染みた血の匂いがわずかに鼻を刺す。
何度目かのロードで、俺はここに飛ばされることを覚えていた。
盗賊団《黒骸の鎌》。
小規模だが、森の中で機動力を活かし、旅人や商隊を襲っては消える。
そして――この世界線では俺が仲間入りする。理由は知らない。
ロードが飛んだ先が「すでに仲間になっていた時間」だからだ。
「おーい! おいタタル! 木の上で寝てんじゃねぇ! 首飛ばすぞ!」
怒鳴り声。焚き火の光の中、6人の男たちが騒いでいた。
そのうちの一人――
でかくて刃こぼれだらけの戦斧を背負った男「ザラド」が、俺を手招きする。
「ったく、仕事だ仕事。夜襲だ。あの村、今夜で消すぞ」
――あの村。
またか。あの村だ。
今夜、盗賊団は近くの村を襲う。その村には、
かつて俺が守ろうとした少女がいる。
前の世界線では、あの村を魔族から守った。
でもここでは、俺が盗賊団の一員として襲う側にいる。
皮肉にも、俺はすでに“仲間”として受け入れられていて、計画の中核にいた。
……このルートで動けば、村は確実に壊滅する。
だが、逆に言えば、今なら壊滅を止められる可能性もある。
けれどそれは、バレたら即殺される。
「……ザラド、計画の詳細を確認してもいいか?」
「はぁ? お前が立てたんだろ。見張りは3人、鍛冶屋は一番最初に潰す。
あとは女とガキはまとめて井戸に──って、聞いてんのか?」
……思い出してきた。
このルートでは俺が提案したのか。
こんな計画を、俺が……
「タタル、剣の手入れしておけよ。夜明け前には動くぞ」
ああ、わかってるよ。
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夜明け前、村に着いた。霧が低く垂れ込め、視界が悪い。
しかし、それが盗賊にとっては有利に働く。
ザラドが斧を構えた。
後方の弓兵2人が屋根の上に登り、鍛冶屋の方向を狙う。
俺はその中、わざと後ろに回った。
何をするか? 決まってる。
味方の背後を、殺る。
「なあ、タタル。お前、妙に静かじゃ──」
ザラドが振り返る。
ズガッッッ!!
瞬間、俺はザラドの喉元に剣を叩き込んでいた。
反応速度は速かった。だが、斧を抜くより先に、血が噴き上がった。
「がっ……お、ま……裏……切り……!」
ザラドが巨体で倒れ込む。
「敵だッ!! こいつ、裏切りやがった!!」
後方の仲間たちが気づく。3人。
弓兵、短剣使い、そして火薬を扱う爆破専門の狂人。
全員、過去に俺を殺したことがある奴らだ。
「こいよ、何度でも殺せよ」
俺は剣を構えた。でも今回は違う。
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まずは弓兵。視線が合った。
矢を放つ直前、俺は左足を一歩深く踏み込む。
「……っ!? は、速──」
カシュッ!
矢が耳を掠める瞬間、俺は右へ転身しつつ、
手近な木に剣を突き刺して飛び上がる。
“この動きで過去の自分は死んだ”のを覚えていたから、
今回は角度と反射のタイミングをズラす。
そのまま木の上にいた弓兵の足元を斬り払う!
「う、ぐぁぁッ!!」
弓兵、転落。その背に追い打ち。剣を垂直に突き立てて即死。
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短剣使いが迫ってくる。
前回、左の急所を突かれて死んだ相手。
なら、今回は“誘い”をかける。
「おらよッ!!」
正面から踏み込み、わざと足を滑らせたふりをして、体勢を崩す。
短剣使いがニヤリと笑う。
「バーカ、隙だらけだッ!」
だがそれは罠。
俺は崩れた体勢から地面を蹴り、胴体を反転させて短剣を避け、
そのまま肘を相手の顎に叩き込む!
「ごふぅっ!!」
喉の奥が潰れ、短剣を取り落とした瞬間、
俺は逆手に持ち替えた剣で喉を切り裂く。
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残り一人。火薬使いの狂人。
ヤバい。
あいつは“自爆”する可能性がある。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおい!!
そう来るかぁ!? マジで裏切るとはなァァ!!」
笑いながら、自分の体に火薬玉を巻きつけている。
「またな、英雄志望ォ!!」
「……やらせるかよ!!」
俺は全力で斬り込む。
だが、間に合わない。
爆発音。
世界が白に染まる。鼓膜が破れた。
吹き飛ばされた先で、全身に火が回る。
「クソ、また……か……!」
意識が遠のく。
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カチ。
ロード音。視界が反転する。
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