第十一話『こいつマジでさ。マジでさあ……。』1/3
◆【帰り道】
それは家に帰る途中の出来事だった。
自宅のアパートが見えたところ。前方を歩くのは特徴の塊のゴスロリ服。
正明「……」
目標を捕捉。すぐに足音を殺し息を飲んでいた。
完璧なるサイレンスモード。
望代「……」
にもかかわらず、ヤツはちらりと背後を確認する。
望代「……」
正明「……」
視線が交わる。時間にして僅か数秒。
しかしそれは捕食者と被食関係を表す。
誰が捕食側かはわからない。
それはゴールに辿り着いた者。
さて、そのゴールとは?
バッ!
正明「ゴミクズメンヘラが!」
望代「ウジ虫め!」
まるでドラ○ンボールの如く弾かれて自宅へと向かう両者。
スタートから最高速度で走る正明に対し、運動音痴が具現化されたインドア派のモチ。
結果は火を見るよりも明らかだが、いかんせん二人の距離は大きい。
望代「なんで追ってくるんだよストーカー!」
正明「そこオレの家だから!」
チィ! いかんせん距離が離れすぎてる……!
まず、間違いなくモチが先に着く。
そう。その後だ。
こいつは焦って鍵穴に刺さらないと時間をロスするだろう。
そこを日大タックルで仕留めて殺す!
よし、加速だ! 加速でそのまま悪質タックルをやらなきゃ意味ねえんだよ!
◆【自宅廊下】
正明「おらあああああああああ……あ?」
そこにはもうモチの姿はない。
まさか、あの一瞬でドアを開け……。
望代「おらああああああああああああああ!!!」
ぶしゅううううううううう!
正明「うわっ! なにこれ、白、痛い! え、なに? なんあのこれ!?」
望代「おっっっっらあああああああああああああ!!!」
正明「いたいイタイいたい! なに!? え!? なにが起きてるの!? なにこれ!?」
望代「ううううううううらああああああ!!!」
白。白の煙と白の世界と、とにかく痛さが白さの粉が舞ったと思ったら、突然頭強く打たれた。
正明「ギャッ!」
意識が飛びそうになる中、地面に転がるのは普段目にするが使ったことはない、消化器。
消化器って……
正明「……あ?」
消化器?
こいつ、バカなのか? いやバカなのは十分知っているけど本当にこいつ、バカなのか?
望代「ふっ……ふぅ……くふ、くふふふふ……ゴホッ! ゴホッ! クソ、ゴホ!」
ああ、間違いなくバカだ。
それでもニヤけながら鍵をゆっくり開けようとするが、
正明「はいドロップキーック!」
望代「ごはぁ!」
体重の軽いモチはゴムボールのようにバウンドして飛んでいった。
望代「てめ、おま……女の子蹴った? 蹴ったよな今、か弱い女の子に暴力振るったな?」
望代「てめえクソ原! 女に手を出すってのは傷害罪だぞ! 男が女殴るゴミ虫! お前そこまで堕ちたのかよ! フェミニストとして絶対許さないし!」
正明「はいサッカーボールキーック!」
望代「ぐはぁッ!」
正明「はいフェミニストパーンチッ!」
望代「ぎゃあああああ! クソ! クソ人間め!」
正明「前々から思ってたクソ人間言うお前人間じゃねーのかよ!?」
もみくちゃになっている時だ。
すぐ横で、ドアノブを回す音が突然――刹那、マウントを取っていたモチと身体を一瞬で入れ替える。
お隣さん「なにかありまし……!」
正明「うわああああああ! 助けてください! 酷いことしないで! 早くこの女をどかしてください!」
望代「は……はああああああ!? なんだてめえ!? すぐ被害者コスプレかよ!?」
望代「おいお前、見ろよこれ、血。これモチの血」
正明「いやいやいや、見て見て。オレなんか真っ白。正明の白」
正明「正明に白は無い!」
望代「……」
望代「何言ってんだこのゴミ」
なんかモチのチ、みたいに対抗したいじゃん。
お隣さん「……」
望代「……」
無言の圧。隙有れば警察に連絡だろ。わかってる。もうわかってる。何度目だよ。
何事もなかったかのようにゆっくり立ち上がると、爽やかに微笑んで見せる。
正明「ま、じゃれてないで家に入るか。飯にしよう。な」
望代「ざけんなてめえ。クソ原、モチに何したかわかって……」
ぶつくさ文句を言うモチの肩を掴みながら、強引に部屋のドアに向かう。
お隣さん「これ、え、消化器……」
正明「あ、それについては大丈夫です。全く問題ありません。私、共益費を払っているんで」
望代「へー。クソ原のくせに保険はいってるのかよ」
お隣さん「いえ、それ保険じゃないですし……」
正明「ゴーホームゴーホーム」