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第91話 自信の無い演者達に向けて

「でも私はセリフなんか棒読みだぞ。それだとつまらないんじゃないのか?ドラマとかでは感情とかを表情や台詞で表現するんだろ?私達にそんなことが出来るわけがない」 

 納得できないと言うようにそう言うとカウラはソースと豚肉、それにお好み焼きを混ぜ合わせたものをどんぶりの中でかき混ぜた。

「それは釣り部のコネのある技術者が解消するつもりだろ?あいつの合成や音声操作とかで棒読みだろうが声が裏声になろうがすべて修正してプロが演じているようにするくらい楽勝だって言ってたぞ。無能なアイドルが売れなくなるとすぐ映画女優だとか言い出すだろ?いわゆるあれだ。まあ東和ではテレビドラマだと下手な演技がすぐバレるからみんな映画に出たがるんだ。甲武なんてもっと芸能界は偏ってるぞ。映画に出るのは女は芸者、男は歌舞伎俳優と決まってる。一体いつの時代だって言うんだよ」 

 カウラはかなめのその説明でようやく納得したように頷いた。

「さすがだな。地球の技術はそんなに進んでいるのか。それと同時に甲武はそんなに遅れてるのか。両方に驚いた」

 誠も甲武が『大正ロマンの国』と呼ばれているが映画まで大正時代レベルとは想像していなかった。 

「別に感心することじゃないだろ?ネットに上がってる廉価版のビデオクリップ作成ソフトとかで同じようなことができるはずだからな。まあ、画像の質とか修正の自由度なんかはプロが使っているソフトがはるかに上なのは間違いないけど」 

 かなめが珍しくまともに説明しているのが誠には奇異に見えた。とりあえず誠も事が順調に進みそうなことに安心しながらビールを飲み干した。

「ああ、神前。ビールだな」 

 カウラがビールの瓶を手にした。普段ならここでかなめの妨害が始まるはずだが、珍しくかなめはそれが当然だというように自分のグラスに酒を注いで杯を掲げた。

 そんなリラックスしていた三人は突然厨房から声が聞こえてそちらに視線を向けた。

「ジャーン!マジックプリンセス、キラットなっちゃん!」 

「オメエ、何しに来た?」 

 ポーズをとる小夏にかなめが冷めた視線を送った。小夏は誠がデザインし、運行部で製作した衣装を着込んで立っていた。

「いっそのことそのままその格好で暮らしてみたらどうだ?世界が違って見えてくるかもしれないぞ」
 
 呆れたようにカウラがつぶやいた。二人の冷めた反応に小夏は気落ちしたようにうつむいた。誠は仕方なく拍手をすることにした。

「馬鹿!カウラ!下手なこと言うんじゃねえ!こいつが図に乗るだろ?」 

 かなめの言葉通りすぐに復活した小夏が小走りで厨房に戻る。そして彼女は袋を持って誠の前に立った。

「はい、これ兄貴の分!」 

 無垢な目を向ける小夏を誠は後悔の念に駆られながら見上げた。

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