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魔人の爪痕 1

 
挿絵



(イラスト:大江うさぎ先生)

 途中、野営を入れながらムツヤ達は3日掛けて王都の近くまでやって来た。

 今はすっかり夜だ。明日には王都へ着く予定になっている。

 アシノは作戦を伝えるために皆を焚き火の前へ呼び出した。

「それでは、王への報告をどうするか、私が考えた作戦をお伝えします」

 イタヤ達はゆっくりと頷き、アシノを見据える。

「まず、裏の道具は魔人が死の瞬間生み出したもの。っということにします」

 そこまで言ってアシノは一息おき、続けて話す。

「私達はその瞬間を目撃し、各地へ散らばっていく道具を見たと」

「確かに、確かめるすべもないし、裏の道具のことも知らなければ、それで押し通せるかもしれないが……」

 イタヤはうーんと難色を示した。

「その後、裏の道具達はどうするんですか?」

 サワのその質問にアシノは髪をかきあげた後に答えた。

「恐らく、王からは道具の回収を命ぜられるでしょう。私達は探知盤も交えつつ、あまりに危険な道具はムツヤのカバンに回収。そこまで危険で無いものは王の元へ持ち帰ります」

「なるほど、戦争の火種になりそうな物はこっちで処分するってことか」

 ポンッと手を叩いてイタヤは納得をする。

「まぁ、そんな所ですね。色々と穴の有りそうな作戦ですが、今の所はこれしか手が無いでしょう」

 はぁーっとルーがため息を付いた。

「キエーウとの戦いの時にやっていた事をまたやらなくちゃいけない感じね」

「あぁ、そうだな。勿論、裏の道具を手にして悪用する輩も現れるだろう」

 アシノがそう返事をすると、また大きなため息を1つ付く。

「やるっきゃないわね……」

「皆さん、俺のせいで迷惑をかけちゃってすみません……」

 ムツヤが思わず立ち上がって頭を下げた。

「そんな、ムツヤ殿のせいではありませんよ!!」

 思わずモモも立ち上がり、あわあわとしだす。

「そうだな、ムツヤが居なければ確かにキエーウとの一件も、今回の一件も無かったかもしれないが、どのみちあの魔人『ラメル』とやらに国は蹂躙されていただろうな」

 アシノがフォローを入れておくと、イタヤも一緒に話し始めた。

「そうですね、確かにあの魔人は勇者の俺達でも倒せるか怪しかった」

「今日はもうここまでにしましょう。また明日」

 焚き火の日を消すと、それぞれテントへ戻り、眠りに就いた。


 翌日、王都の近くまで来ると、連絡石で到着の連絡を入れた。門の前まで来て皆が馬車から降りると、人々が勇者たちに気付いてざわめきが起こる。

「お待ちしておりました。アシノ様、イタヤ様」

 衛兵が迎えに来て人混みをかき分けて王都へ通される。そして、そのままの足で城まで向かうことになった。

 城内に入ると見覚えのある顔が出迎える。

「アシノせんぱーい!!!」

 勇者サツキが両腕を広げてこちらに走ってきた。アシノは最小限の動きでそれをかわすと、サツキは転んで地面に激突する。

「なんで避けるんですか!! 先輩!!」

「そりゃ、いきなり抱きつかれそうになったら避けるだろ」

「ハッハッハ、元気だな!!」

 そんなやり取りをしていると後ろから聖女クサギとカミクガが歩いてきた。

「サツキ、あんたまた何やってんの!! アシノ様マジすんません」

「大丈夫だ、それより早く王の元へ報告に行きたいのだが」

 その言葉を聞いてサツキも真面目な顔に戻る。

「分かりました。では向かいましょう」

 王の間の元まで向かうと、兵士達が重く大きな扉を開けた。その向こうに玉座に座った王が居る。隣には近衛兵長のカミトも立っていた。

 勇者達三人が先に歩いて(ひざまず)き、その後ろに各パーティが同じく(ひざまず)いて並んだ。

「勇者イタヤ、勇者アシノよ、まずは魔人の討伐ご苦労だった」

「はっ、身に余るお言葉でございます」

 二人は打ち合わせたかのように同じ言葉を言った。

「さて、それで聞きたいのだが、そなた達が魔人を倒したという日に、武器が空を飛んでいったと数多の目撃証言があるが。それについて知っている事は無いか?」

 アシノは「早速ぶっ込んで来やがったか」と心臓の脈が早くなる。だが、ここは冷静にいかなくてはいけない。

「はっ、魔人(いわ)く『世界をメチャクチャにしてやる』との事で、勇者イタヤが斬り捨てた瞬間に魔人の体から様々な武器が飛び出していきました」

「勇者アシノの言う通りでございます。私も咄嗟(とっさ)にそれを止めようとしましたが、一瞬の出来事でして、面目次第もございません」

 その報告を聞いて王はうーむと目を閉じて何かを考える。そして、話し始めた。

「カミトよ、例の剣を」

「はっ」

 そう言われてカミトは持っていた一振りの剣をアシノとイタヤの目の前まで持っていく。見届けると王が語る。

「これがその日王都へ落ちた剣の一つだ。発見した都民は手に触れた瞬間に倒れたそうだ」

 王の言葉にカミトが付け加えて言う。

「騒ぎを聞きつけた兵士も、剣に触れてしばらくして倒れてしまった様です。私も持って分かったのですが、この剣は魔力の伝導率が凄まじく良いものです」

「もしかすると、魔剣の類ですか?」

 アシノが尋ねると王がゆっくりと頷いて、代わりにカミトが話し続けた。

「えぇ、王都の研究員によると、限りなく魔剣で間違いないとの事でした。王、失礼ながらよろしいでしょうか?」

「構わぬ、抜け」

「承知いたしました」

 王の許しを得て、カミトは抜剣した。瞬間、剣を冷気が包み、白いモヤが溢れ出た。

「この様に冷気が溢れ、試し切り用の魔物を斬りつけると、凍りついて粉々になりました」

 アシノは驚いた顔を作り、言う。

「魔剣で間違いないでしょうね……」

 うむ、と王は頷いてから、勇者たちに命令を出す。

「この魔剣の様な物が、他の国や反乱分子の手に渡っては危険だ。そこでだ、お前達にはこの魔人の生み出した道具の回収を命じる」

「承知いたしました!!!」

 勇者達は返事をする。

「作戦はカミトに伝えてある。良い働きを期待しておるぞ」

「はっ!!! 失礼いたします」

 返事をして勇者パーティは王の間から退出した。

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