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記憶の中

「最初は驚いたが、不思議と受け入れることができたので気にはしてなかったわ。
でも、ある日を境に身体が女になってたから原因を突き止めないとと思ってた時に貴方と出会った」
そこで出会った時から一目惚れしていたことを告げられると同時に告白された俺は舞い上がっていた。
そして、初めて唇を重ねた後、互いの身体を求め合い一つになった俺たちはお互いを満たし合うことができたのだ。
その後、二人が結ばれてから数十年が経った頃、身籠ったことが分かるとお互いの親に報告したところ、
喜んでくれたことは言うまでもなかった。
また、その後に生まれた子供たちにも恵まれたことで幸せそうな姿を目にした時は自分のことのように嬉しかった。
そして、これからも幸せな日々を送り続けて行けることに感謝した俺であった。
あれから数年が経過した後、大きな産声をあげた子は女の子だったようで元気よく泣き声をあげていた。
その姿を見て安堵すると同時に嬉しさが込み上げてきた。
その後も続々と誕生していく我が子たちを順番に抱いては成長していく姿に感動しつつ、
俺はこの国を発展させていき、子供たちを育てながらも幸せな生活を送っていた。
しかし、ある時事件が起こったのだ。
俺の妻であるリリア王女が病に倒れてしまったのだ。
いくら呼んでも起き上がらずに反応もない様子で焦った俺は必死で看病し続けたのだが、
病状は全く良くならず最悪の結果を迎えてしまった。
リリアが死んだという連絡が入ってきた時、目の前が真っ暗になっていくような感覚に襲われた。
まさか妻が死んでしまうとは思っておらずショックのあまり言葉が見つからず呆然としていたが、
いつまでも立ち止まっておくわけにはいかないのでとりあえず葬儀をする為に家族全員で駆けつけたのであった。
その時になって初めて実感したことだが、これからはリリアのことは忘れられそうにないという事を心の中で確信していたのだった。
葬儀が終わった後、リリアのことを想いながら中庭を散歩していると、何かに呼ばれた気がしたので振り返るが誰もいなかった。
不思議に思っていると目の前に現れたのは、なんと王女だった。
俺は驚いて声も出なかった。
何せ死んだはずの人物が目の前に立っているのだから驚かないはずがないだろう。
そうすると、彼女は微笑みながら声をかけてきたので咄嗟に返事をすると、次の瞬間には抱きしめられていた。
いきなりのことに戸惑ってしまい、狼狽えているうちに今度は唇を奪われたと思ったら舌を入れられてしまい
混乱している間に身を預けてしまったのであった。
そして、それからというもの毎日のように彼女と肌を重ね続けた結果、次第に愛着が湧いていき結婚するまでに至ったのだ。
しかし、後に真実を知ることになってしまうとはこの時はまだ知る由もなかったのである。
ある日のこと、いつも通り騎士団で訓練をしている最中だったのだが、
その時ふと視線を感じたので周囲に目を向けてみると、そこにはリリア王女の姿があった。
気になって近づいてみると、彼女も俺に気づいて駆け寄ってきたのだった。
そして、突然抱きしめてこられたが驚きはしたものの悪い気はしなかったので受け入れることにしたのだが、
その時になぜか違和感を覚えたのである。
何故か彼女の身体から懐かしい感じがしたからである。
そんな事を考えていた時だった。
近くにいた騎士たちが、一斉に慌て出したと思ったら地面に這いつくばりだしたのである。
その様子を見て驚いた俺が見渡した時に最初に見たものは恐ろしい表情をした彼女と視線が合った瞬間、
視界が暗転して意識を失ってしまった。
気が付くと俺は、知らない場所を彷徨っていた。
周囲を観察するために移動し続けているうちにふと気が付いたのだが、自分の姿が全く見えないことに愕然とした。
まさかと思い体に触れてみるとやはり何も感じなかったことで、改めて自分が亡霊と化していることを実感した瞬間だった。
その後、あてもなくただ真っ直ぐに歩いていたらやがて森が見えてきて
森に入ろうとしたところで何かに呼び止められた気がして振り返えった瞬間、
再び視界が反転 気がつくとまた別の場所に移動していて、まるで瞬間移動でも起こしたかのように感じるが、
周りを見回してみると見覚えのあるところだった。
ここはリリア王女と一緒にいた城の中庭の風景だったのだ。
そこで俺はようやく確信した。
俺は今現在、リリアの記憶の中にいることに……。
そうと知れば、じっとしている訳にはいかなくなった。
一刻も早くリリアに会うべく探すことにした。
それから数時間経過して夕方近くになった頃、ようやくリリアを見つけたのである。
それも意外な形での出来事だったのだ。
それは、彼女が涙を流している様子だったのだ。
そんな姿を見て心配になり駆け寄ろうとした、その矢先の出来事である。
またしても視界が暗くなって意識を失う羽目になってしまったのだ。
そして、気がつくと辺り一面真っ白な世界で見覚えがある場所だった。
それは、自分が死んだと思った時に見た夢の中で訪れた空間だったのである。
この場所から脱出する方法はないかと思い歩いていると、
先程まで一緒にいたはずのリリアの姿が目に入った気がしたが、
よく見てみると彼女が見ているのは鏡に映った自分自身だったのである。
彼女は、嬉しそうにこちらへ向かって笑いかけた後に消えていったのであった。
その光景を見て何故だか涙が溢れて来てしまい、
号泣していることに気づいた時には自分の意識は無くなっていた。
そこで、ようやく俺は気づいたのだ。
これは今まで起きた出来事は全て俺の空想上の存在だったのではないかと、
思い至ると共に恐怖感が芽生えてきたのである。
それからというもの毎日のようにあの経験を繰り返すことになった。

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