VSラメル 3
「来たね」
朝食を食べている途中でラメルが言った。ミシロは何の事かと首を傾げる。
「カバン、預かってて。絶対に守って」
ミシロにカバンを渡すと、スタスタと窓際まで行き、そのままガラスを突き破って外へと羽ばたいて行ってしまった。
「ラメル様!?」
城から何かが飛び出た。確実に魔人だろう。ムツヤは千里眼でそれを見た。他の皆もゴマ粒のようだが、それが見える。
「ムツヤ!! カバンは持っているか!?」
「いえ、持っでいまぜん!!」
「そうか……、作戦通りに行くぞ!!」
ムツヤは風のように走り、魔人のもとまで行く。その後ろをイタヤ達も着いて行った。
「来てくれたんだね、嬉しい。ダーリン」
ラメルは急降下してムツヤの元まで来る。魔剣ムゲンジゴクを構えてそれを迎え撃った。
「あはっ」
魔剣とラメルの拳がぶつかり合う。激しい衝撃波が辺りに発生した。
そのまま無茶苦茶な戦いが始まった。ムツヤは目にも留まらぬ速さで剣を振り回し、ラメルは躱し、受け止める。
「カバンを返せ!!」
「それは出来ないよー。私達のきょーゆーざいさんにしようよー」
「意味わかんないこと言うな!!」
やっと追いつくとイタヤは指示を出した。
「ムツヤくんの援護に入るぞ!!」
イタヤは聖剣ロネーゼを振るって光の斬撃を飛ばす。魔人も流石に拳で受け止める事が出来ないらしく、さっと上空に逃げていった。
「おじさん邪魔ー」
「おじさんだと!? ふざけんな!! お兄さんだろ!!」
シャッシャと上空にも光の斬撃を飛ばすが、中々狙いが定まらない。ウリハとサワも雷を飛ばして加勢する。
「無駄だよー」
そして、ムツヤが飛び上がると空中戦が始まった。
「ダーリンちょっとおバカ? 羽がないのに空飛んだら不利になるよー?」
ラメルの言う通りだった。ムツヤは飛び上がった後、垂直に落下することしか出来ない。
だが、それはムツヤが自分自身をエサにする罠だった。狙い通りラメルが近付いてくる。
ムツヤはくるりと振り返って魔剣を振るう。それは拳を振りかざしたラメルの左腕を捉え、切断した。
目の前で血しぶきが舞い、ラメルはムツヤと共に落下する。
そのスキを逃さず、地上からは魔法が連続で飛び、ラメルにダメージを与えた。
地上に落ちたラメルはスクっと立ちあがる。
「酷いよダーリン……、私にこんな事するなんて……」
何と泣いていた。ムツヤは心が少し動きそうになるが、イタヤが言う。
「構うなムツヤくん!! 相手は魔人だ!! トドメをさすぞ!!」
「わがりまじだ!!」
イタヤの言う通りムツヤはムゲンジゴクを構えて突っ込み、ラメルに向かって振り下ろした。
が、何とそれは、残る右腕で軽々と受け止められてしまう。
「ダーリン、これって『でぃーぶい』って言うんだよ?」
ムツヤが一旦距離を取ると、切断面から左腕が生えてきた。
「もう怒った。ダーリンとは離婚ね、本気だすから」
ラメルの気配が代わり、青色のオーラを身にまとう。
その頃アシノ達は城の中へと侵入していた。
「ユモト、カバンの位置は?」
地図を拡大させると、城の中にあるのは確実だ。
「城の北側にあるみたいですね」
「そうか、急ぐぞ!!」
手分けして、しらみつぶしに部屋を捜索すると、カバンを持つ少女を見つけた。
「こ、来ないで!!!」
見つけたのは、ヨーリィだ。
「それを、返して」
少女は震えながら剣を構えていた。ヨーリィは1つも動じずにトコトコと歩いて行く。
「や、来ないで!!」
剣をブンブンと振るって威嚇するも、ヨーリィは最小限の動きでそれを避けて少女を拘束した。
「やめて!! ラメル様との約束なの!!」
「ヨーリィ、何かあったのか!?」
悲鳴を聞いてアシノがやって来る。
「お前は……、操られていなそうだな」
少女を見て何か直感的にアシノはそう思った。
「カバンは絶対に守るの!!」
「お前は魔人に騙されている。そのカバンは危険なんだ」
「騙されてない!! ラメル様と一緒に世界をメチャクチャにしてやる!!」
「お前……」
傷だらけの少女を見てアシノは何かを悟った。だが、同情している暇はない。
無情にもカバンを取り上げると、少女をそのままにし、走る。
「待てええええ!!!!」
少女の叫びだけが部屋にこだました。
「ムツヤ!! カバンは取り戻したぞ!!」
アシノが言うとムツヤと共にラメルも振り返った。
「それはー、渡さないよー」
ラメルが急降下してアシノに近付く。ムツヤはそれよりも速く走り、振り下ろされた拳を受け止めた。
「このっ!!」
ムツヤはそのまま拳を握り、ハンマー投げのようにラメルを振り回して城の壁に激突させる。壁は崩れ、ラメルは生き埋めになる。死んではいないだろうが……。
「ムツヤ!! カバンは開くか!?」
ムツヤは投げられたカバンを掴むと、渾身の馬鹿力で開けようとしたが。
「!! ダメでず! 開きません!!」
「クソっ、融通の効かない邪神様だな!!」
「どうしますか、アシノ殿」
「ムツヤ! 魔人を倒せそうか!? すぐに、正直に答えろ!!」
アシノが言うとムツヤはすぐ返事を返した。
「わがりまぜん!!」
「よし、分かった。こういう時はな……」
まさかとモモ達は思う。
「逃げるんだよォ!」
やっぱりかと思い、急いで全員城と反対方向へ走っていった。
イタヤはこちらに向かって走ってくるアシノ達を見て驚く。
「アシノさん!? どうしたんだ?」
「カバンは手に入れました! しかしムツヤにも開けられません。一時退却します」
アシノに言われるが、イタヤは首を横に振る。
「それは……、それは出来ねぇ!! ここで勇者が魔人から逃げちまったら、アイツは何をするか分からない!!」
「魔人の狙いはカバンです。我々を追いかけてくるでしょう。カバンさえ開ければ優位に戦うことが出来ます」
「アシノ様の言う通りだよ!! ここで戦って全滅でもしちまったらそれこそ誰が戦うんだい!?」
イタヤは悔しそうな顔をしてから、グッとこらえて撤退をした。
城の瓦礫の中でラメルはクククと笑い、それから大きな声を出して笑った。
「やっぱり人間ってバカだなー。これでもうカバンは私のものだよー?」